健康保険や福利厚生が必要なフリーランスにはCatchがある

最も注目を集めているY Combinatorスタートアップの1つであるCatchは、UberやPostmates、そしてギグエコノミーにかき回されて滅茶苦茶になった状況を整理すべくシードラウンドで多額を調達した。Catchは、フリーランスや業務委託者(コントラクター)、その他の福利厚生が受けられていない人に健康保険や退職金積立プラン、源泉徴収サービスを販売している。シンプルにした社会保障給付サービスを構築して整理することで、Catchは将来のセーフティーネットを提供できる。

「この競争社会で存続し続けるには、不平等や変動性を解決する必要がある。我々が思うにCatchは、雇用主や政府のみが福利厚生の給付ができるというところに、別の選択肢を提供する初の存在となる」とCatchの共同創業者でCOOのKristen Tyrrell氏は書いている。同じく共同創業者でCEOのAndrew Ambrosino氏は、企業であれば通常、人事マネジャーを雇ってさばく書類作業やプログラムをこなすのに苦労し、そこに問題があることに気づいた。「福利厚生給付をセットアップするのは大変だった。この分野の専門家になる必要があり、たとえ専門家になっても必要な福利厚生給付を実行するのはかなり難しい」。Catchは、こうした面倒だが必須の作業をあなたに代わってすべて引き受ける。

Catchは数万ものユーザー向けにプロダクトを試験展開し、そしていま本格化させようとしている。TechCrunchが見たところ、かなりの競争となったシードラウンドを完了させた。Khosla VenturesやKindred Ventures、NYCA Partnersが共同で主導したこのラウンドで510万ドルを調達し、評価額は2050万ドルとなったことをCatchは明らかにした。100万ドルものプレシード投資に続く今回のラウンドでの調達金は健康保険や生命保険のサービス拡大に使われる。最も優れたY CombinatorスタートアップはDemo Dayの前に十分に資金調達するという傾向があるが、Catchはそのうちの1つだ。

「雇用主がつくって提供するシステムとしての福利厚生は中世の中流階級を作り出した。戦後の経済が発展し、企業は健康保険や、家族が末長く安定して暮らせるような年金という形で福利厚生を提供している」とTyrrell氏は語る。Tyrrell氏は以前、学生の借金返済給付スタートアップのFutureFuel.ioでプロダクト担当のディレクターを務めていた。「民間部門の成長により(明らかに自給自足だ)、1970年代と80年代には、金融リスク管理は政府から雇用主へと大きくシフトした。公共のセーフティネットは民営化というソリューションを選んだ。テクノロジー発展が進むにつれ、雇用主と従業員は仕事はどうあるべきか再定義を続けた。官僚的でフレキシブル性に欠ける給付システムは変化に対応することができず、民間の社会保障は崩壊した」。

オンデマンドエコノミーの出現で、問題は近年大きくなりつつある。オンデマンドエコノミーでは数百万人がUberドライバー、Instacart買い物客、 DoorDash配達人、TaskRabbit従事者となった。一方、リモートワークやデジタル的遊牧生活に非難の目が向けられていたため、より多くの人がフリーランスや業務委託者、福利厚生なしのフルタイム従業員を選ぶようになった。「新しい労働階級が出現した。収入に変動があり、しかもその収入は入り組んでいて、かつ自動貯蓄や個人向けの退職プラン、独立した健康保険のような二次的な金融商品へのアクセスが限られている人たちだ。我々は、インターネットの急激な浸透で生まれた新たな機会でもって新ミレニアム時代に突入した」とTyrrellは声高に話した。「過去15年は型にはまらないプロレタリアートに借りをつくった。今こそ、個人に合った、使い勝手のいい、モダンでフレキシブルなセーフティネットを作るときだ」。

現在Catchは以下のようなサービスを提供している。いずれも独自のもので、それぞれに売上を上げている:

・Health Explorer(健康保険)
ユーザーが保険業者のプランを比較でき、補助金を計算する。Catchはブローカーとしての役割を果たし、保険業者から手数料を回収する。

・Retirement Saving(老後の備え)
ユーザーは年金制度のIRAとRoth IRAに対応するCatchのロボアドバイザーを使うことができる。Catchは貯蓄資産に関する業界基準の1ポイントを得る。

