毎年Appleは、ホリデイシーズンの広告を感謝祭に初お目見えする。そしてその広告だけは通常の製品広告とは違って、つねに、“新しい価値観”を訴える広告になっている。今年のAppleは、家族や友だちだけでなく、誰もが自分のまわりのすべての人に優しくしよう、と訴えたいようだ。
監督は2013年のホリデースポットで、エミー賞の最優秀広告賞を取った人。フランケンシュタインを主人公とする、みごとな短編だ。
フランケンシュタインは山の上の一軒家に住んでいる。暖炉のある快適そうな家で、最初の短いショットでは彼はコーヒーか紅茶を飲む。自分のiPhoneを使って、オルゴールを録音する(ぼくもオルゴールは好きだ)。
でも、なにか物足らない。なにか、いまいち、がんばる必要がありそうだ。めったに外出しない彼は、意を決して帽子にたまった埃をはらう。もう何日も、かぶってない帽子だ。
外に出て、やっと彼の顔が映る。それまで視聴者には、彼が室内で鼻歌を歌ってる老人であることしか分からない。しかし実は彼は、片足を引きずりながら歩くモンスターだった。
彼は村の広場へ行き、怖がっている群衆の前で歌う。彼は自分に自信がなく、ためらい、そして途中でギブアップしようとする。しかし一人の少女が彼に手を伸ばして、耳につけたライトを直してあげると、群衆は彼と一緒に歌い始める。
これだけでは分かりにくいか、と思ったAppleは、最後に“Open your heart to everyone”(誰にでも心を開きましょう)というテキストを表示する。ホリデイシーズンは家族や友だちと時を過ごす良い機会だが、同社は、さらにその外を見よう、と言う。
大統領選挙で生じた分裂も、この広告の制作動機の一つだっただろう。みんなが、同じ不安と、同じスマートフォンと、そして同じためらいを共有している。だから、お互いに、優しくなろう。