ロンドンを離れずに月を作る ―― ただしユーザーによるちょっとした組立作業は必要

ハードウェアを作ることは簡単なことではない。特にグローバルな製造インフラストラクチャの活用を拒否して、ロンドンのアパートの一室で全てを製造し、地元で手に入る労働力と材料だけを使おうとするときには、ますます難しいものとなる。しかし、この方法こそ、成功したKickstarterプロジェクトであるMoonのクリエイターたちが行った方法であり、彼らに後悔はない。

2016年に、私はMoonのプレゼンを目にした。これは私たちの衛星(月)の正確な複製で、実際の月の満ち欠けに合わせるように、その周りをLED群が回転するというものだ。クールなアイデアだと思ったが、その時は記事にすることはなかった。その代わりに、わたしはクリエイターの1人であるAlex du Preezに、将来このクラウドファンディングで作られた自家製ハードウェアの挑戦について、話す機会を持ちたいと依頼していたのだ。

このプロジェクトは成功し、2万5000ポンドの目標を上回る、14万5393ポンドを獲得した。そしてチームが最初の生産のまとめを行い、2回めの生産の準備を行っていた昨年末に、Alexと私は話をする機会を持つことができた(なお2回めの生産もちょうど最近終了したばかりである)。

これは実に興味深い、クラウドファンディング・ハードウェアプロジェクトのケーススタディである。単にMoonチームが、なんでも地元調達で済ませる、普通ではない選択をしたということだけではなく、月の樹脂成形そのものから、その台座や電気仕掛けに至る、あらゆることが参考になる。

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「その当時、私たちはそれらを正しく作っていることを確認したいと考えていました。私たちは工場での試作に、多くのエネルギーとお金を注ぎ込んではいなかったのです」とdu Preezは言った。「Kickstarterのキャンペーンの多くが、中国の製造工場に直接依頼されていることは知っていました。でも私たちはそうすると、製品の品質が大幅に落ちるのではないかと心配したのです」。

せいぜい隣町より遠くない場所から、全てを調達したという気分の良さに加えて、主要な利点は、関係する人びとと直接対話し、問題について直接説明したり一緒に取り組んだりすることができたことだ。

「電車に乗れば、彼らを訪ねることができるのです」とdu Preez。「例えば、この製品の腕の部分である曲がったパイプですけど、この部分だけでも私たちはパイプ加工会社を3回訪れて、担当者たちと直接話し合いました」。

もちろん彼ら自身も何もできない人びとではない、このプロジェクトを行った3人は以前にもクラウドファンディングプロジェクトの立ち上げを支援したことのあるデザイナーやエンジニアたちなのだ。ただ今回のプロジェクトは、初めて自ら企画したものだった。

「おそらくOscar(Lhermitte。プロジェクトリーダー)は、このプロジェクトの企画から製造に、2年から3年間は費やしていることでしょう」とdu Preez。「このアイデアを思いついた彼は、NASAに連絡してマップを作るための地形データを手に入れました。彼は技術的そして工学的な知見を求めて、私たちに声をかけてきたのです」。

英国内で全てを行うという決定は、ハードウェアへの要求の厳しさから、なかなか簡単には下されなかった。チームの基準は厳しかったのだ。その立派な成功(20万ドル超え)にもかかわらず、ユニークで高精度な電子機器をゼロから作り上げる事例は、まだ珍しいのだ。

全体の作業がロンドンの小さなアパートのスペースを使い果たしてしまったので、チームは様々な工夫を行わなければならなかった。

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「これらの製品を生産していたのが、この台所程度の小さな部屋の中だったのです」とdu Preezは思い出すように語った。「倉庫のような場所ではありませんでした。私たちが借りていたのは2階ですが…建物には大量の材料が届いていました。膨大な金属とかですね。それを運び上げるのは半日がかりでした。そして大量の箱なども届いて場所全体が満杯になりました。

彼らは、市場や深センからの既製品を使うという誘惑に抵抗し、その代わりに問題を解決するために、彼ら自身の創意工夫(と、近隣の呆れるほど専門特化した職人たち)に頼った。

「最も難しかったことの1つは、使われるそれぞれの部品が異なるプロセスで製造されているということです」と彼は言う。「プラスチックケースに収まっている電子機器を作るなら」たとえば防犯カメラや安価なAndroid携帯電話を作る場合などだが「開発と運用を、はるかに素早く行うことができます」。

