モバイルビデオ広告がブレーク寸前であるこれだけの理由

編集部: 筆者のYoni Argamanはモバイル広告ネットワーク企業、Inneractiveのマーケティングとビジネス戦略担当副社長。

モバイルビデオ広告は数年前から着実に成長を続けてきた。しかしここにきて、昨年いっぱい続いた「次はモバイルビデオだ」という大騒ぎに見合う実態を備えつつある。 2014年のアメリカのモバイルビデオ広告は2013年の7億2000万ドルから$15億ドルへと2倍以上に成長した。2018年には60億ドルに達し、オンラインビデオ広告市場の半分を占めるものと予想されれている。

この成長の原因は、まず第一には4G接続の普及、デバイスの高性能化、スクリーサイズの拡大などによるモバイルビデオ全体の視聴量の増大にある。さらにユーザーのモバイルビデオの視聴の仕方の変化も見落とせない。2014年にはモバイル・ユーザーがアプリケーションを利用する率が全利用時間の86%にも上った。

アプリ内ビデオ広告はユーザーに視聴される率が高い上に、ユーザーに関するデータも豊富なのでウェブビデオ広告に比べて高価値だ。もうひとつの売上増大の要因は、ユーザーがスマートフォンよりタブレットでビデオを見る時間が長いという傾向だ。タブレット向けモバイルビデオ広告はスマートフォン向けに比べて30-50%単価が高い。

またビデオコンテンツの制作と流通の低価格化、民主化という要因も関与している。私が最近関心したプロ級の品質で制作された美しいビデオのいくつかはスマートフォンのカメラで撮影されたものだった。才能ある個人はYouTubeなどの大規模で一般的なビデオサービスを離れてニッチな独自のハブに移りつつある。ビデオのモバイル共有は即時でありバイラル効果も強力だ。

こうした要因が合わさって潜在的なモバイルビデオ広告の素材は急拡大している。もちろん現在はまだユーザー制作のビデオは広告として売れるレベルに届いておらず、あくまで「潜在的」だ。現在のビデオ広告の出稿者は主として大規模なブランドであり、このような広告主は最高品質のプレミアム・ビデオを望む傾向が強い。

アマチュア、セミプロのビデオグラファーのためのMaker Studios(Disneyが買収)やインディー映画製作者のためのFullscreenなどのコミュニティーは高品質なビデオをブランドが発見して広告に利用することを助ける。こうしたネットワークはYouTubeとは異なる世界を作り、モバイルビデオの世界で大きくシェアを広げつつある。また、最近注目されているVesselのように、スマートフォンとタブレットに対象を特化したビデオプラットフォームも現れてきた。

Yahoo、AOLなどの大規模な老舗のパブリッシャーもこの変化を理解し、コンテンツの製作、サードパーティーとの提携、シンジケーション・チャンネルの拡大(YahooはBrightrollを買収)、インフラ整備(AOLはAdap.TVを買収FacebookはLiveRaiを買収、RTLはSpotXchangeに出資)に多大なリソースを投じている。ただしこうした大型サービスのの場合、主にモバイル・ウェブへのシフトとなっており、アプリの存在は比較的小さなものとなっている。

ユーザーのアテンションが有限である以上、モバイルにおけるパブリッシャー間の生き残り競争は熾烈化する。そこでモバイルビデオ視聴体験の改良が重要な課題となってくいる。モバイルに特化したコンテンツと視聴環境の整備に加えて、大規模パブリッシャーならではの膨大なユーザーデータに基づく的確な広告ターゲティングが実施できれば売上の急成長が期待できるだろう。

モバイルアプリ化ではFacebookとTwitterが大きくリードしている。この両者はネーティブ・アプリのユーザー体験を高め、アプリ内ディスプレイ広告のマネタイゼーションに成功している。次の一歩がモバイルビデオ広告になるのは明らかだ。SnapchatとTangoも大量のビデオコンテンツを生成しているが、クリエーティブでおおむねユーザーフレンドリーなやり方で収益化を図っている。【中略】

最後にモバイルビデオ広告の流通チャンネルについて検討しておこう。オンラインビデオ広告は現在でも主として直接チャンネルで販売されている。これはパブリッシャー側が高いCPM料率を確保できるプレミアム広告を得ようとするためだ。

最大クラスのブランドと広告代理点は提携してビデオエクスチェンジ・サービスの育成に取り組んでいるが、こうしたビデオ広告のマーケットプレイスはまだトップクラスのチャンネルとは考えられていない。パブリッシャーは、こうしたビデオ広告市場ではリアルタイムの競り(Real-Time Bidding )によって料金が競り下げられ、値崩れを起こすることを嫌っている。モバイルビデオでも事情は変わらないので、ビデオエクスチェンジ・サービスがプレミアムビデオ広告の世界に入ることは依然として困難なようだ。

今年もこの状況は続くだろうが、変化の兆しはある。プライベート・マーケットプレイス(現在のオープンなマーケットプレイスに比べて参加者を限定することでプレミアム対応を図る)の試みが行われている。これによってパブリッシャーがビデオを含むプレミアム広告枠をマーケットプレイスを通じて販売するようになるかもしれない。モバイルビデオ広告がオンライン広告のメインストリームとなるためにはぜひとも必要な転換だ。

プレミアム広告ビデオ枠の増大、高い料率、パブリッシャー、広告主双方にとって明確なKPI、 アルゴリズム化された効率的な広告マーケットプレイスの普及などの要因が合わさって近くモバイルビデオ広告を次の段階に押し上げることだろう。

画像:mickyso/Shutterstock

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


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TechCrunch Japan

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