マーケットプレイスの階層、レベル2ティッピングとは

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する ポッドキャスト「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話、マーケットプレイスの作り方、最新テックニュースの解説をしている記事やポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

今回も引き続き、Sarah Tavel(@sarahtavel)さんから許可をいただき、「Hierarchy of Marketplace Level 2」を翻訳させていただきました。前回を読まれてない方はこちらから読めます。

レベル2のティッピングとは?

前回の記事「マーケットプレイスの階層、レベル1キックスタートとは?」では、マーケットプレイスの最も重要なこと、最も長続きできて勝ち筋を作れる方法ははGMVではなく満足度を向上させることを解説しました。

これはマーケットプレイスを作るうえでグロースに専念しないということではないが、そのグロースは満足度を向上させるためのグロースではなければならない。今回のレベル2はまさにその話を解説します。

レベル1での目標がトランザクションをキックスタートさせて「Minimum Viable Happiness」を(実用最小限の満足度)達成することだった。レベル2の「ティッピング」ではその満足度をさらに上げて、市場が自社のマーケットプレイスに傾き始めるぐらい競合・代替品より良いものを提供するのが目標。

「ティッピング」とは、ネットワーク効果が作動し始める瞬間で、新しい満足度レベルになるタイミング。「ティッピング」状態になるとグロースするのが急に楽になり始める。既存コホートのリテンション数字が上がり、各ユーザーからの平均トランザクション数も増える。新規の売手・買手は広告チャネルではなく、オーガニックで入り始める。

これは競合と比べてどれほど市場に入り込めたかによって達成する(ある程度の規模がないとネットワーク効果が生まれないので)。このタイミングでグロースにフォーカスするべき。

レベル1ではスケールしないことをやるべきだったのが、レベル2ではスケール方法を考えるタイミング。

これはやるには売手と買手のマッチングをどんどん良くする継続的、そしてスケール出来るグロース戦略が必要となる。そのグロース戦略とは「ティッピングループ」、いわゆるシステマチックに勢いをつけてくれるループを探して、最大化すること。

このループとは2つの種類がある。

  1. グロースループ:既存の売手と買手を活用してユーザー獲得コストを下げるもの
  2. 満足度ループ:サプライ側の仕分け機能であり、より売手が良い買手を探しやすくするもの

注意したいのは、すべての市場はこのティッピングポイントに至らないこと。傾かないハードルを6つほど後ほど説明する。

グロースループ事例

グロースループは既存の売手と買手を活用してユーザー獲得コストを下げるもの。

Uber

  1. ドライバーが運転を楽しむ
  2. ステップ2:友達をリファーラルする
  3. ステップ3:新規ドライバー獲得

Hipcamp

  1. Hipcamperで予約する
  2. 友達を予約に招待する
  3. 新規ユーザー獲得

満足度ループ事例

Uber Eats

  1. ユーザーがレストランを検索
  2. より早いデリバリー時間のレストランが高くランキングされ、より多くのユーザーから注文を受ける
  3. ユーザーはより早くデリバリーを受ける
  4. ユーザーは体験に満足して、離脱しない

Airbnb

  1. ユーザーがホストの家に泊まる
  2. ユーザーがレビューを書く
  3. レビューの応じてホスト側の評価が変わる(上がる・下がる)
  4. より多くのユーザーがより評価が高いホストとマッチングされ、より良い体験に繋がる

満足度ループは非常に重要で便利。マーケットプレイスに残したい、デマンド側の体験を良くしようとしているサプライサイドをより高く評価する仕組み。そして買手にとってはより良いマッチングに繋がり、最終的には満足度向上と買手側のリテンションにも影響する。

ループを見つけて最大化するのがマーケットプレイスの役割

マーケットプレイスを作っている企業の仕事はこのループを見つけ出して、早いスピードで回すことです。Uberのグロースループを見ると、お金(リファラル)でより早く回すようにした。

Airbnbではホストへ「スーパーホスト」バッジを作ることによって、「評価」ループをより早く回せた。

  1. ホストが実績を積む
  2. ホストが「スーパーホスト」バッジを獲得
  3. より高いコンバージョン率を得られて、ユーザーはより良い体験を

Airbnbの「スーパーホスト」バッジは、もともとはホストがきちんと認められている感覚をもたらせるために作ったものだった。そして、同時に「良いホスト」とは何か定義付けた。これを実行したおかげでグロースループを加速させる3つの効果があった。

まずはAirbnb上での期待値コントロールができた。ホストとしてはゲストの体験を良くするための行動や評価ポイントがわかった。次にバッジを獲得したホストはちゃんとしたバリューを得られているので、そのバッジをなくしたくなく、離脱しなくなる。このように差をつけることによってリテンションを向上させる仕組みを作った。そして最後に、旅行者側はレビューをいっぱい読まなくてもいいホストの区別がしやすくなり、それでサービス全体の満足度が上がる。

ループを加速させるためにはトランザクションの摩擦を減らし、流動性を上げなければいけない。これはマーケットプレイスをやっている以上、常に流動性を向上させる方法を探さなければいけない。以下いくつかの事例を紹介を紹介する。

サプライ側

  • オンボーディングの難しさ
  • 在庫の管理の難しさ
  • キャッシュコンバージョンサイクル
  • トランザクションフィーは正しいのか?

