ファーウェイ、フォックスコン、TSMCに関する発表を経て米中貿易は新時代へ

トランプ政権発足以来、米中貿易の前線から絶え間なくニュースが飛び込んでくる。トランプ大統領は中国経済からの切り離しをぶち上げたかと思えば引っ込める。毎週変化する米国の関税政策に伴う貿易摩擦、ZTEとHuawei(ファーウェイ)に対する圧力Qualcomm(クアルコム)とNXPに対する中国からの反応(未訳)、中国企業による米国のスタートアップ・通信インフラ投資に対する新たな制限の発動(未訳)と、ニュースに事欠かない。

新型コロナウイルス(COVID-19)とそれに続く世界的な経済崩壊により、争いの多くは後回しにされた。パンデミック最悪期直前の米中間の暫定合意は幅広い支持を得たように見えた。世界の2大超大国の経済指標が悪化し始めていたからだ。

そして5月11日の週を迎え、ほとんどすぐに米中貿易の緊張緩和は吹っ飛んだ。ひと晩で、米中間貿易の姿を近い将来変えそうな3つの重要な物語が進行した。水面下にはさらに多くの物語が潜んでいる。

第1に、商務省から5月15日午前、特定の戦略的半導体の製造工程においてファーウェイが米国のソフトウェアとハ​​ードウェアを使用することを禁止するとの発表があった。これは、中国の大手チップメーカーであるファーウェイの競争力と技術力の増大を抑える狙いだ。また政府は前日、ファーウェイとZTEに対する禁輸措置の延長も発表した。

トランプ政権は大統領就任のほぼ初日からこうした動きをちらつかせてきた。商務省は中国企業に「戦略的に的を絞る」という言い回しを使った。中国を代表するテクノロジー企業としてのファーウェイの重要性が誇張されすぎることはなく、2つの動きは回復しつつある中国経済への直接的な攻撃だとすでに認識されている。

第2に、TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)から夜間に大きな発表があった。TSMCは世界最大のチップファウンドリー(受託生産会社)であり、最先端のチップを製造できる数少ない会社の1つだ。台湾企業の同社はアリゾナ州に120億ドル(約1兆3000億円)を投資して大規模工場を建設すると発表した。発表によると、この工場は数年後の生産開始時には、世界最先端の5ナノメートルのチップを生産できるようになるという。ワシントンではこの発表の前の数週間、TSMCからファーウェイのような中国本土の企業へのチップの生産・供給を寸断する議論があった。TSMCは、そのようなことをすれば同社の収益性や研究開発投資能力が損なわれると主張していた。

第3に、Foxconn(フォックスコン)が15日午前、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響に伴うスマートフォンの出荷減少により利益が90%減少したと発表した。台湾のハードウェア組み立て企業である同社は、くすぶる米中の貿易紛争に巻き込まれ、ウィスコンシン州に100億ドル(約1兆1000億円)規模の製造工場建設を試みてトランプ氏を喜ばせた(未訳)が、当初の計画は困惑を招きつつ大きく後退し、断念するに至った(未訳)一方、ワシントン・北京間の緊張を一度は緩和した貿易協定の見通しはますます雲行きが怪しくなっているこれらがたったひと晩で起こったのだ。

米中間貿易に関しては非常に多くの個別のデータポイントがあるため、パターンの把握が難しくなりがちだ。政策は強硬になったり軟化したりするが、米中双方は自国の経済成長のため、基本的には貿易の流れを維持しようとしてきた。それはカップリングがどんなものであるかを示している。両国の間には大きな不一致が存在するかもしれないが、それぞれが相手の望むものを持っている。中国は建設と成長を望んでおり、米国は設計と購入を望んでいる。

過去数カ月の新型コロナと米国では今年が選挙の年であることがその図式を変えた。世論調査によると、中国への警戒心が党派を問わず最高記録を更新した。米国経済は激しく炎上し、成長が一時的に停滞し、何千万もの失業者が発生した。これは米国経済に害を及ぼす可能性のあるものは全て、さらに厳しく精査されることを意味する。我々は今、新常態が何をもたらすのかを目撃しようとしている。

今後数週間でデカップリングへの動きが増えるものと思われる。米中いずれも協議の再開に関心はないとのコメントを出しているが、米中貿易協定の再交渉が始まるのはほぼ確実だ。

しかし、本当に興味深く注目すべき点は、チップ産業という戦略的に重要なセクターの本拠地である台湾だ。TSMCの発表は、デカップリングの現実を受け入れ、台湾の安全を米国とリカップリングすることでそれを回避しようとする動きだ。台湾の企業と政治家は他国への技術移転を避けてきた。他国が台湾の技術に依存する状態を作り出し、それが中国本土からの侵略を防ぐ効果を持つことを期待してきた。結局、国防総省はチップを入手できない事態になれば介入せざるを得ないし、そう考えるのだ自然だ。

この新しい世界では、TSMCが米国に工場を建設しても台湾が描くストーリーが崩れることにはならず、むしろ米台間の絆を強化する。仕事、貿易、旅行が増え、最終的にはお互いの重要性をより深く認識することになる。問題はトランプ政権がどこまでそれを進めたいかだ。台湾は2016年までオブザーバーであった世界保健機関(WHO)への再加入を求めている。米台関係はどの程度深いのか。米国は自国の外交的枠組みを超えて、中国の反対にもかかわらず台湾の再加入を強く推すだろうか。

これが今後の展開だ。だがこれから明らかなのは、半導体、インターネットインフラ、テクノロジー分野における何十年にわたる米中間の結び付きは弱くなり、ほとんど消滅しようとしていることだ。サプライチェーンと貿易の新時代であり、この巨大産業への新しいアプローチが必要となる開かれた世界となった。

画像クレジット: MirageC / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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