[筆者: Zvi Schreiber](FreightosのCEO。同社は、運送業者やフォワーダー、過肥大したeコマースなどのために国際貨物輸送の業務をオンライン化するロジスティクスサービスだ。)
2015年11月に、Beijing Century Joyo Courier Servicesは合衆国政府に海運企業として登録した。それがどうしたの? そう、Beijing Century Joyo Courier Servicesは、ほかならぬAmazonの子会社でありまして、昨年同社は、海運よりも前に空輸やトラック輸送でも、同社のロジスティクスのプレゼンスをすでに拡張していた。
Amazonが、一兆ドル産業と言われる輸送業(貨物運送業)に参入したことは、Amazonの国際的なセラー(販売者)やインポーター、そして最終消費者に巨大なインパクトをもたらす。しかも、何でも独自のやり方を貫くAmazonの手にかかっては、この世界最大の産業のひとつと言われる運送業も、大きな変化を迫られるだろう。
Amazon的サービスの勃興
これまでの20年間で、Amazonの経営戦略は単なるオンラインリテイラーからB2Bサービスのプロバイダに変わり、さまざまな、ほかの企業のための重要なインフラストラクチャを、サービスとして提供するようになった。
それが、Amazon Web Servicesと、Amazonのフルフィルメント(Fulfillment By Amazon(FBA))、およびKindle Direct Publishingで行われていることの大きな部分です。弊社は今、強力なセルフサービスプラットホームを作っています。そこでは何千人もの人たちが、これまでやりたくてもできなかったようなことを、果敢に実験し実現できます。
— Jeff Bezos, 2011年株主宛決算書簡
顧客を喜ばせマーケットシェアを伸ばす動機をベースとして、Amazonの開発プロセスには、次のような明確な構造がある:
- 非効率な箇所を同定する。
- そのための技術的なソリューションを開発する。
- そのソリューションをプラットホームへスケールする。
- そのプラットホームをサードパーティ企業に斬新なソリューションとして提供する。
たとえば最初、Amazonは自社のITのために効率の良い社内的コンピューティングクラウドを作り、それを全社的に広めてから、それをAmazon Web Servicesとして外部へ提供した。後述のように、eコマースとしてのAmazonの機能部分…決済、チェックアウト(ショッピングカート勘定)、小売販売業務など…も、今や他社が利用できるサービスだ。このような例が、Amazonのいろんなところにある。
決定的に重要なのは、競合他社の多くが、来たるべき変化に気づいていないことだ。“クラウドコンピューティング”という言葉が生まれたのは1996年だが、当時IBMもMicrosoftも、ネット上の本屋さんが自分たちの最大のコンペティターになるとは、想像もしなかった。
小売業務もサービスプロバイダに
Amazonのリテイルサービスも、この20年間で着実に進化してきた。最初アウトソーシングしていた部分も、やがてAmazonがテクノロジーによるソリューションを内製した。そしてそれがうまくいったら、そのソリューションをサードパーティの企業が利用できるサービスとして外部に提供した。
オンライン・リテイルの世界では、最初Amazonはeコマースとパッケージング(荷造り)サービスを提供し、卸売企業が本の調達や倉庫業務を担当した。Amazonのチームメンバーは卸売企業に本を注文し、それから朝の3時ごろまでかかって本を荷造りした、Bezosの家のガレージの床で。本のデリバリもUPSなどへアウトソースされたが、それは今でも変わらない。
eコマースのプラットホームが改良され安定してきた西暦2000年ごろに、Amazonはそれをサービスとしてサードパーティのベンダに提供し始めた。その、Amazon Marketplaceと呼ばれるサービスは、大成功した。今このサービスを利用している販売者は200万以上いて、Amazonの全売り上げの40%を占めている。
スケールアップとテクノロジーの改良、というパターンは、倉庫業務でも繰り返され、2006年にはFulfillment By Amazon(FBA)がローンチした。並行して2007年にはAmazon Paymentsがサービスとしてローンチしたが、こちらはあまり成功しなかった。eコマースのショッピングカート機能、Checkout for Amazonも2008年にサービスとしてローンチしたが、こちらもあまり利用されていない。
