編集部記:Phillip Kimは、ビットコインウォレット事業とビットコインの決済処理を行うSnapcardのマーケティングアナリストだ。
「最初は無視をする。」
最初の数年間、ウォール街は反応を示さなかった。The Wall Street Journalは、2011年6月のブログ投稿 までビットコインに触れることはなかった。ビットコインのコミュニティーはアメリカの金融を支配する者達のデジタル通貨に対する反応を待った。有力なビットコインの支持者や熱狂的なファンは、彼らが反応を示さない理由について憶測した。ビットコインを真に受けていないから反応がないのでは?ビットコインの潜在的な力に恐れおののいているのでは?一時的なトレンドだと考えて気に留めていないのでは?ビットコインが主流となるのを避ける手立てを考えているのでは?確かなのは、ウォール街は彼らの仕事を奪う可能性のある新しい技術について無知では無かったということだ。
2013年の12月、Bank of America Merrill Lynchはアメリカの銀行の中で初めてビットコインに関する報告書を発表し、事態は動きを見せた。報告書の名称は「 Bitcoin: A First Assessment (ビットコイン:最初の考察)」だ。その中で、ビットコインについて「eコマースにおける主要な決済方法になりうる」と評し、さらに「既存の送金事業者と真っ向から対抗するものになりうる」とした。また「ビットコインが成長することは明白だ」と記し、ビットコインの利点についての包括的な分析が載せられた。
この報告書はウォール街が新しい技術を取り込むことを信仰者に少しだけ期待させた。JPMorgan Chaseが同じ月にビットコインに類似する独自の暗号通貨の 特許を申請したことも彼らの希望となった。
「やがて嫌悪に変わり、対決へと向かう。」
2014年1月、JPMorgan ChaseのCEOであるJamie Dimonは、ビットコインのファンではないと明言し、その希望をかき消した。そのすぐ後にも同社はビットコインを痛烈に批判する報告書を発表し、その中でビットコインは通貨の体を成していない「劣悪なもの」だと呼んだ。
Citigroupの通貨ストラテジストであるSteven Englanderは、クライアントに対しビットコインには3つの大きなリスクに直面していると伝えた。セキュリティの問題、他のデジタル通貨との競争、そして既存金融機関との競争だ。
Goldman Sachsもまたビットコインを報告書の中で攻撃した。「ビットコインの基盤となる決済テクノロジーは成功する可能性を秘めている」としつつも「通貨として機能することは不可能」とした。
3月には、Morgan StaleyのCEOであるJames P. Gormanはビットコインについて「完全に非現実的」と評し、私には理解できないと話した。これらの一連の出来事を受け、ビットコインの支持者はウォール街がテクノロジーを取り入れること以前にビットコインを真剣に受け止めることすらないと確信した。
しかし、すぐその後に事態は急転回する。Morgan StanleyのCEOがビットコインを批判した翌月の3月、同社はニューヨークでビットコインのイベントを開催したのだ。Citigroupは5月にビットコインはデビットカードやクレジットカードの発行元にとって脅威になると報告した。Deliotteはそれまでこの議論については言及していなかったが、2014年の6月の報告で「ビットコインが通貨の進化において次のステップになるのは自然だろう」と伝えた。
ビットコインに注目が集まる年
2015年1月、ニューヨーク証券取引所、USAA、BBVAとCitigroupのチーフエグゼクティブであるVikram Panditは、ビットコインのサービスプロバイダーのCoinbaseに出資すると発表し、世界に衝撃を与えた。その後Coinbaseはアメリカで初となる正式な取引所を開設した。数日後、CameronとTyler Winklevossは完全に統制されたコンプライアンスを順守するビットコイン取引のGeminiをニューヨークでローンチした。Geminiは「ビットコインのNasdaq」と呼ばれることもある。
3月には、NasdaqはNoble Marketsを支持するとし、既存の投資家が株の取引と同じようにデジタル通貨に投資できるツールを提供することを発表した。Goldman Sachsは同じ月、ビットコインは金融の未来を形作ると報告書で伝え、前年度から比べるとずいぶんと前向きな態度を示した。
公式な報告書より如実にビットコインを支持する風潮を感じるのは、ウォール街がデジタル通貨に精通した人を雇用する動きを見せていることだ。今年の1月、金融業界に特化した人材紹介会社であるGlocapはサンフランシスコのヘッジファンドでの「ビットコインのジュニアトレーダー」の役職の求人を掲載した。JP Morgan Chaseでも「ビットコインや他のデジタル通貨についての助言」ができる 人材を探していて、「将来的に有力金融機関で働くことに前向きな人」が最適だそうだ。当初はビットコインを金融システムへの脅威だと考えていなかったとしても、盛り上がりを見せる分野での優秀な人材の獲得では、他社に出し抜かれることはできないと気づいたようだ。
トレーダーは当初からビットコインに心酔している
新規雇用からもビットコインに惹かれていることが分かるが、権威ある金融企業のトレーダーはすでにビットコインに魅力を感じていたようだ。2012年には、ウォール街のトレーダー間でのビットコインの人気は高まっていて、Morgan StanleyやGoldman Sachsの従業員は、ビットコイン取引のウェブサイトに日に30回もアクセスしていた。
さらにウォール街の支持者たちはビットコインの認知度を高めるために集まった。2014年9月、Digital Currency Council がマンハッタンに設けられ、金融業界のプロ向けの教育、コンサルティング、トレーディングの提供が始まった。2015年3月、ウォール街の職員は「デジタル通貨時代にウォール街に提言するグループ」とするWall Street Bitcoin Allianceを結成した。
ウォール街が変化する環境に適応しようともがく中、有力な銀行員や役員の中には高名な仕事を辞め、ビットコイン企業へと行く者もいた。
2014年12月、JP Morgan Chaseのグローバル取引のリーダーを務めていたPaul Campは、デジタル通貨のウォレットサービスを展開する企業CircleのCFOに転身した。グローバルコモディティのリーダーを務めていたBlythe Mastersも同様にJPMorgan Chaseを2015年3月に去り、ビットコインの技術を活用して金融機関の取引の効率化を目指す Digital Asset HoldingsのCEOになった。4月にはMorgan StanleyでインベストメントマネージャーだったJacob Dieneltは、ビットコインの監査企業Factomの財務を率いる立場となった。業界のベテランがデジタル通貨へのパラダイムシフトを認識するほどにこのリストは続く 。
ビットコインとウォール街の明るい未来
先月、Noble Marketsに投資しているMatthew RoszakはInside Bitcoinsにこう話した。「ウォール街にあるホワイトボードでビットコインと書かれていないものなんて一つもない」。
ウォール街とビットコインの初対面での印象は決して良いものではなかったが、両者の関係は始まったばかりだ。両者は互いの足を引っ張るのではなく、高め合うことができるはずだ。ウォール街の影響力でビットコインを主流となるよう押し上げることができるだろうし、ビットコインは銀行が効率的で信頼できるサービスを提供することに役立つだろう。
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