ソニーのPlayStation 2が発売されたとき、私は家電量販店のCircuit Cityで働いていたので、何週間にわたって入荷する端から売り切れが続くのを目撃することになった。ゲームコーナーのブルーのデモ機の回りにはいつも人だかりができていた。後から考えればPS2がなぜあれほどのヒットとなったか理解するのはたやすい。パワーがあり創造的で地元のゲーム環境でも段違いに優れていた。当時のゲーム環境では理想的なデバイスだった。
最近の任天堂の成功から教訓を学べるとするなら、将来の環境に適合させるより現在の環境に適合させるほうがはるかに重要だという点だろう。
Nintendo Switchのスマッシュヒットで今期の営業利益は対前年比で88%アップするという記録的な好成績となった。任天堂はSwitchの発表以来、2000万台弱のシステムを販売することに成功している。これは Wii Uのトータル販売台数を抜き、Gamecubeの2170万台に迫る勢いだ。
いくら言っても足りないぐらいだが、Switchは偉大なシステムだ。そして、他の成功したプロダクトと同様、現在の環境に適合している。軽く、小さく、ポータブルであり、クラウドサービスに強く依存している。Switchは市場でもっともパワフルなシステムではないし、4kビデオやVR機能もない。SwitchはYouTubeもNetflixもサポートしていない。純然たるゲーム専用機だ。
Switchは任天堂にとって大きな賭けだった。同社は発売後ほどなくWii Uに見切りをつけた。このデバイスはMario Kart 8とSplatoonを除けば、よいゲームに恵まれなかった。任天堂は魔力を失ったかに見えた。しかし、ある意味で、Wii UはSwitchを生むために任天堂が通らねばならない段階だった。 Wii Uはゲームを居間のテレビから引き離し、ゲーマーの手に戻した。だがWii Uの場合、ゲーマーはベースステーションが置かれている部屋に留まる必要があった。Wii Uではゲーマーのテレビからの解放は十分とはいえなかった。
Switchが登場したときには、モバイル・ゲームの脅威は過去のものになっていた。数年以前にはスマートフォンがカジュアル・ゲームの市場も飲み込んでしまうだろうと真剣に考えられていた。ソニーでさえこの考え方に影響され、ゲーム機とスマートフォンのハイブリッド、Xperia Playを発表したほどだ。なるほど現在もスマートフォン・ゲームは健在だが、ゲーム専用機の世界まで飲み込むようなことは起きなかった。Xbox OneとPlayStation
4が発表されるとゲーマーは居間のソファに腰を落ち着けた。しかしSwitchが提供したものはこれと違っていた。しかもタイミングが絶妙だった。
当たり前のことを繰り返すようだが、Switchはモバイル・デバイスだ。そしてこれが現在の環境で必須だった。モバイルであることがXbox OneやPlayStation 4にない機能であり、しかも実装が優れていた。それまでの任天堂製品と同様、グラフィックスの精度は平均をやや下回っていたし、その他の機能のスペックもライバルほどではなかった。しかしその点は問題にならなかった。Switchはゲーム体験が優れていた。ともあれ私にとってはそうだ――私はSwitchを長旅の飛行機に持ち込んだが、PS4ではそうはいかない。
多くのゲーマーも同意見だったことは2017年の発売以来、2000万台という販売台数が証明している。ちなみに2013年発売のXbox Oneの販売台数が2500万台から3000万台の間とみられている。この世代のゲーム専用機の勝者はもちろんPlayStation 4で8000万台近くの台数が販売されている。またここでもソニーはPlaystation 4を現在のゲーマーを対象として作ったことが成功の原因だと主張することができるだろう。ソニーはMicrosoftがXbox Oneでサポートしたさまざまな付加機能をすべて省き、純然たるゲーム機としてデザインした。
実は任天堂がこうした方法で成功したのは今回が初めてではない。Wiiが発売されたのは2006年だった。その後の売上トータルは1億台を超えた。2006年にソニーはPlayStation 3、MicrosoftはXbox 360でHDゲームを強くプッシュした。これにはもっともな理由もあった。消費者は争って最初のHDTVを買っていた。そこでソニーとMicrosoftは未来の環境のためのシステムを用意した。PS3もXbox 360も長期に渡って健全な売れ行きを示した。しかしどちらもWiのような桁外れの成功を収めることはできなかった。
Wiiは新しく、見た目にも快かったので2006年と2007年のクリスマスでなくてはならぬプレゼントの地位を占めた。PS3と比べるとWiiのグラフィックスは子供っぽいといっていいくらいだった。しかしこれがかえって魅力の一部となっていた。初代のゲーマーたちは成長し、家庭を持つようになっいた。Wiiは両親から子どもたちまであらゆる年齢層にフィットした。誰もがWiimoteを振り回してテニスのボールを打つのに興じた。コアなゲーマーは別として、カジュアルゲームファンにはWiiは十分に魅力的な魔法だった。Wiiは時代環境に適切なタイミングで適切にフィットするシステムだった。
さて任天堂にとってはこの次がもっとも困難なステップとなるだろう。Switchは大成功を収めた。任天堂は活気あるエコシステム維持することができるようなゲームを開発し、サポートしていかねばならない。任天堂が優れたゲームをすべて内製することは不可能だ。任天堂はゲームのデベロッパー、パブリッシャーと協力し、そうしたサードパーティーがエコシステムに貢献する熱意を失わないよう努めていく必要がある。それができるなら、任天堂にはWiiに続いてSwitchでも一世代をまるごと飲み込むような成功を収めるチャンスが生まれるだろう。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)