ビジネスとして成立するまで資金調達は不要――自己資金経営のススメ

【編集部注】執筆者のZach AbramowitzはReplyAllの共同ファウンダーでCEO。

Yaron Ben ShaulがCEOを務めるHometalkは、もともと業者検索サービスNetworxのユーザー向けのエンゲージメントプラットフォームとしてはじまった。

その後、HometalkはDIY(日曜大工)コミュニティのためのソーシャル・ネットワークへと変化していき、今ではニューヨークにオフィスを構え、イスラエルに開発センターを置いている。

「テクノロジーの力によって、人は手で何かを作ったり直したりする能力を失いつつあります」とBen Shalは話す。「Hometalkはテクノロジーを利用して、逆にDIYのスキルを共有できるような場をつくろうとしているのです」

DIY好きな人は、Hometalkで自分の家のプロジェクトに関する情報を投稿すれば、気の合う仲間からフィードバックをもらったり、掲示板で質問を投げかけたりできる。そのようにして集まったユーザージェネレイテッドコンテンツがPinterestのような見た目のサイト上に並べられ、誰もがDIYのアイディアを見つけられるHometalkを構成しているのだ。

DIYは一見ニッチ分野のように映るが、現在のHometalkのアクティブユーザー数は1500万人で、月に3億PVを記録しているほか、昨年7月からの動画のオーガニック再生数は6億回におよぶ。Yaronによれば、2016年の売上は数百万ドルで、2017年は1500〜2000万ドルの年間売上を予定しているという。また、現在Hometalkは主にプログラマティック広告から収益をあげているが、今後はスポンサードコンテンツの制作やオンラインショップの開設も行うとのこと。

Hometalkはどのようにして自己資金だけでここまで成長できたのか? そしてHometalkとDIY業界の未来はどうなるのか? CEOのYaron Ben Shaulに話を聞いてみた。

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Zach Abramowitz(以下ZA):今日は取材に参加してもらって、ありがとうございます。

まずHometalk以前に、YaronはAlfyというスタートアップを過去に立ち上げていて、実はこの会社はVCから何千万ドルという資金を調達していましたよね。Alfyでのどういう経験から、Hometalkでは外部調達に頼らずに自己資金で全てを賄おうと思ったんですか?

Yaron Ben Shaul(以下YBS):こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。

Alfyを立ち上げた頃は、まだ起業家としての経験が足りなかったこともあって、「従業員数・調達金額=会社の成功度合い」と考えていました。しかし問題だったのは、資金調達前にプロダクト面でもビジネスモデルの面でもまだまだやれることがあったのに、私たちは焦ってスケールしようとしていたんです。もし、しっかりとした基盤を当時築けていれば、もっと大きな成功をおさめていたと自信を持って言えます。

そんな経験があったので、Hometalkではリーンスタートアップモデルを採用し、外部調達について考える前に、プロダクトマーケットフィットを目標にテストや改良を続けました。

ZA:なるほど。でもプロダクトマーケットフィットはどんなスタートアップにとっても課題だし、プロダクトマーケットフィットに至ったと勘違いして、早過ぎる段階でスケールしようとする企業もたくさんいますよね。

Alfyはプロダクトマーケットフィットに到達していたと思いますか? それとも全くそんなこと考えていませんでしたが? また、早過ぎる段階でのスケールを避けるために、プロダクトマーケットフィットを客観的に判断できるような指標や定義はありますか?

YBS:良い質問ですね。Alfyは”プロダクトマーケットフィット”には達していたと思いますが、”ビジネスマーケットフィット”には届いていなかったと思います。

顧客は私たちのプロダクトを気に入って使ってくれていましたが、会社を長期的に支えるほどの売上には繋がっていませんでした。月のバーンレートは約100万ドルで、Alfyが持続可能な企業へと自然に成長するのに十分なほど、マネタイズがしっかりできていませんでした。

ZA:もしも起業家がスケール前のビジネスマーケットフィットを意識するようになれば、スタートアップが失敗する確率は下がると思いますか?

