ソラコムが、2016年7月13日の同社のカンファレンス開催に合わせ、新サービス群を一挙に発表した。特に注目したいのは世界市場向けサービスSORACOM AirGlobalだ。1種類のSIMカードにより、120カ国でソラコムのサービス群を使ってデバイスとクラウドを連携できる。世界展開する企業が各国の通信事情に合わせて回線を調達して自社システムに適合させる手間が、新サービスにより劇的に削減できる。すでに日本の機械メーカーによるトライアルも始まっている。
ソラコム共同創業者で代表取締役社長の玉川憲氏は、「ソラコムを始めたときからグローバル対応は『やる』と決めていた」と話す。「一言ではとても説明できない」ような努力の末に、120カ国でのサービスを可能とした。
同社は2015年9月にIoT向けMVNOサービスSORACOM AirとSORACOM Beamを発表して大きな注目を集め、2016年1月には4サービスを同時発表し 、2016年5月には24億円の追加資金調達を実現させている(関連記事)。今回発表の新サービス群により、世界展開する機器メーカーのIoTシステム構築や、野外の建造物の監視や農業分野でのシステム構築を支援する各種のシステム構築パターンがより充実する。別の表現をすると、グローバル展開する企業のためのIoT/M2Mシステム構築の通信インフラとクラウドを結ぶシステム構築パターンを「SORACOMのプラットフォームが一手に引き受ける」と言えるようになってきた。
SORACOM AirGlobal、SORACOM Door、SORACOM Gate、SORACOM LoRaWANを一挙発表
以下は、今回発表したサービスである。
(1)SORACOM AirGlobal。世界120カ国の3Gネットワークを使える。従来のNTTドコモ網を活用したモバイル通信サービスだけでなく、世界120カ国の3Gネットワークを同社のサービスで利用可能となる。APIによる回線管理を筆頭に、SORACOMサービス群が提供してきた機能群は従来同様に使える。まず日本企業向けの「SORACOM Global PoCキット」として発売する。キットの内容はグローバル対応SIM30枚、基本料金6カ月分、データ通信量300米ドル相当。価格は4万9800円(税込)。データ通信料は地域により異なるが、1Mバイトあたり0.3ドルから。発表に先駆け、オプテックスとぷらっとホームが海外での接続検証を実施している。
(2)SORACOM Door。モバイルデバイスとAWS以外のクラウドサービスを仮想プライベートネットワーク(VPN)で結ぶ。従来サービスのSORACOM Canal(Amazon VPCにより接続)、SORACOM Direct(専用線接続)と合わせ、閉域網でのシステム構築を支援する。すでに試用した企業の名前も発表されている。小森コーポレーションは、ヨーロッパに設置した商業用印刷機械のマシンログデータ送信にSORACOM AirGlobalとSORACOM Doorを活用する検証を行った。またサトーホールディングスはSORACOM AirとSORACOM Doorを機器のリモート監視に活用し、機器設置先の通信インフラに依存せずセキュアなサービスを提供できたとしている。
(3) SORACOM Gate。LANのように固定プライベートIPアドレスを振ったモバイルデバイスとクラウドサービス間の双方向通信を可能とする。セキュリティリスクを抑えながら、デバイスとサーバーで自由に通信したいとのニーズに対応する。複数の企業が試しており、アロバはネットワークカメラソリューションで検証し、ケイズデザインラボは切削加工機のリモートアクセス/リモートメンテナンス用途で試用している。
(4) 省電力広域通信技術LoRaWANの実証実験キット「SORACOM LoRaWAN PoCキット」。携帯電話ネットワークに比べると通信速度は低いが、一つの基地局で数kmと広い地域をカバーし、省電力で1年以上端末のバッテリー交換なしに使える。これを、橋梁のモニタリング、牧場の牛の管理に活用する事例も報告する。すでに複数の企業がこのサービスを試している。九州通信ネットワークは橋梁インフラモニタリングを検討し、サントリーシステムテクノロジーは自販機のマーケティングデータ収集を検討、ファームノートは放牧地での牛のデータ収集への活用を検討している。
これらのサービスを組み合わせると、例えば「グローバル展開する機械メーカーが機械類のモニタリングをしたい」といったニーズにちょうどぴったり合うシステム構築パターンを提供できる。個々のサービスの内容は、Amazonのクラウドサービスと同様に専門家向けの地道なものだが、それらを組み合わせた時に発揮できるパワー、インパクトは非常に大きい。グローバル展開、IoT/M2M、広域監視といったやっかいなニーズを一挙に実現してくれる。
「リリースした時点で顧客のエンドースメントがないサービスは未完成だ」
今回発表の各サービスでは、それぞれすでに試用中の顧客名も同時に発表している。ことから、サービスのトライアルは発表以前から着々と進めてきたことが分かる。玉川氏は「お客様に使ってもらえないサービスは出したくない。リリースした時点でエンドースメントがないものは、サービスとして未完成だ」と話す。かなり大勢の人々にとって耳が痛い発言だ。
今回のサービス拡充で、IoT/M2M向けの通信サービスとクラウドの連携──いわばクラウドのデバイスの間の「ラストランマイル」を埋めるプラットフォームの構築がソラコムの戦略であることが、よりはっきり見えてきた。玉川氏は「日本でやっていて良かった。日本の製造業にはグレートカンパニーがたくさんある。そうした会社と近しい距離感で仕事ができるのはとても恵まれている」と語る。「グローバル展開に伴う苦痛はどの会社も抱えている。そこをもっともっと楽にしていきたい」。