突然だがTechCrunch読者のみなさんは買い物をした際に渡されるレシートをどうしているだろうか?
面倒くさがりな僕はたいてい「レシートはけっこうです」と言ってもらうことすらしないのだけど、家計簿に記録するために丁寧に保管している人もいれば、なんとなく財布の中に溜め込んでしまう人、すぐに捨ててしまう人などそれぞれだろう。
そんなレシートは多くの人にとって日々の買い物(支出)の記録以上の価値はないかもしれないけれど、もしかしたら他の誰かからすればお金を払ってでも買う価値のあるものなのかもしれない。
前置きが長くなってしまったけど、ワンファイナンシャルが6月12日に公開した「ONE」はまさにそのような世界観のサービス。どんなレシートでも1枚10円に変わってしまうというものだ。
レシートが1枚10円になるカラクリ
「きっかけはスイスの友人から現地の小銭をもらったこと」——ワンファイナンシャルCEOの山内奏人氏によると、この出来事がONEのひとつのテーマでもある“価値の非対称性”に着目する契機になったという。
「日本にいる自分にとってはスイスの小銭もただの金属の塊と変わらない。その時に自分にとっては価値がないけれど、他の誰かには価値があるものが面白いなと思った。普段多くの人が日常的に使っているもので同じような例はないか考えた時に浮かんだのが、レシートだった」(山内氏)
先にいってしまうと、ONEはユーザーから「レシートという形をした決済データ」を買い取り、そのデータを手に入れたい企業に販売していく構造になっている。
近年パーソナライズという言葉が頻繁に使われるようになったように、大まかな統計データではなく個人個人の消費傾向を把握し、個々に最適な提案をすることが求められる時代だ。だからこそ「どんな人がどのタイミングで、どのような商品を買っているのか。その商品と一緒に買っているものは何か。といった購買データに価値がある」と山内氏は話す。
ONEの機能はシンプルで、ユーザーはアプリからレシートの写真を撮影するだけ。買い物の金額や購入した商品数などの違いはなく、どんなレシートも1枚10円に変わる(アプリ内のウォレットに10円が振り込まれる)。
ユーザー1人あたりが1日に撮影できるレシートは10枚まで。アプリ内に貯まったお金は300円から出金でき、メガバンクを始め国内ほぼ全ての民間金融機関に対応しているという。利用料等はかからないが、出金時の手数料200円についてはユーザーの負担となる。
出金時には本人確認が必要になるため、ONEの運営側から見ればこのタイミングで大まかな属性データが取得できる。これを送られてきたレシートのデータと合わせて、決済データが欲しい企業へ提供していく仕組みだ。
レシートからは金銭感覚や消費傾向がわかるため、マネタイズの方法としては取得したデータを純粋に企業へ売っていくというのがひとつ。そしてもうひとつ、特定のユーザーにクーポンを配信することで送客をするモデルも考えているという。
目指すのは次世代の金券ショップ
ワンファイナンシャルについては、同社が1億円の資金調達を発表した2017年10月に一度紹介している。当時16歳ながらすでに複数のサービス立ち上げを経験していた山内氏は、スマホ1台あれば数分でカード決済を導入できるアプリONE PAYを手がけていた。
その後ONEPAYMENTへと名前を変えサービスを伸ばしていたが、それに伴い不正利用も増加。2018年4月には不正利用リスクが原因でStripe社から出金APIの利用を止められ、サービスを停止せざるをえない状況に陥った。
一時は再開したものの不正利用のリスクは消えない。山内氏が「多くのユーザーに使ってもらっていたので申し訳ない気持ちはあったが、そのままの形で続けるのは難しかった」と話すように、最終的にはサービスの継続を断念。ユーザーへサービスの終了を通知していた(6月29日に決済機能を停止し、7月31日に出金を含むすべてのサービスを停止)。
ONEPAYMENTはクローズすることになったが、決済データを活用したビジネスへの関心や、新しい金融の仕組みを作りたいという気持ちは変わらなかったという山内氏。上述の通りスイスの小銭がひとつのけっかけとなって、新しいサービスを立ち上げるに至った。
ONEについてはどのような使われ方をされるのか予想できない部分もあるというが、将来的には「次世代の金券ショップのようなものを作っていきたい」という構想を持っているようだ。
「多くの人にとってレシートはものすごく身近なものでもあるので、まずは第一弾としてレシートから。いずれはたとえばギフト券など、もっと多くのものを扱えるようにしたい。データがたまっていけば、与信スコアのような形でレシートの買い取り価格を変えたり、レンディングなど別の展開も考えられる。ここを中心に新しい金融の仕組みを作れるように、サービスを作りこんでいきたい」(山内氏)