予算ゼロでNewsPicksを開発! TC Tokyo 2014で「CTOオブ・ザ・イヤー」が決定

「予算ゼロで新プロダクトを開発」「エンジニアのハイブリッド化で売上倍増」「本番環境をフルスクラッチで整備」――。こんな無理難題とも思えるようなミッションを解決したスタートアップのCTOたちが、11月18日に開催したTechCrunch Tokyo 2014の「TechCrunch Tokyo CTO Night powered by AWS」で、最もイケてるCTOを決める「CTOオブ・ザ・イヤー」の称号を競い合った。審査基準は「技術によるビジネスへの貢献度」。全9社(9人)のCTOが登壇してピッチを行い、「CTOオブ・ザ・イヤー」に選ばれたのは、株式会社ユーザーベース(SPEEDA/NewsPicks)の竹内秀行さんだった。

 

スタートアップ9社のCTOが登壇

登壇したCTOは、来年さらに飛躍が期待される9社9名で、以下の通りだ。

  • Beatrobo, Inc.(PlugAir) 竹井英行CTO
  • freee株式会社(freee) 横路隆CTO
  • Tokyo Otaku Mode Inc.(Tokyo Otaku Mode) 関根雅史CTO
  • ヴァズ株式会社(SnapDish) 清田史和CTO
  • 株式会社オモロキ(ボケて) 和田裕介CTO
  • 株式会社Moff(Moff Band) 米坂元宏CTO
  • 株式会社ユーザベース(SPEEDANewsPicks) 竹内秀行CTO
  • 株式会社エウレカ(pairs) 石橋準也CTO
  • 株式会社DoBoken(ZenClerk) 磯部有司CTO

登壇した9名のCTOを審査するのは、豊富な知見を持つ6名の審査員でありCTO。真剣に、時に笑いながら登壇者のプレゼンに耳を傾けていた。

  • グリー 藤本真樹CTO
  • クックパッド 舘野祐一CTO
  • ビズリーチ 竹内真CTO
  • はてな 田中慎司CTO
  • サイバーエージェント 佐藤真人CTO
  • アマゾンデータサービスジャパン 技術本部長 玉川憲氏

 

多様性のない組織は進化が止まる。CTOの仕事におけるテーマは「多様性の創出」

ユーザーベースの竹内秀行CTOは「とあるCTOのスタートアップ切り込み隊長日誌」と題したプレゼンを披露。

同社は、2009年1月にローンチした企業・業界分析プラットフォーム「SPEEDA」と、2013年7月にローンチした経済ニュース「NewsPicks」の2サービスを展開している。特にSPEEDAは全世界100万社超、550業界のデータを管理・提供しており、CTOが解決しなければならない技術的課題は大きい。

もちろん、サービスの技術的改善、エンジニアのスキル向上、健全な組織を作るための施策も検討・実行しなければならない。竹内CTOはそれを「ビジネスにおける多様性、技術における多様性、チームにおける多様性」の3つの多様性で表現した。

「多様性」を生み出すためにどのようなアプローチをしたのか。

技術面ではSPEEDAのシステムを再構築してMySQLベースからElasticsearchに乗り換えた。その結果パフォーマンスが大幅に向上、フィールド数10万を超えるデータベースにおいて複雑な条件でも100ms以下で検索完了、集計は1〜2秒で完了する変化を実現した。企業・M&A情報を複雑な条件でも素早く抽出できるようになったことで情報の提供先企業が増え、会社がビジネスとして取れる「選択肢」も広がった。新サービスに向ける余力が生まれたのである。

新サービスに向ける余力が生まれた同社。ある日、竹内CTOは代表取締役梅田優祐氏に呼ばれて「気軽に専門家の意見が聞けるサービスを作りたい」というオーダーを与えられた。「予算はゼロ」と言われて竹内CTOは絶句したそうだ。それが最近キュレーション系メディアとして存在感をましているNewsPicksの始まりだったと当時を振り返る。

開発に着手したのは2013年2月からローンチした7月までの5カ月間、彼は一人でAPI設計構築・バックエンド設計構築などサーバサイド全般を担当。その半年後に別のエンジニアが入社して業務を引き継ぎ、同時にチームにおける多様性も達成した。

スタートアップは時にシングルサービス・シングルプロダクトからなる多様性のなさで競合との戦いに疲弊することもある。逆に自分たちのキャパを超えてサービスやビジネスの拡張・複数化を進めて多様性で失敗することもある。そのどちらにも属さない多様性を追求できる可能性を感じるプレゼンとなった。

 

