モバイル投票は新型コロナに苦悩する投票所を救う

2020年大統領選挙を目前にして、不正投票への不安を巡って激しく対立しする米国では、今なお脅威が衰えない新型コロナウイルスへの対応として、州や地方の選挙管理人たちが投票の延期と投票妨害の告発を求めている。

選挙管理人の課題は、投票所の安全と効率性を保ち、市民により効果的で信頼性の高い選択肢を提供することだ。

新型コロナウイルス対策として全国に広がった郵便投票という選択肢は、選挙事務員への過度な負担増加(AJC記事)と、有権者の選挙権が剥奪されかねないという点で非難されている。予備選挙では、郵便投票の投票用紙が失われたり、票数に入れられないことがあった。

最近になって、従来の不在者投票よりも多くの郵便投票を許可することに政府の批判(Washington Times記事)やメディアの批判(CBS News記事)が集まっているが、そこではシステムの欠陥に鋭い光が当てられている。

私は、投票者の身元を保証しつつ、その匿名性を保ち、新型コロナウイルスから守ることができる、より優れたテクノロジーの導入という道があると信じている。人が投票所に赴く直接投票を補完するモバイル投票は、今の政治的に緊迫した空気の中では、最も合理的な選択肢だ。

今の投票システムは時代遅れ

投票所で直接行う以外の投票方法の選択肢を提供する取り組みは、いまだ底知れず低迷を続ける投票率の向上を目指して年々増加している。郵便投票、投票時間の延長、週末投票、その他のアイデアは、ある程度は成功しているものの、旧来の時代遅れな手段への依存は変わらない。地域ごとに投票方法を決められるアメリカの分散型投票制度は、紙による投票から、メカニカルな投票装置、タブレットのタッチスクリーンを使う電子投票に至るまで、さまざまな投票デバイスを生み出した。

古風な投票方式について語ろうとするなら、「Hanging Chad」という言葉が選挙用語に加わった2000年大統領選挙の再集計問題を見れば事足りる。Hanging Chadとは、パンチ式投票用紙の穴がきれいに開かずに、穿孔くずがくっついている状態のこと。それを有効票とするか否かで過去に問題になった。この2000年大統領選挙の教訓から数々の投票方式の改善が試みられてきたが、20年が経過した現在でも、多くの地域で同じ方式が使われており、同じ失敗が繰り返されている。

今年前半の予備選挙では、郵便投票を広めようとする努力が難航(Newsweek記事)した。ペンシルベニア郡では6000人の投票者が、投票日の前日までに票を発送せず、締め切り前日の消印がもらえなかった。

投票用紙の請求を行ったにも関わらず、投票期限までに用紙を受け取れない投票者が全国にいた。期限までに投票用紙が郵送された場合でも、一度に大量の投票を受け取った選挙事務員は、すべてを集計しきれなかった(New York Times記事)。

投票所での投票は長い行列やマスクなど危険な密集状態

新型コロナウイルスが大部分の地域に居座っている状況で、選挙事務員は、投票所で行われる直接投票での住民のための安全対策を考える必要があるが、それでも惨事となる危険性は残る。大統領選挙では、投票所に長い行列ができて長時間待たされる地域が少なくない。投票者の登録を確認する受け付けテーブルで、選挙管理人やボランティアの数が不足していることもしばしばだ。

ボランティアは高齢者が多く、ウイルスに感染した場合に重篤化するリスクが高い。選挙管理人は、投票者の安全を守るだけではく、職員やボランティアの安全も同様に守る必要がある。そのためには、より多くの手順、検査方法、必要に応じて消毒の方法を設定しなければならず、それが投票者の待ち時間をさらに延長しかねない。

何百もの人たちが列に並び、待ち時間が数時間にもおよぶとなれば、投票を諦める市民が増えてしまう恐れがある。これは米国の民主主義にとって大変な災難だ。

モバイル投票なら安全

モバイル投票システムでは、登録投票者は自分のスマートフォンと認証されたアプリで投票を記録できる。ブロックチェーン技術を使ってアプリはオーディット・トレール(監査記録)を提供し、投票者の身元を確認する。モバイル投票は、紙の記録も残せるので、さらに安全度が高まる。

初期のモバイル投票プログラムは、米国の住民と海外に赴任している軍関係者が簡単に投票できる手段を提供した。新型コロナウイルスの耐性が低い身体障害者にも有効だ。

2018年、ウェストバージニアで市民と海外の軍関係者に対して実施されたモバイル投票の試験運用では、高い投票率が示された(New York Times記事)。

モバイル投票はまた、ウェブによる投票システムを含む(Voatzブログ記事)その他の電子投票方式よりも安全であることが証明されている。電子投票に批判的な人たちはハッキングの危険性を指摘するが、事実はそれを否定している。

2020年5月、慈善団体のTusk Philanthropies(タスク・フィランソロピーズ)は、5つの州で、複数のモバイル投票技術のプラットフォームを用いて、海外の投票者と障害者を対象にモバイル投票の実験を行った。選挙の安全性を心配するのはいいことだが、モバイル投票は、投票用紙の期限切れや紛失、書き損じ、機械の故障などさまざまな欠陥の可能性を含む既存のどの選挙制度よりも安全性は高い。

全員が参加してこそ民主主義は強くなる

この困難で不安な時期、私たちの政府のリーダーには、信頼と誠実さが何よりも求められる。安全で確実で信頼できる環境で投票する米国人の権利は、実に多くの祖先たちが命を賭して守ってきた理想を堅持するための礎となる。

参加する市民の数が増えれば、民主主義は強くなる。新型コロナウイルスのパンデミックが世界的で続く中、この秋の大統領選挙で「投票災害」を防ぐ新たな選択肢の探求を怠れば、米国の未来に深刻な影響を及ぼしかねない。

【編集部注】著者のJonathan Johnson(ジョナサン・ジョンソン)は、Medici Venturesの社長でOverstock.comのCEOを務める人物だ。

画像クレジットerhui1979 / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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