中小の販売業者でも延長保証を提供できるようにするExtendが42億円を調達

延長保証サービスは、既存の製品保証期間を1~2年延長して、購入した製品が故障した場合でも安心していられるようにするサービスだ。大型店舗で高額な商品を購入するときには決まってこうしたサービスをつけるよう勧められるのが長年の慣例となっている。米国時間10月15日、Extend(エクステンド)というスタートアップが、大規模な資金調達に成功したことを発表した。同社が目指すのは、「延長保証を提供できるのは大型の販売店だけ」という固定概念を覆し、APIを使用して、中小の販売業者が扱う低価格の商品についても延長保証サービスを提供できるようにすることだ。

エクステンドは、Peloton(ペロトン)、iRobot(アイロボット)、Harman / JBL(ハーマンJBL)、Advance Auto Parts(アドバンス・オート・パーツ)、Traeger Grills(トリガー・グリル)、BlendJet(ブレンドジェット)、SoClean(ソークリーン)、1More(ワンモア)、August Home(オーガスト・ホーム)、Balsam Hill(バルサム・ヒル)、NewAir(ニューエア)、Evolve Skateboards(エボルブ・スケートボード)、その他150社と提携して、これらの企業の商品に延長保証サービスをつけられるようにしている。同社は今回、シリーズBラウンドで4000万ドル(約42億1800万円)を調達した。

エクステンドの創業者兼CEOのWoody Levin(ウディ・レヴィン)氏は、インタビューに答えて次のように語っている。「当社の目的は、中小の販売業者が、特にD2C(直接販売)の場合に延長保証サービスを提供する際のさまざまな障害を取り除くこと、そして延長保証サービスに対する消費者の偏見を取り除くことだ。一部の消費者は、こうしたサービスは人々の(もし故障したらどうしよう、という)不安感を食い物にしているだけで、保証条件が印刷されている紙ほどの価値もない、と思っている(最近では、ネット通販の決済時に画面中央に表示される画像に保証条件が記載されることが多い)」。

「延長保証サービスは本当に長い間、偏見の目で見られてきた。当社はこのイメージを払拭して、もっとエレガントなエクスペリエンスにしたいと考えている。あらゆる商品にApple Careのような延長保証サービスを提供できるようになりたい」とレヴィン氏は言う。

複数のスタートアップを売却した経験を持つベテラン起業家であるレヴィン氏は、「当社が延長保証サービスを提供できる商品の総額は現時点で270億ドル(約2兆8000億円)を超えている」と付け加えた。

エクステンドがApple(アップル)並みの保証サービスを目指しているのであれば、同社は然るべきVCから資金を調達していると言える。いずれも、トップクラスの投資家として有名なVCばかりだ。今回のラウンドをリードしたのは、Facebook(フェイスブック)、Salesforce(セールスフォース)、Tableau(タブロー)などの企業を支援した実績を持つMeritech Capital(メリテック・キャピタル)で、出資者には他にPayPal Ventures(ペイパル・ベンチャーズ)や、以前の支援者であるGreat Point Ventures(グレート・ポイント・ベンチャーズ)とShah Capital Partners(シャー・キャピタル・パートナーズ)も名を連ねている。

中でも重要なのはPayPal(ペイパル)だ。最も広く利用されているオンライン決済サービスやその他のサービスを販売業者向けに提供しているペイパルは、高いコンバージョン率につながるテクノロジーに今後も常に目を光らせていくだろう。市場の現状を考えれば特にそう言える。市場では現在、ソーシャルディスタンスによってeコマースが急成長しており、競争は激化している。また、商品を買える場所が増え、割引販売が多くなり、顧客を逃がさないために多くのテクノロジーが利用されている。

ペイパル・ベンチャーズのパートナーであるJay Ganatra(ジェイ・ガナトラ)氏は次のように語る。「延長保証はあらゆる規模の販売業者にメリットがあるサービスだと思う。しかし、実際にそのサービスを導入して維持するのは、多くの販売業者にとって大変複雑な作業だ。エクステンドは、顧客とのつながりと顧客サポートを強化するのに役立つ、使いやすいツールを販売業者に提供する取り組みを、ペイパルと協力して進めている。また、エクステンドのチームには、会話型チャットボットを使用してエンドユーザーのエクスペリエンスを大幅に改善してきた実績がある。我々は、この分野を改革し続けるエクステンドの投資家として、同社の今後をとても楽しみにしている」。

