来客対応を自動化するRPA(Robotic Process Automation)サービス「ACALL」を提供するACALL。同社は4月24日、ジェネシア・ベンチャーズとみずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資により約1億円を調達したことを明らかにした。
今回の調達を受けて、IoT連携のためのAPI開発やコワーキングスペース向けのサービス開発などプロダクトの改良や、事業基盤の強化を図るという。
一連の来客業務を効率化、生産性の向上とおもてなしをサポート
ACALLはiPadを活用した受付業務の効率化を始め、オフィスなどの来客対応時に生じる一連のオペレーションを自動化するサービスだ。アポイントの作成から会議室の予約、リマインドメールの送信、当日の入館手続き、そして商談終了後の退館手続きやサンクスメールの送信といった各業務にかかる負担を削減する。
個々の機能については後述するが、大きな特徴は「来客プロセス」に焦点を当てて必要な機能をまるっと提供していること。そしてそれらの機能を自社の用途に合わせて柔軟に組み合わせ、独自のプロセスを設計できることだ。
「当日のビルの入館手続き、オフィスでの受付対応、お茶出しなど一連のプロセスには最大で4〜5名の手がかかってしまうようなケースもある。それらを自動化・効率化することで最終的には担当者1名でも対応できるようになるといいよね、という思いで開発している」(ACALL代表取締役の⻑沼⻫寿氏)
2016年の7月に正式リリースし、2018年3月末時点で上場企業からスタートアップまで約630社に導入済み。業種や規模はさまざまだが「来客受付を効率化したいスタートアップや中小企業」「入館ゲートや自動ドアとの連携から始まり、一連の業務をスマート化したい大企業」「ゲストの来訪管理といった頻繁に発生するオペレーションをシステム化したい共有スペースのオーナー」という3つのニーズが多いという。
たとえばACALLとiPadを活用した受付業務の流れをみてほしい。まず来客対応をする側(ホスト)がACALLの管理画面、もしくはGoogleカレンダーなどのスケジューラーと自動連携してアポイントを作成するところがスタートだ。これによって来客側(ゲスト)にアポイント情報が届くとともに会議室が自動で予約される。
ゲストに送られてきた情報にはアポイントコードとQRコードが含まれているので、当日は受付にあるiPadにコードを入力するかQRコードをかざせばホストに直接通知が届く。ChatWorkやSlack、SMSなど複数の外部アプリと連携できるため、来客の通知は普段使用しているアプリで受け取れる。ゲストを不安にさせないように「すぐ参ります」などホストからの応答をiPad上に表示することも可能だ。
また入館ゲートや自動ドアとのIoT連携を通じた入館手続きのスマート化にも対応。受付のiPadから手続きをすると入館証や入館シールが印刷される機能を搭載していて、これを使えばゲストがわざわざ入館用紙を記載する必要もない。
APIで複数サービスと連携、細かいカスタマイズにも対応
ACALLの特徴は来客プロセスを柔軟に設計できる点だと紹介した。たとえば受付対応についても相手によって必要となるアクションや表示されるメッセージなどを事前にカスタマイズし、自動化することができる。
「メニューからオンオフを操作するだけで必要な機能の組み替えを自由にできることを重要視している。またすでに(スケジューラーやチャットアプリなど)業務用のツールを複数使用している企業も多い。API連携を通じて極力面倒な作業が発生せず、すでに使っているアプリやIoT機器と一緒に使いやすい設計を意識した」(長沼氏)
この考え方は同種のサービスとの違いにも繋がるかもしれない。たとえば受付業務に特化したサービスでは過去にTechCrunchでも紹介した「RECEPTIONIST」などが存在する。同様に会議室の予約など個々の機能ごとでは似たようなサービスがあるものの、「来客プロセスという一連の流れを最適化しようとしているところはほとんどない」というのが長沼氏の考えだ。
「(各機能に特化したプロダクトはあるが)個別で導入すると管理画面だらけになってしまい、担当者が大変だと思った。それらを統合してプロセスレベルで効率化、自動化できることがACALLの価値だ」(長沼氏)
現在は登録できるホスト数や機能数に応じて5つのオフィスプランを用意しているほか、コワーキングスペース向けのプランも提供。今後は大企業やビル会社向けに入館ゲート、自動ドアなどとのIoT連携を強化するためのAPI開発、コワーキングスペース向けプランの改良を行っていく予定だという。
またACALLの根幹となる独自システム「OMOTENASHIエンジン」を海外にも展開していく。2018年後半より既存顧客の海外支店への導入から段階的に実施し、その後はアジア圏を中心に提供する計画。2019年末を目処に国内外2万社への導入を目指す。
ゆくゆくは「商談」の質をあげるサービスへ
もともとACALLは自社の課題を解決するために生まれたプロダクトだ。長沼氏によると「コーディングをしている時に来客対応があると手が止まってしまうし、対応後に再び頭を切り替えるのにも時間がかかるのが課題だった」そう。そこで当初はiPadにRaspberry Pi(ラズペリーパイ)をつけて、来客時にiPadが光るというシンプルな仕様からスタートし、少しずつ改良を加えていった。
すると試しに使ってみた周囲からも評判が良かったため事業化を決定。会社名も2017年12月にACALLへと変更し、さらに加速させるべく今回の調達に至ったという。
まずは来客対応のオペレーション効率化に取り組むが「ゆくゆくは商談そのもののクオリティ向上にむけて機能を拡充していく計画」(長沼氏)。現時点でも商談を活性化する機能として、会議室に設置したiPadに残り時間や当日のアジェンダが表示される「ファシリテーション機能」を搭載。6月を目処にアイスブレーク機能や議事録の作成共有機能も実装していく予定だ。また将来的には来客以外のシーンでも活用できるようにしていきたいという。
ACALLは代表の長沼氏が日本IBMを経て2010年に設立したスタートアップ。これまで複数の企業向けSaaS事業を手がけたのち、2015年にACALLの原型となるプロダクトを開発。2016年7月に正式版をリリースした。