Visual Basicフルバージョン無料に、.NET、オープンソース化へ
サティア・ナデラがスティーブ・バルマーの後任としてMicrosoftのCEOに就任したのは今年の2月で、まだ9ヶ月経っていない。だがナデラはMSウォッチャーの予想を大きく上回るスピードと規模でMicrosoftの改革を進めている。
まず11月に入ってiOS版Microsoft Officeが無料化されるとたちまちApp Storeのトップに飛び出した。Microsoftは手を緩めることなく、11月13日には開発プラットフォームの中心をなす2つのプロダクト、Visual Studioを無料化し、.Netをオープンソース化することを発表した。
Visual Studioの無料化は即日実施され、日本でもすでにダウンロード可能だ。無料版は個人または5以下のチームでの利用という制限がつくが、機能は有料フルバージョンとまったく変わりなく、商用アプリの開発も自由だ。高度なツールの利用は有償で、MicrosoftはVisual Studioをフリーミアムモデル化したことになる。
.NETのサーバサイドはオープンソース化されると同時に、クロスプラットフォーム化されてMacとLinuxに移植される。クラウドとエンタープライズ担当「われわれはデベロッパーからしばしば『.NETはすばらしいプロダクトだと思うが、クローズドでWindowsしかサポートしていないから使わない』という声を聞いていた。水曜日の発表を聞けば.NETを使わない理由がすべて消滅したと知るだろう」と述べた。実際、そのとおりだろう。
Microsoftの改革は行き当たりばったりの対症療法ではなく世界におけるMicrosoftの役割を的確にとらえたサティア・ナデラのビジョンに支えられている。ナデラはMicrosoft本社で開催されたイベントで、Apple、GoogleとMicrosoftの本質を比較し、「Appleはデバイスを売るメーカー、Googleはデータの処理と広告の企業だ」と述べた。それに対してMicrosoftは、
プラットフォームのプロバイダー、ツールのプロバイダーであることこそ、Microsoftの根本的なアイデンティティなのだ。
と述べた。つまりWindowsやOfficeなど個々のプロダクトが問題なのではなく、膨大なユーザーにコンピュータとインターネット上でさまざまなプロダクトを作る力を与えることがMicrosoftの本質なのだ、という大胆な自己認識だ。モバイル化でAppleとGoogleに出遅れ、クラウド化でAmazonに出遅れたMicrosoftだが、時価総額はAppleに及ばないもののまだGoogleより大きい。利益率も依然高い。勢いが落ちていないうちの改革は成功する可能性が高い。11月15日には懸案だったSkypeのウェブアプリ化もほぼ完成した。手を緩めることなく着実に進み続けるナデラのMicrosoftの将来には期待が持てる。
Amazon、re:Inventデベロッパーカンファレンス開催
今回のre:Inventでは派手なローンチはなかったが、それでもこのデベロッパーカンファレンスの前後で新しいプロダクトがいくつもリリースされた。エンタープライズからみていちばん興味をひかれるのはAuroraリレーショナル・データベースのリリースかもしれない。MySQL互換だが、高パフォーマンスで既存の同種のサービスの10分の1くらいの料金だという。AWS上でDockerコンテナを管理するEC2 Container Service ステートレスでイベント・ドリブンのコンピューティング・サービスIntelがAmazon専用に作ったプロセッサを使用したこれまでで最速のEC2インスタンスなども発表されている。
カンファンレンスの会場ではないが、ジェフ・ベゾスは奇妙なデバイスを発表した。Mac Proを思わせなくもない黒い円筒形で常時オンの音声認識機能とスピーカーが仕込まれたAmazon Echoというパーソナル・アシスタントだ。グレッグ・クンパラク記者は「そのうち音声認識のゼロクリック買い物端末に化けるはず」と揶揄しているが、べゾスもできればそうしたいだろうが、ショッピングに利用するには安全な認証が大きな問題になるだろう。
なおeブック関係の話題としては、HachetteとAmazonがKindle版価格設定問題で和解した。AmazonはHachetteに価格設定権を認めるが、Amazonに対して安い価格を設定した場合には金銭的インセンティブを与えるのだという。詳細は明らかになっていないが、双方ともクリスマス商戦を前に消耗戦を続けるのは割に合わないと考えたのだろう。
GoogleはNASAからモフェット基地を全面借受、イーロン・マスク、宇宙計画に参入
Googleはマウンテンビュー本社キャンパスのお隣のモフェット基地の滑走路をプライベートジェットの発着に借りていたが、こんどは基地全体の運営をNASAから全面引き継いだ。1930年代にアメリカ海軍が飛行船の格納庫として建設したハンガーワンも修復して利用するという。秘密研究所Xが主として利用するなるらしい。気球やドローンで辺鄙な地方にインターネット接続を提供するというバルーン計画の本拠もここになるのだろう。
11月に入ってバージン・ギャラクティックのスペースシップ2が墜落してパイロット1人が死亡、1人が重傷を負う事故があり、ブランソンの民間宇宙旅行ビジネスの計画も大きく公開した。その一方でテスラのCEO、イーロン・マスクのもうひとつのベンチャー、SpaceXが多数の小型衛星のネットワークで地球を覆うインターネット接続提供を計画しているという報道を確認した。正式発表は数ヶ月になるもよう。700基もの衛星を打ち上げる資金をどのように調達する計画なのか興味が持たれる。