1人1人の嗜好や感性を抽出して学習する技術を開発しているカラフル・ボードが今日、三菱食品との提携を発表して、「グルメ人工知能」プロジェクトを開始した。
もともとカラフル・ボードはファッション分野でアプリ「SENSY」を提供している。「好き」「嫌い」「好き……かも?」「いや、これはないな」という感じで、次々と提示されるファッションアイテムを分類していくうちに利用者の嗜好性を学習するアプリだ。学習していくにつれて好みにあったファッションアイテムやコーディネートを提示してくれる。SENSYは2014年11月にローンチして、これまで約7万アカウントとなっているほか、2015年9月には店頭接客サービス、同11年にはEC接客サービスも開始している。
今回の三菱食品との提携では、同様の学習を「パーソナルな味覚」に適用する。まずはワインの売り場向けソリューションや消費者向けのワイン管理アプリなどとして提供を目指すという。
ワインで精度は出るのか?
カラフル・ボード創業者でCEOの渡辺祐樹氏によれば、ファションとグルメで使う技術の根幹は同じ。一方が画像と、それに付随する言語的特徴を入力データとして「色味が似ているか」「柄として何が好きか」「形はどういうのがいいか」「トップスはどいう色が好みか」などを学習していく。周辺技術としてChainerやTensorFlowなど既存オープンソースの機械学習ライブラリも使っているが、コアとなるエンジンはカラフル・ボードが独自開発している階層型のCNNを使っているそうだ。
面白いのは、このCNNが学習した個々人のファッションの「好み」というのが箇条書きのアンケート用紙で集められるようなものではない、ということ。特徴ベクトルは数万次元となっていて「好み」は、再び人間が分かる言語に書き下すことはできないという。もっとも、猫の顔を認識する深層学習だって言語的に書き下せるものではないので、それと同じことかもしれないのだけど。
アイテムのレコメンドでは従来ECサイトなどでは協調フィルタリングが広く使われてきた。商品の特徴と複数ユーザーの類似性を分析して、「あなたに似た人はこれを気に入ってますよ」とオススメするやつだ。ただ、この方式だと精度をあげるのに多くの次元数が必要となることや、まだ誰も飲んでないワインや新商材といったものに適用できない「コールドスタート問題」がある。
もともとSENSYはローンチしたときから同じエンジンを使って多ジャンルに適用していくとしていたが、画像データや視覚ではない味覚のような曖昧なもの、ましてワインなどという主観の強く入った嗜好品で有用な分析やレコメンドなど可能なのだろうか?
渡辺CEOによれば、言語的記述と、テイスティング後のユーザーのフィードバックから十分に有用なエンジンが作れるだろうという。「有用」というのは、まだ飲んでいないワインについて、そのユーザーが気に入るかどうかを判定するということだ。渡辺CEOによれば、現実問題としてワイン売り場やチーズ売り場、あるいはスパイス売り場の人たちは困っている、ということもあるそうだ。何十種類もある嗜好性の強い食品の売り場担当者として、ユーザーの好みを聞きだして接客するのは難しいことだろう。
SENSYと三菱食品は7月5日には東京流通センターで、こうしたパートナー向けのデモを行うそうだ。今後はワインに絡めて献立の組み合わせを提示する機能やレストラン案内のチャット機能を実装していく、という。
カラフル・ボードは2011年11月設立。2015年にACAが運営するアジアグロース2号ファンドや国内事業会社かどから1..4億円の資金調達を実施している。渡辺CEOは慶應義塾大学でシステム工学を専攻して、人工知能アルゴリズム研究をしていたことがあるそうだ。