オックスフォード大学の科学者たちが、仮想のプロトタイプを使って、バクテリアの自然な動きに円柱状のローターを回転させ、安定的に電力が得られることを立証した。
その研究はScience Advances誌に載り、バクテリアの群(む)れのランダムな動きを組織化して、生物が駆動する発電プラントを得られることを示した。それはまるで、微細なウィンドファームのように。
研究者たちによると、このシステムを利用した顕微鏡的サイズのエンジンにより、将来は、光スイッチやスマートフォンの部品(マイクロフォンなど)、人間の作るデバイスを、自分で自分を組み立て、電力も自分で作り出すタイプのものにすることができる。
共著者の一人、オ大物理学科のTyler Shendrukはこう述べる: “いちばんすごいのは、システムが自分で組織化することだ。その不思議な形をしたローターは、人間技術者が設計したものではない。それらはただ、平滑なディスクであるにすぎない”。
彼のほかにSumesh Thampi, Amin Doostmohammadi, Ramin Golestanian, Julia Yeomansらから成る研究者チームは、顕微鏡的サイズのローターのまわりを浮遊して泳ぎまわるバクテリアをシミュレートした。またシミュレーションではなく実際のバクテリアを使用する実験では、Shendrukによると、大腸菌を使うことが多い。
Shendrukの説明によると、多くのバクテリアが一緒に泳ぐときには、彼らは群れを成してランダムな渦(うず)状の流れを駆動する。それを科学者たちは“動的乱流(active turbulence)”、と呼んでいる。このような即興的な流れに、何か役に立つことをさせるのは、面倒で難しい。彼ら自身は、あまりにも無秩序だ。たとえばコンピューター上の動的乱流のシミュレーションでも、一つの自由に回転するディスクを同定することは困難だった。“それはハリケーンの中に置いた風向計のように、ランダムにスピンしていたからだ”。
鍵となる発見は、ローターの全配列を動的乱流の中に置くことだった。その配列のおかげで、回転が自ら組織化される。“配列中のローターがそれぞれ互いに逆方向に回転しているのを見たときには、自分でもびっくり仰天し、こいつはクールだ!と思った”、とShendrukは思い出を語る。
チームは、ローターが互いに十分に接近していれば、シミュレーション中のローターはどれも恒久的にパターンに従うことを発見した。しかしそのシステムが作り出したのは、あまりにも微少な電力だった。
“現状では、スマホの充電なんかとても考えられない”、とShendrukは語る。“われわれがやってることがどれだか小さなことかを理解していただくために申し上げると、この前バクテリアの群れによる顕微鏡的サイズの発電機が作り出した電力は、推定で1フェムトワットだった”。
1フェムトワットは、1.0⋅10-15 ワットだ。
“ローターの巨大な配列でもまだ携帯電話の駆動はできない。しかし、細胞を作り出したり、小さなマイクロボットを動かす微小流体工学的な(microfluidic)デバイスに、微小な電力を供給することはできるだろう”、とShendrukは語る。“誰かがそれを実験的に作ることは十分にありえるし、そうなれば、ほんとにすばらしいね”。