ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

Michael Rosnach, Keel Yong Lee, Sung-Jin Park, Kevin Kit Parker

米ハーバード大学ウィス研究所の研究チームが、ヒトの心筋細胞の性質を利用し、自動的に泳ぐロボット魚を作り上げました。このロボット魚は、ヒトの幹細胞から培養して作り出した心筋細胞を、魚の形をしたゼラチン製模型の脇腹に埋め込んだもの。心筋細胞は糖分を動力源として、心臓が鼓動を打つように収縮をリズミカルに繰り返す性質を持っており、それがここでは魚の泳ぐ動作を生み出します。

筋肉はイオンの流入で収縮をする性質を持っています。これは通常、神経インパルスがトリガーとなって起こります。しかし、研究者はロボット魚に対して特定の波長の光に反応してイオン流入を起こす、光活性化イオンチャンネルのはたらきを持つタンパク質をいくつか発見し、ロボット魚の両脇の心筋細胞の一方が青い光で、もう一方が赤い光で収縮するように仕組みました。これにより、ロボット魚に青と赤の光を交互に当てることで、身体を左右にくねらせ、泳ぐ動作を誘発できました。

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

Michael Rosnach, Keel Yong Lee, Sung-Jin Park, Kevin Kit Parker

また、研究者らは別の方法も作り出しました。それは心臓の構造から着想を得たもので、2つの脇腹の心筋細胞を中央で繋ぐ心筋細胞の球を作り、それが収縮を制御するペースメーカーの役割を果たすような仕組みです。この方法では、ペースメーカーとなる中央の細胞で始まったイオンの流入が両脇の心筋細胞に拡がり、収縮を引き起こすようになっています。

この方法の場合、普通に考えれば両脇の筋肉が同時に収縮するかとも思われますが、実際にはどういうわけか両側の細胞が互いに収縮するタイミングを調整するようになりました。心筋細胞は筋肉が収縮をした時、伸長を促すための受容体が活性化されることで、伸ばす動作に転じる性質があります。この性質によって、右側の筋肉が収縮をした際に反対、つまり左側の細胞が伸び、次のサイクルでは左が収縮した際に、右側の細胞が伸びるようになりました。この動作は、それぞれが勝手に動いていれば周期のズレからだんだん同期が取れなくなっていきますが、中央のペースメーカーとして機能する細胞が、左右それぞれの動きの同期を保つ役割を果たしました。

このロボット魚は、上のようなやり方で3か月にわたって壊れることなく泳ぐ動作を続けることができました。しかも、製作から1か月の時点までは心筋細胞の成長により筋肉が増強して性能的な向上がみられ、1秒間にその体長よりも長い距離を泳げるようになったとのこと。

この研究で生み出されたバイオロボット魚は、鑑賞するぶんには多少面白いかもしれませんが、将来的に何らかの用途に使うことを想定したものではありません。それでも、ヒトの心臓は死ぬまでに数十億回拍動を繰り返すことから、非常に高い耐久性を必要とする用途に応用するための可能性が、この研究によって少しは拡がったと言えるかもしれません。

(Source:Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering at Harvard UniversityEngadget日本版より転載)

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TechCrunch Japan

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