クリエイターの“お金に換えられない価値”を評価・支援する暗号通貨「CLAP」

個人の価値をお金やモノなど別の価値に換える「評価経済」。これまでのYouTubeやInstagramといった、インフルエンサーが発信する“コンテンツ”が評価されるプラットフォームに加え、2017年は、自分の価値を模擬株式として発行し、ビットコインで取引ができる「VALU」が5月にスタート、ユーザーが提供する時間を10秒単位で取引する取引所「タイムバンク」も9月にアプリを公開するなど、評価自体を取引できるサービスのローンチが相次ぐ年だった。

そうした中、新たに独自の暗号通貨を使ったサービスでクリエイターの価値を可視化して、支援しようと2017年8月に設立されたのがOnokuwa(オノクワ)だ。オノクワが開発した独自通貨「CLAP(クラップ)」は、ビットコインなどと同様にブロックチェーン技術を活用した暗号通貨(仮想通貨)。CLAPをやり取りすることで、ミュージシャンやイラストレーター、漫画家などのクリエイターが活動できる場を提供する「CLAP経済圏」の構築を、オノクワは目論んでいる。

そのCLAPの第1弾サービスが4月19日、リリースされた。ベータ版として登場したiOSアプリ「CLAP」は、この独自通貨CLAPを獲得するためのツールだ。

クリエイターが活動するライブハウスや劇場、ギャラリー、グッズショップなどの「CLAP SPOT」に設置されたQRコードを読み取ることで、1カ所につき1日1回CLAPが獲得できる。つまりファンがクリエイターを応援するために実際に足を運ぶことで、CLAPが増えていくという仕組みだ。

4月時点では、都内約25カ所のCLAP SPOTにQRコードが設置される。CLAP SPOTがどこにあるかは、CLAPアプリ内で確認することができる。

オノクワではCLAPを使ったクリエイター支援のための経済圏を作りたい、としている。CLAPアプリでは、ファンが獲得したCLAPを好きなクリエイターの支援に使ったり、CLAPと引き換えにクリエイターのオリジナル特典(会員証)を手に入れたりできる。

第1弾クリエイターとして音楽制作ユニット「Mili(ミリー)」が参加することが決定、キャンペーンの実施も発表された。ユーザー(ファン)は、4月25日にリリースされるMiliの3rdアルバム『Millennium Mother』の関連グッズ購入やライブ来場でCLAPを入手できる。またスペシャルイベントの開催も予定されているという。

さらに今後オノクワでは、クリエイター側がファンから支援されたCLAPを使い、自身の創作活動を行うために利用できるサービスなどのリリースも予定している。

クリエイターが与える感動の総量をブロックチェーンで可視化する

オノクワを立ち上げた代表取締役CEOの石谷優樹氏と、共同創業者CSOの森川夢佑斗氏は、学生時代のインターン時代に知り合った。石谷氏は、関西学院大学在学中に700人規模の音楽フェスを成功させたこともあり、クリエイターがやりたいことをできる表現の場を用意することに関心があった。

一方、森川氏は「資本主義の『お金を稼ぐだけ』の拝金主義的な評価だけでなく、社会への貢献やYouTuberに対する評価なども評価軸としたい」と考える中で、ブロックチェーンに興味を持ったという。京都大学在学中にブロックチェーン技術を活用したプロダクト開発やコンサルティングを行うAltaAppsを創業。仮想通貨ウォレットを開発するGincoの代表取締役でもあり、1月31日には1.5億円の資金調達実施を発表している。

2人は昨年の初夏、森川氏が書籍『ブロックチェーン入門』を出版したことをきっかけに連絡を取り合い、久しぶりに会う機会があった。そこで、森川氏の1軸から多軸による価値評価へ、という思いと、石谷氏のクリエイターを支援したい、という思いを重ね合わせたときに「影響力、すなわちクリエイターが与える感動の総量を可視化できていないことが課題だ」との共通認識を持つ。

これを解決するためにツールとしてブロックチェーンを使い、ビジネスとして仕組み化することにしたのが、オノクワ設立のいきさつだ。

森川氏は「新しい価値指標としてのCLAPには、透明性と特定の機関に依存しないことを求めて、ブロックチェーンを使うことを選んだ。ブロックチェーンを利用することで、指標をグローバルに広めることもできる」と話している。「またブロックチェーンは個人間のP2P取引に用いられる仕組み。たまったCLAPをファンからクリエイターへ、クリエイターが別の才能を持つクリエイターへ、という形でやり取りすることで、価値を個人間で流通させることも目指している」(森川氏)

ブロックチェーンの活用により仮想通貨(CLAP)を基盤としたプロダクトを開発し、アセットとなるデータを扱うアプリを用意する。この仮想通貨を流通させることで、歌手の世界でいえば「オリコンチャート」のようなものに当たる指標を、音楽でも絵でも文字でも横断的に、クリエイター分野全体で把握できるデータとして持ち、指標の提供をビジネスとして展開する。これがオノクワの想定する収益モデルだ。つまり、売上ランキング、あるいはYouTubeやInstagram、Twitterなどのフォロワー数に代わる、クリエイターの評価指標を提供しよう、ということのようだ。

実際、森川氏はCLAPについて「お金とフォロワー数の間ぐらいに位置するものと認識している」と言う。そして「それこそが、評価経済プラットフォームとして先行するVALUとの違いだ」と説明する。「VALUでは、最後には評価が金銭として価値化される。CLAPは円やビットコインとはつながない。CLAPは、クリエイターの活動場所に、足を運んで参加するファンの行動に対して与えられる。これにより、投機的な行動が入らなくなる。純粋にファンが『いい』と思ったものに入る仕組みだ」(森川氏)

「CLAPではこれまでの仕組みと比べて、よりピュアな評価が見える」と森川氏は考えている。「例えば『Twitterのフォロワーは少なくても、ライブに足しげく通うコアなファンが付いている』というような、本来の“人を動かす力”が可視化できる。影響力の可視化という点ではCLAPもVALUと同じだが、アプローチが違う。副次的な価値は人気の実態とは乖離する。だから、独立した指標を作りたい」(森川氏)

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TechCrunch Japan

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