レントゲンに代わる低コストのスキャン装置を開発、富士フイルムなどが出資するイスラエル拠点のNanox

医療テクノロジー分野においてはいま、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックとの戦いに役立つツールやイノベーションに多くの注意が注がれている。そして米国6月4日、とあるスタートアップが新型コロナウイルスとその他の病気の臨床評価をよりアクセスしやすいものにする革新的イノベーションのために資金調達したというニュースが入ってきた。

イスラエルのスタートアップNanox(ナノックス)は小型で低コストのスキャンシステムと「サービスとしての医療スクリーニング」を開発した。これは、高価で大型の装置、それらに対応するレントゲンやCAT、PETなど身体画像サービスに使われるソフトウェアに置き換わるものだ。同社は戦略的投資家の韓国通信会社SK Telecomから2000万ドル(約22億円)を調達したと発表した。

出資に伴いSK TelecomはNanoxの技術を搭載したスキャナーと、スキャンした分だけ課金される画像サービスNanox.Cloudの展開、それらを運用するための5Gワイヤレスネットワーク容量をサポートする。Nanoxは現在、自社技術のライセンスを富士フィルムのような画像業界のビッグネームに許可している。Foxconnはまた、ドーナッツ型のNanox.Arcスキャナーを製造している。

今回の資金調達は厳密には、前回シリーズBラウンドの延長だ。2600万ドル(約28億円)をFoxconn(フォックスコン)や富士フイルムなどから調達すると今年初めに発表した。そしていま同ラウンドは5100万ドル(約55億円)でクローズされ、Nanoxによると約10年前の2011年の創業以来の累計調達額は8000万ドル(約87億円)だ。

Nanoxのバリュエーションは公開されていないが、イスラエルのメディアは12月に、Nanoxが考えているオプションの1つがバリュエーション5億ドル(約545億円)でのIPO(GLOBES記事)だと報じた。我々の情報筋によると、バリュエーションはいま1億ドル(約109億円)超だ。

Nanoxのシステムはデジタルレントゲン検査に関連する専用テクノロジーに基づいている。デジタル放射線撮影法は画像の世界では比較的まだ新しいエリアで、画像をとらえて処理するのにX線プレートではなくデジタルスキャンに頼っている。

Nanoxによると、放射線量は70Bq/kgで、これに対し平均的なCTスキャナーの放射線量は2000Bq/kgだ。製作コストはCTスキャナーが100〜300万ドル(約1〜3億円)するのに対し、Nanoxのものは1万ドル(約100万円)ほどだ。

CEOで創業者のRan Poliakine(ラン・ポリアキン)氏によると、小型の装置で安く、画像の処理のほとんどをクラウドで行えるのに加え、Nanoxシステムは1秒の何分の1かのうちに画像を作ることができ、これにより放射線被曝という点において従来の手法よりかなり安全だ。

画像はこのところかなりニュースで取り上げられている。というのも、新型コロナウイルス患者の症状の進行状態や、新型コロナウイルスに罹っているかもしれない人の肺やその他の器官にCOVID-19がどのくらい影響を及ぼしているのかを確認するために画像が今のところ最も正確な手段の1つだからだ。Nanoxの装置の普及はそうしたケースの対応で役割を果たすが、その一方でNanoxの最終目標はそれよりも大きなものだ。

究極的には、同社はかなり多くの人に病気の早期発見や予防のスキャンを行えるよう、装置とクラウドベースのスキャンサービスをユビキタスのものにしたいと考えている。

「現在、癌と闘うベストな方法は何だろうか。早期発見だ。しかし世界の3分の2が画像へのアクセスがなく、スキャンを受けるために数週間、あるいは数カ月も待たなくてはならない」とポリアキン氏は話した。

Nanoxのミッションはこのギャップを埋めるべく、今後数年間で同社の装置1万5000台を届けることだが、パートナーシップを通じてこのミッション達成に近づいている。SK Telecomとの提携に加え、Nanoxは3月にGateway Groupという企業とのパートナーシップでオーストラリア、ニュージーランド、ノルウェーに装置1000台を配置するための1億7400万ドル(約190億円)の契約書にサイン(Radiology Business記事)したことも明らかにした。

SK Telecomの投資は、通信企業が企業や個人にどのような種類のサービスを再び販売し、提供するかに立ち戻る機会として5Gをいかにとらえているかを強調する興味深いものだ。そしてSK Telecomは中でもヘルスケアを重要な機会として選んだ。

「通信会社は5Gの販売方法をめぐり、機会を模索している」とSK Telecomの会長Ilung Kim(イルウン・キム)氏はインタビューで述べた。「そしていま、5Gデータを使いながら救急車の中で使用されるほどのサイズのスキャナーを思い描くことができる。業界にとってゲームチェンジャーだ」

今後の展望として、Nanoxは同社のハードウェアの納入と、スキャン処理用のクラウドベースのサービスを販売するために提携パートナーを引き続き増やす。しかし、生データから洞察を得るためのテクノロジーの開発は予定していない、とポリアキン氏は述べた。そのため、同社はサードパーティ、現在はAI企業3社と協業していて、今後はこのエコシステムをさらに増やす予定だ。

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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