サプライチェーンを横断する垂直拡大
リテイル関連の機能を他社が利用するサービスとして提供してきたAmazonは、その次に、サプライチェーンの拡張に着手した。その手始めは、消費者電子製品だった。
この分野でAmazonには、Fire PhoneやKindle Fireなど、大きな失敗もある。Kindleのようなデバイスはコンテンツを配布する方式として有効だが、製品開発はまだ、プラットホームの域に達していない。
ロジスティクスへの進出
2014年にもサプライチェーンを横断する拡張は続き、今度は、これまでアウトソースしていたロジスティクスの部分に手をつけた。最初はインバウンド(内向き)のロジスティクス、次に2015年にはホームデリバリ(家庭配達)だ。
国際的な運送業は年商1兆ドル以上の産業、と言われる。船や航空機やトラックのグローバルな編隊が国境を超えて、毎日19兆ドル以上相当の製品や商品を運んでいる。コンテナが18000個も乗る巨大な船が、消費者が食べ、使用し、そして着る物の90%を、移送している(服やデバイスのラベルを読んでみよう)。
しかしグローバルな運送産業は手作業が多くて効率が悪い。テクノロジーを利用してスケールしコストを下げる、というAmazonのやり方にとってこの業界は、まさにスイートスポットだ。Amazonは最初2014年に、国際的な販売者のために集荷の混載化を図り、輸入品のバルクディスカウントを実現した。
デリバリにも進出
デリバリの自前化は、さらに重要だった。Amazonの顧客を喜ばせている送料無料と(Primeのお急ぎ便)の費用は、2014年で42億ドルを超え、純売上の5%近い。さらに、アウトソースは十分なコントロールができないので、顧客の不満を招くこともあり、2014年のホリデイシーズンのような配達の遅れという問題も生じる。
経費を抑え、外部業者への依存を減らすためにAmazonは、2015年に、これまで出番の少なかったデリバリの役割を、拡大し始めた。2015年12月にはThe Seattle Timesが、Amazonは航空機群のリースを交渉していると報じ、またAmazonのトラックを路上で見かけるようになった。史上初めて、あのAmazonとはっきり分かるパッケージをAmazonの社員が配達するようになり、さらにAmazonはデリバリのクラウドソーシングも開始した。
これはAmazonにとってまったく新しい事業だが、テクノロジーを有効利用する効率化、という点でAmazonを上回る名手は既存の業界に存在しないだろう。Amazonの倉庫(フルフィルメントセンター)で活躍する3万あまりのロボットは、サプライチェーンにおいて自動化がいかに強力であるかを示す証明だ。Amazonの配達ドローンについても、同じことが言える。
船を持たない海運企業
この文脈ではAmazonは運送フォワーダー(forwarder)として機能し、それは論理的であるとともに、果敢な挑戦でもある。Amazonは今、自動化が超遅れていることで悪名高い業界に参入しつつある。そもそも、輸送費の見積もりが出るまで平均で90時間以上を要し、しかもこの業界は料金体系が不透明であることで名高い。
しかしAmazonの国際的な売上は成長が鈍っている。2014年には増加率が12%に落ち込んだ…Amazonの数字としては高くない。Amazonのグローバルな販売者の発送を容易にし、コストを下げれば、成長は戻り、Amazon全体のグローバルな発送コストも減って、その過程を十分にコントロールできるようになるだろう。
ロジスティクス業界に与える影響
Amazonの定番的なやり方は、内部的なサービスをサードパーティサービスに拡張することだ。Amazonが内部でのフルフィルメントやロジスティクスのコスト削減に成功したら、それらのサービスがAmazon内部だけで使われ続けることはあり得ない。
ロジスティクスは、その業界全体としても、今やテクノロジーによってディスラプトされるべき時期を迎えている。そして、テクノロジーを利用して利幅を広げる能力で、Amazonをしのぐ企業は存在しない。ロジスティクスとデリバリの企業は、今Amazonが開始しているその初期的な努力を、その一挙手一投足を、仔細に見守るべきだ。ロジスティクス企業が、今Amazonがやろうとしているテクノロジーによるイノベーションに追随できないなら、2020年代にAmazon Logistics Servicesが新しいプラットホームとして登場し、運送業界の王の座を奪うだろう。