エクステンドはこれまでに5600万ドル(約59億円)を調達しており、評価額は公表していない。

延長保証サービスの基盤となっているのは「購入者に安心感を提供する」という考え方である。例えば、iPhoneの購入者がApple Careに登録するのは、高価なiPhoneを修理するのに大金をかけたり、 偶発事故によって結局は破棄する羽目になったりすることを避けるためだ。一方、販売業者にとって延長保証サービスは、売り上げを一定の水準からさらに増やすための強力な刺激策となる。

これに気づいた販売業者は、ここ数年、非常に高価な商品以外にも幅広く延長保証サービスを提供してきた。

「これまでは、この安心感を利益に変えられるのは販売業者の上位1%だけだった。Amazon(アマゾン)のサイトを見ると、40ドル(約4200円)のリュックサックにも延長保証サービスが提供されている。延長保証があることを宣伝するだけで購入率が上がるからだ」とレヴィン氏は言う。

しかし、延長保証は単なる宣伝だけでは終わらない。2019年に延長保証によって産み出された売り上げは1300億ドル(約13兆7000億円)にも達しており、毎年約7.4%のペースで伸びている。

これまで、延長保証サービスを提供する会社は体質が古く、大手の販売業者としか取引しないという事実が、多くの販売業者にとって障害となってきた。SquareTrade(スクエアトレード)やAsurion(アシュリオン)といった企業は、販売業者の上位1%のみと取引し、中小の販売業者は無視する、とレヴィン氏は言う。「こうしたレガシーな企業は1回限りの統合(による延長保証サービスの提供)にしか興味がない」。

対照的に、エクステンドのソリューションは最新のアプローチを取っている。任意のeコマースサイトと決済フローに組み込むことができるAPIを構築したのだ(このAPIは、同じく延長保証プロセスの改革と近代化に取り組んでいるAffirm(アファーム)などの企業でも使用できる)。1~2年のプラン向けの料金は最低19.99ドル(約2100円)程度だと思われるが、もっと高くなる可能性もある。

また、エクステンドはAIGなどの保険業者と提携して、延長保証を支える保険を提供している。代理店と話して補償を請求することもできるが、エクステンドでは補償請求の処理に24時間対応の自動チャットボットを活用している。レヴィン氏によると、補償請求の98%はKayley(ケイリー)と名付けられたチャットボットによって処理されているという。

こうした補償請求でトラブルになることはほとんどない。というのは、補償請求はオンラインで行われた取引と紐付けられており、補償請求に必要なレシートはエクステンド側が特定してくれるため、購入者側で用意する必要がないからだ。通常は、購入金額が返金され、購入者はそのお金で同じ製品を再購入するか、販売時点で同等の価値を持っていた他の製品を購入することになる。

メリテック・キャピタルのジェネラルパートナーであるAlex Clayton(アレックス・クレイトン)氏はこう語る。「我々は常に、業界の将来を形成するような企業を支援しようと努めてきた。エクステンドは自社のプラットフォームでまさにそのような取り組みを行っている。また同社は、販売業者には製品の延長保証サービスと保護プランの提供を簡素化するソリューションを提供し、顧客には最初から最後までシームレスな体験を提供することにより、eコマース用インフラストラクチャ市場に存在する大きなニーズを満たそうとしている。同社が次にどんな取り組みをするのか楽しみだ」。

今回の資金調達ラウンドの規模と出資企業を見れば、エクステンドが勢いに乗っている企業であることは間違いないが、延長保証サービスに目をつけてきたのはエクステンドだけではない。今年初め、Clyde(クライド)は延長保証プラン事業のために1400万ドル(約14億8000万円)を調達している。また、True(トゥルー)が支援するUpsie(アップシー)は、延長保証を、販売業者を経由せずに消費者に直接提供するプラットフォームを構築している。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:eコマース

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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