明らかに最も重要なのは、月の球体自身だ。これまでに誰も、これほどのものを作ったことはなかった。そのため彼らはそのやり方を、自分たち自身で見つけなければならなかったのである。

「それはかなりの大きさなので、ひとかたまりの中身の詰まった固体として成形することはできません」とdu Preezは説明する。「もしそうしたら、送るのには重すぎるでしょう。それに材料が変形して、凹んでしまいます。ということで、私たちが行ったことは月の表面の地形を逆転させたような型を作って、その中に液体を注ぎ込むことでした。液体の硬化を行いながら、その型を回転させます、乾燥していく際に内側の表面が樹脂できちんと覆われるようにします。

試作段階でこれを行うために、彼らは「木と、自転車部品と、そしておそらくミシンのエンジン」を使った応急処置の解をひねりだしたと、彼は語った。「コストを抑えるために、それらを一箇所に集めなければなりませんでした。私たちの材料とコンセプトがうまく働くかを確かめるために、試行を行ったのです。もしこの方法が上手くいくことがわかったら、より良いものへと改善して行けば良いのだということはわかっていました」。

そして好運に恵まれ、彼らは適任者に巡り合うことができた。

「バーミンガム在住のこの人物が、私たちの試作機械に相当するものの工業版を所有していたのです。彼は型を作ることができて、一日中回転させるためのこの大きな金属枠も所有していたのです」とdu Preezは語る。「彼の仕事の品質は本当に素晴らしいものです」そしてもちろん、そこは列車で短時間で着ける場所なのだ ―― いずれにせよ中国広州への移動に比べれば。

細部への注意、特に球面の品質に対するこだわりがMoonの出荷の遅延に繋がった。最終的には当初の予定より、4ヵ月遅れることとなった。

Kickstarterのプロジェクトである以上、遅れはもちろん予想されていたことではあったが、du Preezは、バッカー(支援者)たちの反応に(友好的なもの非友好的なものを問わず)驚いたのだという。

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「反応は極端に2つに分かれたように思います。私たちには541人のバッカーがいました。私の見るところ月が手に入らないことで、失望したのは2名だけだったと思います。彼らは怒っていました。それこそ頭から湯気を出す程に怒っていたのです」と彼は言った。

「しかし、公の場で私たちを罵倒した人たちはいませんでした。彼らはただ現状をチェックしていたのです。バッカーから電子メールを受け取った際に、きちんと返信を送れば、バッカーたちは理解を示してくれるように見えます。私たちが着実に進んでいる限り、人びとはそれを受け入れてくれたのです」。

とはいえ、4ヵ月の遅れはそれほど酷い遅れとは言えないだろう。Moonよりも遥かに多額の資金を集め、出荷が何年も遅れたり、そもそも出荷そのものが中止になったものさえ存在している(実際の話、私はそうしたものの幾つかに出資していた!)。Du Preezは、支援者たちの信頼を損なわないようにしたいと考えている、クラウドファンディング候補者たちのために、いくつかのアドバイスを語った。

「価格付けを理解することは本当に重要です。誰が製造するのかから始まり、出荷に至るまでを良く考える必要があります。Kickstarterを始めたあとのゲームプランがないなら、かならず厄介な状況に陥ることでしょう」と彼は語った。「私たちはKickstarterを始める前に、部品表を作成し全ての経費計算を済ませていました。そして、その製品が上手く行くことを示す、何らかの概念証明(プルーフオブコンセプト)のようなものが必要です。いまでは非常に沢山の素晴らしいハードウェア開発プラットフォームがあるので、そうした証明を行うことは、今ならとても簡単だと思います」。

彼らの仕事に対する、細部への気配りと明白な誇りは、永続的なビジネスへとつながった。同社はアダム・サヴェッジ、マーク・ハミル、そしてMOMAなどから注目を集めている。一方2回目の生産である250個は終了し、チームはこれらのラインに沿って他のプロジェクトを検討している最中だ。

チームのプロジェクトを追跡したり、自分用のユニットを注文したり(まあ、早期割引を頼みたかったと考えるかもしれないが)する場合にはMoon専用ウェブサイトへ

[原文へ]
(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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