異常気象や海面の上昇、さらには数百人の米国人を殺し、数十億ドルの損害をもたらした気候変動の主要な要因、二酸化炭素の排出量は、2019年に過去最高を記録することになる。
これは、グローバルカーボンプロジェクト(Global Carbon Project)のデータによる。同プロジェクトは、世界中の研究者のイニシアチブとして、スタンフォード大学の科学者であRob Jackson(ロブ・ジャクソン)教授が率いている。
グローバルカーボンプロジェクトによる予測は、「地球システム科学的データ」(Earth System Science Data)、「環境研究論文集」(Environmental Research Letters)、「自然の気候変動」(Nature Climate Change)と題された3つの論文や記事として発行されている。
これは良くない知らせだ。しかし、楽観的な見方を好む人に対しては、良い知らせもある。二酸化炭素の増加率は、過去2年に比べれば劇的に下がっているのだ。とはいえ、ジャクソン教授の声明によれば、地球上の国々が、エネルギー、輸送、産業に対するアプローチを変えるために大胆な行動を起こさない限り、排出量は今後の10年も増加し続ける可能性がある、と研究者たちが警告しているという。
「昨年よりも排出量の増加が鈍ったというのは確かに良い知らせですが、それで気を抜くわけにはいきません」と、スタンフォード大学の地球、エネルギーおよび環境科学研究所(Stanford Earth)の地球システム科学のジャクソン教授は声明の中で述べている。「排出量は、いつになったら減少し始めるのでしょうか?」とも。
世界的には、化石燃料からの二酸化炭素排出量(これが全排出量の90%以上を占める)については、今年は2018年の排出量より0.6%増加すると予想されている。2018年は、2017年から2.1%も増加していた。また2017は、2016年の排出量と比べて1.5%の増加だった。
研究者によると、石炭の使用量は世界中で劇的に減少しているのに対し、天然ガスと石油の使用は増加している。また豊かな国々での一人当たりの排出量が依然として高いことは、開発途上国からの排出量を相殺するのに十分な削減はできていないのを意味している。途上国では、エネルギーと輸送手段を、天然ガスとガソリンに頼っているのだ。
「豊かな国における排出量の削減幅は、依然としてエネルギーへの依存度が高い貧しい国における増加幅を上回らなければなりません」と、エクセター(Exeter)大学の数学教授であり、グローバルカーボンバジェット(Global Carbon Budget)の論文「地球システム科学的データ」の主筆、ピエール・フリードリンシュタイン(Pierre Friedlingstein)教授も声明で述べている。
進展が見られる国もある。英国とデンマークでは、ともに二酸化炭素排出量を削減しながら、経済成長を達成することができた。The Economistが引用した報告書によると、英国では史上初めて、今年の第3四半期に、国内の家庭や企業に供給された電力量で、再生可能エネルギーによるものが、化石燃料によるものを上回った。
今年初めの国際通貨基金(IMF)の調査によると、風力と太陽光発電のコストが劇的に低下しているため、豊かな国でも天然ガスに対してコストで競合できるようになり、もはや石炭より安価になったという。
それでも、米国、EU諸国、および中国の合計で、二酸化炭素の全排出量の半分以上を占めている。米国における排出量は、前年比で減少し、1.7%減少すると予測されている。ただしそれだけでは、中国などの国々からの需要の増加を埋め合わせるには十分ではない。中国における排出量は、2.6%増加すると予想されているのだ。
そして米国は、安いガソリンや大型車への依存症を断ち切る方法をまだ見つけていない。米国が、気候変動の拡大を緩和できるはずの乗用車による排出規制を放棄したことも、悪い方に働いている。それはそうとして、米国の現在の自家用車の所有率が世界に与える影響を考えれば、交通手段を根本的に改革する必要に迫られている。
前出の報告によれば、米国の一人当たりの石油消費量はインドの16倍、中国の6倍となっている。また米国には、ほぼ一人あたり1台の車があるが、その数字はインドでは40人に1台、中国では6台に1台だ。どちらの国でも、もし所有率が米国と同様のレベルに上昇すると、いずれも10億台の車が走り回ることになる。
グローバルカーボンプロジェクトが報告したスタンフォード大学の声明によれば、世界の二酸化炭素排出量の約40%は石炭、34%が石油、20%が天然ガスによるもので、残りの6%はセメントの製造など、他の発生源に起因するものだという。
「米国やヨーロッパで、石炭の使用量を削減すれば、二酸化炭素の排出量を減らし、雇用を創出し、空気をきれいにすることで人命を救うことにもつながります」と、スタンフォード・ウッズ環境研究所(Stanford Woods Institute for the Environment)、およびプリコート・エネルギー研究所(Precourt Institute for Energy)の上級研究員でもあるジャクソン教授は、声明の中で述べている。「より多くの消費者が、太陽光や風力など、より安価な代替エネルギーを求めているのです」。
政策、技術、社会的習慣の変化などの組み合わせによって、まだ行程を逆戻りさせることができるという希望はある。新しい低排出車の導入、新たなエネルギー貯蔵技術の開発、新しい応用分野におけるエネルギー効率と再生可能電力の継続的な進歩には、それなりの明るい希望もある。そして、排出量の多い牧畜や作物栽培に対する代替手段への社会的な取り組みも有望だ。
「気候変動に対して、あらゆる対策を講じることが必要です」と、ジャクソン教授は声明で述べている。「そこには、より厳しい燃料効率基準、再生可能エネルギーに対するより強力な政策的インセンティブ、さらには食事の変革、炭素の回収と貯蔵技術、などが含まれます」。
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(翻訳:Fumihiko Shibata)