仮想通貨やICOは資本主義をどう変える?——CAMPFIRE、VALU、Timebankが語る

左からフリークアウト・ホールディングス代表取締役の佐藤裕介氏、メタップス代表取締役の佐藤航陽氏、VALU代表取締役の小川晃平氏、森・濱田松本法律事務所の弁護士・増島雅和氏、CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏

8月3日から4日にかけて北海道・札幌市で開催中の招待制イベント「B Dash Camp 2017 Summer in Sapporo」。初日のセッション「仮想通貨がもたらす信用経済と新たなビジネス」には、CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏、森・濱田松本法律事務所の弁護士・増島雅和氏、VALU代表取締役の小川晃平氏、メタップス代表取締役の佐藤航陽氏が登壇。ICOの可能性や評価経済のこれからについて語った。モデレーターはフリークアウト・ホールディングス代表取締役の佐藤裕介氏が務めた。

そもそも、ICO(Token Sales)とは何か?

最近ではTechCrunchの誌面でもよく見かける「ICO」というキーワード。Initial Coin Offering、つまり仮想通貨を発行することでの資金調達を指すこの言葉だが、実はまだその実情を理解できている人は少ないのではないだろうか。モデレーターの佐藤氏はまずそう語り、増島氏がICOの特徴を解説するところからセッションはスタートした。

ICO(増島氏はToken Salesとも表現した)はつまりトークン(独自の仮想通貨)を発行することで、資金を調達する手法。これを有価証券(株式)を使った資金調達と比較すると、次の図の通りだ。

増島氏が説明した有価証券とICO(Token Sales)の違い

株式でもトークンでも、特定の資金調達目的のために発行するが、その価値の基準は、株式での調達は事業体のキャッシュフローの割引現在価値を表す(ざっくり言えば、事業体が金を稼いでいるか、今後稼げるか)ことに対して、トークンでの調達はネットワーク全体の価値を表す(事業体が稼げるかだけでなく、ソーシャルグッドなアクションをすることで価値が高まることなども価値になる)という。

また株式はリアルな取引を行うため、流動性は低く国ごとの規制がかかる、トークンの取引はインターネットで完結するため、流動性が高く、国ごとの規制にはかからないという。流動性が高い分、ボラティリティも高くなるという。増島氏はICOについて、「やってることの本質は『グローバルな購入型のクラウドファンディング』だ」とまとめる。

ICO設計時の注意点

日本では昨日テックビューロがICOプラットフォーム「COMSA」を発表したばかりだが、世界を見ると、すでに直近12カ月(6月時点)でブロックチェーン関連企業がICOで調達した資金の総額が、VCからの調達額を上回っているのだという。

そのCOMSAの導入第3弾企業としてプレスリリースにも名前が挙がっていたのがCAMPFIREだ。家入氏は「早速株主から電話がかかってきて『どういうことだ』と聞かれた」と導入についてぼかして語った上で、クラウドファンディングとICOの関係について説明する。

「サービスを開始して6年、7年とやってきて、ICOの流れが急にやってきた。クラウドファンディングとしてこの波に対して“我関せず”のままではむしろ死んでしまう。自分たちに何ができるかを考えた結果、自分たちがICOをやろうかと。そう検討している中で(COMSAに)声をかけてもらった」(家入氏)

CAMPFIREが取り組むのはICOだけではない。ビットコインでプロジェクトを支援できる仮想通貨取引所の「FIREX」、プロジェクト終了後の資金ニーズを支援する融資サービス「CAMPFIREレンディング」なども展開している。家入氏は、「インターネットの本質は声を上げたくても上げられなかった人が声を上げられるという1点に尽きる。経済格差も広がっている中で、社会からこぼれ落ちてしまう人がいる」と語った上で、ICOが社会貢献的な領域の資金ニーズを解決できることがまだまだあるのではないかとした。

仮想通貨でプロジェクトを支援する「FIREX」

ここでフリークアウト佐藤氏は、ICOがIPO、つまり既存の証券取引所に上場することの代替になるのかを増島氏に尋ねる。

「まだ実証されていない領域なので試行錯誤ではあるが、現状トークンを出している上場企業があるかないかというとある。(東証JQGの)フィスコが『フィスココイン』をやっている。問題があるか、ないか、というと『ないはず』だと思っている。トークンと株の関係が論点になるかもしれないが、(トークンは)有価証券ではないので不明だ」(増島氏)

VALUのユーザーは想定の10倍に成長

テック業界から人気に火が付いたVALUは、ユーザーが自身を上場企業に見立てて、自分の価値を「VA」という単位でビットコインをつかって売り買いできるサービスだ。小川氏はVALUが直接的にICOであることを否定した上で、「個人をトレーディングカードのようにして上場させるサービス」だと説明する。

サービスのローンチは6月だが、ICOの隆盛といった追い風もあって、「想定していたユーザーは5000人くらい。だがそれが10倍ほど集まった。土日や夜9時以降のサービスは提供していなかったが、想定外の反響を集めている」(小川氏)と語る。サービス開始当初は取引の制限がなかったこともあって、価格が高騰するような事態にもなったが、その後はマンガ家やクリエーターなどが続々参入。コミュニティも形成されつつあるという。小川氏はVALUのミッションについて、「人の価値を発掘し、高める」ことにあると語る。

Timebankは個人の価値が大きい時代のためのサービス

メタップスが今秋提供予定のサービスは「Timebank」。これはスペシャリストの「時間」を時価で売買するというサービスだ。メタップスの佐藤氏はサービス提供の経緯について、「『空間』を売買することは『不動産』として以前からあるが、『時間』を売買できないのが不思議だった。時間こそ時価でやり取りすべきものではないか」と語る。

「Timebank」のイメージ

また佐藤氏は、Timebankがいわゆる「評価経済」の文脈から提供されているのではなく、中国のライブストリーミングなどに影響されて企画されたサービスだと語る。「中国の女の子たちが、働かないで(ライブストリーミングで)歌って投げ銭が来るとかそういうところからきた。まずは私の価値か会社の価値、どちらが大きいか試してみたい。個人的には個人の(価値が大きい)時代になって欲しいと思っている」(佐藤氏)

ところで、こういった新しい「価値」たちは、実際にどんな機能を果たしているのだろうか。小川氏はVALU上でのクリエーターの立ち位置についてこう語る。「今は画像しか投稿できないが、クリエーターやマンガ家さん、面白いことをやっている人はかなり人気になっている。フリーランスは社会的信頼は低いが、VALU内では人気を集めている」(小川)。これに対して、増島氏は、ネットワークを作るタイプのビジネスと、ICOや新しい価値の経済がマッチすると語る。

評価経済は資本主義をひっくり返す?

フリークアウトの佐藤氏は、最後にICOをはじめとした新しい価値の経済が広がれば、どんな世界が待ち受けているのかとパネリストに問いかけた。

「あまり中央集権化が重要ではなく、経済も自由に選べるようにしたい。選択肢が増えれば、勝ち組負け組もない。(今の経済での負け組は)『自分の経済が違う』となる。それをやっていきたい」(メタップス佐藤氏)

「色んなものが『価値化』されていくと思う。NPO法人などを、今のVCが支援してもいい。それをトークンで担保したりできる。生まれた時点で違う価値をどう評価するのか、そこに面白みを感じる」(小川氏)

「CAMPFIRE自体はいろいろ考えていかないといけないが、ICO的な手段がどうなっていくかというと、時代がやってくるのは分かっていて、その先にあるのが評価経済。『こいつだめだなあ』という人を助ける世界。今シェアハウスを作ろうとしているが、ICO的なものでできないか考えている」(家入氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。