YBS:間違いないでしょうね。ビジネスマーケットフィットとは、カスタマーエクスペリエンスとビジネスモデルが両立している状態を言いますから。

具体的な数字があるわけではありませんが、ビジネスマーケットフィットを目指している企業が成功する確率は、そうでない企業よりも高いと思います。もちろんイテレーションは必要になりますが、持続可能な売上モデルが構築できなければ、究極的にはそのビジネスは単なるバブルでしかありません。カスタマーエクスペリエンスの向上に注力しているスタートアップはたくさんありますが、ビジネス面がおろそかになると、いずれ行き詰まってしまいます。その結果、業績が落ちて従業員を解雇せざる得なくなり、ギリギリのタイミングで必死に新たなモデルを模索するようになってしまうんです。これは本当に残念なことです。顧客価値を中心に据えながらも、最初からビジネスマーケットフィットを目指せば、企業が長期的な成功をおさめる可能性は高まります。

ベンチャーキャピリストは、その逆を言うことが多いですけどね。Hometalkでは、ビジネスモデルのことは忘れてユーザーのことだけを考えろ、と投資家に言われたこともありましたが、自らの経験からそのアドバイスには従いませんでした。

ユーザー価値の向上という、企業の目的の半分にしかあたらないことに全ての力を注ぎ込み、いつかビジネスとしても成り立てばいいなという考え方で何年間も無駄にしている起業家を、私はこの目でたくさん見てきました。しかし、最適なビジネスモデルを構築するには、現存するプロダクトを段階的に改善するだけでは不十分なことが多く、実際はかなり大きな変化が必要になるということに彼らは気づけていないのです。そして、それに気付くのが遅すぎると、会社の存続さえ危ぶまれることになります。

ZA:では、多くの起業家が誤った指標を追ってしまっているということですか?

YBS:多くのB2C企業のファウンダーは、WhatsAppやSnapchatのように、ビジネスマーケットフィットに達しないままデカコーン企業(評価額が100億ドル以上の非上場企業)になった特別な企業を例に出し、プロダクトファーストの姿勢を正当化しています。そうすると、顧客価値だけを気にしながらつかみどころのない評価額を追い求めるのは間違っていないんだ、と感じてしまうんです。しかし、統計的に見れば、WhatsAppやSnapchatのような企業は例外中の例外です。私は、起業家が成功する確率が高まってほしいと考えているのであって、彼らに100万分の1の確率を追い求めてほしいわけではありません。彼らには、まず本当に1億ドルの価値があるビジネスを構築して、それから10億ドル企業を目指すようにしてほしいんです。

つまり私は、長い時間をかけてでもきちんとビジネスマーケットフィットを目指そうとする企業ほど、長期的な成功を早く手に入れられると考えています。

ZA:外部資金を調達せずに企業を経営する上で、B2BかB2Cかは関係ありますか?

YBS:関係ありません。

ZA:HometalkはNetworxの一部としてローンチされましたよね。いつ頃、Hometalk単独でもやっていけると気づきましたか?

YBS:ご存知の通り、HometalkはNetworxのためのエンゲージメントプラットフォームとして開発されました。もともとは、工事業者の人たちが家や庭の改修プロジェクトに関して書いたり、DIYのコツをサイト上で共有してくれるのでは、と考えていたんです。

実際どうだったかと言うと、コンテンツ面で工事業者の人たちはあまり頼りにならず、むしろコミュニティメンバーが生み出すDIY関連のコンテンツの方が価値があることがわかりました。それに気づいてからは、すぐにHometalkをNetworxから切り離し、ユーザー同士が自分たちの経験談を共有し合うユーザージェネレイテッドプラットフォームへと方向転換したんです。

ZA:その後、外部から資金を調達しようとは思わなかったんですか?

YBS:以下の理由から、資金調達はしたくなかったんです。

1. 当時私たちにとってもっとも価値のあった資産は、会社の自主性と俊敏さでした。外部から(特にアーリーステージで)資金を調達していたら、その資産を手放すことになっていたでしょう。ビジネスマーケットフィットに到達してから資金を調達すれば、自分たちが何者かを解明するためではなく、会社のスケールのためにお金を使うことができます。

2. これは個人的な理由ですが、私は評価額に見合ったビジネスを構築できたと自分で100%の自信を持って言えるようになるまで、他人のお金をリスクにさらしたくないんです。誰かに投資してもらうということには、とてつもない責任がつきまといます。他人のお金よりも自分のお金をかける方がずっとマシです。リスクが桁違いに大きいアーリーステージでは尚更そうです。

3. 早期に資金調達を行っていたら、目の前のことしか見えなくなっていたでしょう。というのも、VCはすぐに結果を求めますからね。しかし私の経験から言えば、自分の会社を長い間存続させたいと思うのなら、長期的な視点を持たなければいけません。

ZA:自己資金だけで夢を叶えようとしている人たちに何かアドバイスはありますか?

