日本のオープンソース開発者に明るいニュースが入ってきた。Fintechスタートアップのマネーフォワードが日本で有数のオープンソース開発者2人に「技術顧問」「Rubyコミッター職」というポジションを用意して、国産プログラミング言語のRubyの発展に貢献すると発表した。
技術顧問に就任したのはRuby言語と、Rubyを使ったWeb開発フレームワーク「Ruby on Rails」の両方のコミッターである松田明氏。「コミッター」とは、オープンソースのプロジェクトにおいて直接ソースコードに改変を加える権限のあるコア開発メンバーのことだ。
モバイル時代とはいえ、サーバ側のバックエンドにビジネスロジックを組み入れるとなると、PaaSやBaaSで済まない。今でもスタートアップ企業の多くがRuby on RailsやNode.jsを使っていることだろう。松田明氏は、日本人で唯一のRuby on Railsのコミッターとして知られていて、クックパッドやForkwellなど各社サービスのバックエンドの開発においてフリーランス的な立場から技術支援してきた経歴がある。
松田氏はマネーフォワードの技術顧問に就任したと発表があったが、もう1人、Ruby開発者がマネーフォワードに参画するという発表があった。こちらはまだ名前は伏せられているものの、フルタイムの「Rubyコミッター職」というポジションで、来年初旬の入社を予定しているという。これまでセールスフォース傘下のHerokuが、日本人のRubyコミッターをフルタイム採用するという例はあったが、日本企業の、しかもスタートアップ企業が採用するのは聞いたことがない。このコミッター職というのは、その名が示す通りRuby言語の開発が主な業務であって直接はサービス開発に関わらない。これは、かなり思い切った採用だ。
Rubyはまつもとゆきひろ氏によって生み出されたオープンソースのプログラミング言語として1995年から徐々に国内で、そしてRuby on Railsの登場で2000年代半ばからはアメリカを始めとする世界中で人気となった。一方で、Ruby言語については開発の中心メンバーは日本人の有志だけという状態が長く続いていた。2011年にHerokuがRuby開発のキーパーソンである笹田耕一氏や中田伸悦氏を雇い入れるまでは、Ruby言語を開発し、改善していたコア開発者たちは、Ruby創始者のまつもと氏をのぞいては本業のあるエンジニアが空き時間を使うケースがほとんどだった。
一般にスタートアップ企業はリソースに余裕がなく、オープンソースを利用することはあっても積極的に貢献することができないケースが多い。オープンソース開発者の中には、「使うだけ使って何の貢献もフィードバックもしないフリーライダーが多すぎる」と苦言を呈する人もいる。ある程度の売上規模になれば、バグ修正や、ちょっとしたライブラリの公開くらいできるはずなのに、それすらやらないのはイケてないということだ。逆に、今回のマネーフォワードのようにサービスを支える基盤技術と、それを陰で支えている人材に投資をしてコミットメントを示すのは、今後のエンジニア採用という面でも良い方向に働くだろう。エンジニアリングの価値を評価しているという強いシグナルになるし、著名開発者を引き入れることでエンジニアが働きやすい環境であると示すことができるからだ。いずれにしても、日本発のプログラミング言語Rubyに対して国内企業が踏み込んで支援するというのはすばらしいことだと思う。
(情報開示:この記事の著者、TechCrunch Japan編集長の西村賢は、松田明氏とは地域Rubyコミュニティーを通した数年来の友人)