ハイブリットエンジニアで月間売上倍増

以降は特に印象に残ったCTO達を紹介していこう。

まずは株式会社エウレカの石橋準也CTOだ。マッチングサービス「pairs」やアプリ探しサービス「Pickie」などを運営する同社だが、大きく分けて3つの問題を抱えていたと語る。急激な成長を遂げたスタートアップの成長痛とも言える「社内のリソース不足」、担当業務に専属意識を持ちすぎるため、社内連携不足となるがゆえの「バグの頻発」、そして「責任感の欠如」だ。

それを解決したのが「全エンジニアのハイブリッド化」だった。

石橋CTOが定義するハイブリッドエンジニアとは、サーバサイド、ウェブ・フロントエンド、ネイティブ・フロントエンドの3側面を全て担当できるエンジニアのこと。通常のインターネットサービスは、データベースやネットワーク回りなどのサーバサイド、ウェブUIを含むユーザーの目に見える部分のウェブ・フロントエンドなどそれぞれでエンジニアが専属担当する。

同社の場合、従来はサーバサイド、iOS、Androidの3分野で専属エンジニアが業務を行っていたが、それを一貫して担当できるエンジニアを育てるという取り組みである。

石橋CTOは自身が「非ハイブリッドエンジニアだった」と語る。iOSとAndroidに関する知識がなかったため、ゴールデンウィークの時間を使って1カ月ほどで知識を習得した。その後、ノウハウを得た石橋CTOはエンジニア合宿を実施。エンジニアに普段担当していない分野をアサインし、分からないことを教えあう形式を採用した。現在では所属エンジニアの半数がハイブリッド化している。

ハイブリッド化の成果リソース不足の解消、生産性の向上、バグチケットの起票率2分の1、問い合わせの数2分の1、新規施策の実行3.5倍など明確に現れた。

また、生産性も向上した。1つの機能をリリースしようとすると分業担当制の場合、その担当者が多忙で対応できないとその段階で開発が止まってしまう。だが、分業せずハイブリッドエンジニアが一貫して担当すれば他者に影響を受けることがない。もちろん全てを担当するエンジニアには業務効率の向上が必須だが、その姿を見た他の社員は自然と刺激も受け、今後も良い業務環境が続くだろう。

 

本番環境をフルスクラッチで整備。急激なトラフィック増に対応して成長した「全員ダブルワーク」体制の力

「事故からはじまるスケールチャンス」と興味深いタイトルのプレゼンを披露したのは、株式会社オモロキの和田祐介CTO。今やバズるネタ元には高確率でbokete(ボケて)の存在が見えるまでに成長した、ユーザー投稿型サイトである。お題となる1枚画にユーザーが好きなコメントを付けていくスタイルを採用したシンプルなサービスだ。

順風満帆に見える同社だが、サービス開始当初の2008年9月から4年間ヒットに恵まれずに細々と運営されていた。しかし、2012年5月突然サーバからのアラートが発生。蓋をあけると事故ではなく、平穏運営の間に蓄積されていた投稿コンテンツがまとめられ、そのまとめが人気を呼んだことによる急激なトラフィック増だった。

対応に追われる和田CTO。4年前にリリースしたサービスは細かなメンテナンスを施してはいたが、2012年段階の最新技術は取り入れておらず、同時に提供しているアプリが本番環境でしか動かないという致命的な問題も抱えていた。

そこで、システムをフルスクラッチで再構築することを決意した。これは本番稼働しているサービスの仕組みをイチから作り直すわけだから、大きな決断である。失敗したり作業が遅れれば、サービスは停止・遅延するなどの問題が発生する可能性がある。だが、無事にシステムへの移行を成功させ、順調にアクセス数は増加していった。

すると次はマネタイズ必要性が出てきた。オモロキは創立当初、和田CTOと代表の鎌田武俊氏の2名体制であり、お互い本業を抱えたいわゆるダブルワークのプロジェクトだった。そこで仲間探しをするのと同時に、不得手なことを外部のパートナーに委ねるという戦略を採用したのである。

現在も同社代表の鎌田氏は熱海在住だし、和田CTOは父の和田正則さんと2人と立ち上げた株式会社ワディットの代表取締役でもある。集まったメンバーは社員ではなく役員で、全員が本業を持つダブルワーカーだ。定期的に熱海の同社オフィスに集合して外の経験を活かし、オモロキの仕事をする形式を取っている。

質疑応答で「CTOとしてオモロキでしたいことは何か?」と聞かれた和田CTO。「メンバー全員でビジョンを共有している、アフリカのタンザニアでbokete(ボケて)を展開するというような世界展開を実現したい」と語り、まとめとした。

CTOオブ・ザ・イヤーの意味とスタートアップにおけるCTOの存在

CTO Nightは日頃の成果をたたえ合うことが目的であり、優劣を付ける場ではない。自社のため、仲間のため、そしてユーザーのために考え実行してきた業務を共有し、先輩CTOからのコメントを受けて、新しいヒントが得られる場となったようだ。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。