YBS:以下が私からのアドバイスです。

・アーリーステージでは、スケールしようとする前に顧客価値と売上が両立するようなビジネスを模索し(スケールのタイミングが早すぎると基盤となるビジネスが安定しなくなる)、顧客とビジネスモデルだけに集中する。

・コストは可能な限り低く抑える。私たちがオフィスをロサンゼルスからワイオミング州のキャスパーに移したときは、引っ越し業者に頼むお金がなかったので、私がトラックを借りて自分で引越し作業をしました。交通費を抑えるために、長い時間かけて陸路で移動し、一泊30ドルのモーテルに泊まったことも何度もあります。今では美しいオフィスや素晴らしい業績を披露できますが、その裏側には10年間におよぶ苦労が隠れているんです。

・形だけの指標にとらわれず耐え忍ぶ。Networxを設立してから3年間は、従業員が1人しかいませんでした。

余計なリソースがなければ、コアビジネスに集中せざるを得なくなり、顧客とビジネスモデルに直に取り組むようになります。つまり、外部資金を調達しない場合、組織のための長期的な展望(投資家との関係性や従業員数など)よりも、ビジネスの中核について深く考えなければいけないのです。

そして最後に、恐らくこれが1番重要なことだと思いますが、全ては最高のメンバーを見つけられるかにかかっています。

ZA:予算が限られている中、どうやって優秀な人材を集めることができたんですか?

YBS:ハイテク人材を雇うお金がなかったので、そもそも彼らのことは狙っていませんでした。人柄を中心に候補者を選別していくしかなかったんです。そのためNetworx・Hometalkのどちらに関しても、高く評価されている社員のほとんどは、いわゆる輝かしい履歴書の持ち主ではありません。しかし、一般に良いとされる経歴を持っていない人の中には、自分の価値を高めようと必死に頑張って成功をおさめる人もいます。

まだオフィスがウェストハリウッドにあったころは、8:00から東海岸の業者とコンタクトをとるために、朝の4:15に私が社員第一号を迎えに行き、こちらの時間の5:00には彼がコンピューターを立ち上げていました。彼の履歴書はなんら特別なものではありませんでしたが、彼の運転スキルはすさまじかったですよ。

ZA:自己資金経営のデメリットは何でしたか?

YBS:創業から数年間はプライベートの時間がとれません。1日中働き詰めで、全て自分でやらなければいけないのです。

しかし、それとは比較にならないほど大きなメリットがあります。私は初めて75ドルのクレジットカード決済を(FAXで!)したときのことを今でも覚えています。誰かが私たちのサービスのために、本当にお金を出してくれたんだというのがわかった瞬間でした。ひとつめのスタートアップで経験したどんな資金調達ラウンドのクローズよりも、その決済の瞬間の方が嬉しかったですね。

ZA:VCからにしろ別の手段にしろ、いつかHometalkでも資金調達を行うと思いますか?

YBS:ちょうど今、VCだけでなくプライベートエクイティファンドからの調達についても考えているところです。ようやくビジネスマーケットフィットを達成できたと感じられたので、現在はスケールの手段を模索しています。

ZA:Hometalkに話を移すと、これまでにローンチされたさまざまなニッチ分野のソーシャルネットワークとDIYソーシャルネットワークの違いは何ですか?

YBS:DIY市場のニーズは極めて細分化しており、ユースケースも多岐にわたります。そこが1番大きな違いですかね。ある人は簡単に掃除したいだけだと思っていれば、ある人は家全体を改築したいと考えていることもあります。また、ある人はニューヨークに、別の人はアトランタに住んでいて、それぞれの家の素材や気候、地形が違うということもあるでしょう。

そのため、誰に対しても価値あるアイディアやツール、知識を提供できるようなプラットフォームを構築するには、ユーザー全員が自分の経験や知識をコミュニティのために共有するクラウドソーシングモデルしかないんです。簡単にいえば、DIYコミュニティのニーズは常にあったということです。

さらに、自分の手を使って何かをするという人間の能力は、かなりのスピードで衰えていっています。Hometalkのゴールは、コミュニティのメンバーがお互いのスキルを高め合えるような場をつくるということなんです。

私の経験上、たとえ数か月の間であっても、脳のある部分を使わなければその能力は無くなってしまいます。例えば、私はWazeを使い始めてから、方向感覚を失ってしまいました。それと同じように、人間は自分の手を使う能力を失いつつあるんです。私たちは、Hometalkのユーザーが金銭的なメリットを享受するだけでなく、自信とノウハウを取り戻す姿を見てきたため、色んな人にDIYを勧めたいと考えています。DIYで学んだことは、他の分野でもきっと役立ちます。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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