デマンド側

  • 取引・マッチする難しさ
  • 検索がコンバージョン率、もしくは検索から結果ゼロの割合
  • エラー率(サプライヤーから反応がない、もしくは期待外れの回答)
  • 求めてた結果を得られて、満足しているのか?

トランザクションフィーに関しては、以下事例を見るのがいいだろう(元データはBill Gurleyさんの記事)。

引用:Reforge

その他、下図でなんとなくマーケットプレイスの種類によっての平均トランザクションフィーをJackson Square VenturesのJosh Breinlingerさんがまとめている。

そして、マーケットプレイスの流動性についてもっと知りたい場合は以下のTwitterスレッドを参照してほしい。

ティッピングのハードル

すべての市場がティッピング対象とはならない。本記事ではティッピングをしにくくする6つの要素をまとめておく。

まずは競合。競合がいるとループだけで市場を傾けさせるのは難しい。マーケットプレイスのデザインを改善し続けて、満足度の向上を少しずつ上げる様にしよう。その中、UberとLyftみたいにお金で解決できるかもしれないが、お金は競合も同じ様に使えるので気をつけるべき。出来るだけ継続的に活用できるものを選ぼう。

競合を避けるためにDoorDashは田舎や郊外を選んだ。マーケットプレイスを作る上では競合がいないニッチな市場を選ぶのも立派な作戦だろう。

そして長期的に考えるのが重要。最初から高いフィーを要求するのは短期的にいいかもしれないが、より競合が入りたくなる要素にも繋がる。

マーケットプレイスの両サイドが断片化されてなく、片方でも数名や数社に力や権利が集まっていると、その人や会社にかなり頼らなければいけない。そのため、彼らに自社マーケットプレイスに入り込んでコミットしてもらえない可能性がある。これは旅行系のマーケットプレイスを見るとわかりやすい。旅行系マーケットプレイスのほとんどは断片化されているホテル業界からマネタイズして、断片化されてない航空会社からお金をとっていないのはこの理由。

マーケットプレイスはバランスが大事。サプライサイド、デマンドサイド、両方の満足度を常に気をつけなければいけない。片方でも見失うと、一気にすべてが崩壊する可能性がある。

Grouponが良い事例だ。サプライサイドのレストランが期待していたユーザーからのリピート率が思った以上に低かったため離脱するレストランが多かった。同じく、ClassPassもサプライサイドの理想的な在庫数を見つけるまでは似たような問題を抱えていた。

マーケットプレイスはレギュレーション(規制)や法律をうまく活用して成長できるとともに、逆に成長を止めることもできる。加速させた事例としてはAirbnbの初期はホテルとして認識されなかったため、宿泊税を負わなかった。逆にUberやLyftでは今年話題になったギグエコノミー法「AB5」の影響で成長が止まる可能性がある。なお、AB5について詳しく知りたい読者は、以前ポッドキャストで解説したのでチェックしてほしい。

Airbnbだと各ユーザー(買手)は違う好みがあるため、サプライサイドを増やすことによって買手側の満足度を増やせる。逆にMechanical Turkみたいなマーケットプレイスだと各サプライが似ているため、他のマーケットプレイスが同じ満足度レベルを作る障壁はそこまで高くない。

結局、マーケットプレイスを数々見たBill Gurley(ビル・ガーリー)さんの考えとしては、マーケットプレスで最終的に一番大事なのはデマンド側の集められるか。サプライ側は初期に必要だったりするが、意外と集まりやすいケースが多い。短期的にはサプライ、長期的にはデマンドが重要。デマンド・買手側をコントロールできないと、ただの送客ツールにプロダクトデザインにしかならない。

使われる頻度が低いマーケットプレイスは特にここを気にしなければいけない。ZocDocは数千人の医者を集められたが、デマンドサイドと関係性を作れなかったため、市場を彼らの方向に傾けられなかった。

次回記事はレベル3の「支配」するため、いわゆる「勝つ」ための最後のステップとなります。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。