・Tax Withholding(源泉課税)
のちに支払うことになる税金にあてる金を自動的に貯められ、米連邦預金保険公社の保護を受けられるCatchの口座が提供される。Catchは貯められた金の利息を得る。

・Time Off Savings(休暇のための積立)
休暇中も収入が得られるようにするため、Tax Withholding同様にその資金を自動的に貯められる。Catchはその利息を得る。

こうしたサービス、そして残りのサービスもGuideを通じて管理されている。どういった給付を利用していて、何を必要としているのかについて、いくつかの質問に答え、銀行口座をコネクトし、どういったプログラムを希望していて、ノーティフィケーションを受け取るようにするかどうかを選ぶ。ノーティフィケーションはCatchがユーザーの決定や承認を必要とするときに送られてくる。複雑な手続きは最小限になるようにデザインされていて、もしあなたに子供がいるなら、再設計するかわりにワンクリックであなたのプログラムに子供を加えることができる。そうしたシンプルさがCatchの爆発的成長に火をつけ、源泉課税や休暇のための積立、老後の備えの残高は、過去3カ月毎月300%ずつ増えている。

2019年には、Catchは自社ブランドの学生ローン返済、眼科・歯科治療保障、LadderやEthosといったパートナーを通じての生命保険と補助金、Blue ShieldやOscarといった既存保険会社を通じての保険料支払いなどを新たに展開する計画だ。そして2020年には、自社でブレンドした老後の備えソリューションや、収入の平準化ツールをつくりたいと考えている。

もしこうしたサービスがあなたの興味を引くものでなければ、それこそがポイントだ。そうしたかなりつまらないことをあなたがアシストなしにこなす代わりに、Catchがそれを引き受ける。給付サービスGuideはウェブで使えるようになっていて、iOSとAndroidのベータアプリも間もなく展開される予定だ。Catchは消費者に直接販売することにフォーカスしている。というのも、「あまりにも多くのスタートアップが、自分たちのプロダクトが必要とされていると認識する前に販売チャネルやパートナーシップのところで時間を無駄に費やし、迷い込んでしまった、というケースを見てきたからだ」とTyrrellは書いている。ゆくゆくは、ユーザーが支払いを受けているところに直接機能を統合させたい、とCatchは考えている。

Catchの最大の競争相手はExcelスプレッドシートで手当たり次第福利厚生を管理している人たち、そして政府のヘルスケアと特定のプログラムのためのソリューションの寄せ集めだ。米国民の21%が退職後に向けた貯蓄はゼロで、これはCatchの事業拡大にとっては課題であると同時に大きなチャンスでもある。競合する1社、Track.taxはサブスクリプション料金を課していて、これがCatchに客を奪われている原因となっている。BettermentやWealthfrontのような自動応答アドバイザーは、収入がかなり不安定なギグワーカーにはあまり向かない。福利厚生が抑えられたギグエコノミーは、我々の手助けになるものなのだろうか、それとも妨害するものなのだろうか。Catchの創業者たちはどう考えているのだろう。「物事は複雑だが、結局のところギグエコノミーの現況は社会にダメージを加えている。フリーランスや業務委託者にサポートを提供するよりいいシステムなしには、彼らを不安定な状況にし、彼らは経済的にも成功しない」。

心配事はないか尋ねたところ、「セーフティーネットは個人向けに作られていない。人事部門や雇用主を通じて提供されるようにでできている。我々が提供するプロダクトが、グループもしくは企業のプロダクトと同じくらいしっかりしたものでないことをかなり憂慮している」。例えば、IRAだと個人向けには年6000ドルという限度があるが、同じような企業の確定拠出個人年金制度401kの限度は1万9000ドルだ。そして健康保険は個人向けよりグループ向けの方が安い。

そうした懸念を乗り越えるために、Catchはさまざまな種類の金融サービスをつくったエンジェル投資家の膨大なリストをつくった。このリストには、NerdWallet創業者Jake Gibson氏、 Earnest創業者Louis Beryl氏、Ben Hutchinson氏、ANDCO(Fiverrに買収された)創業者Leif Abraham氏、Totem創業者Neal Khosla氏、Commuter Club創業者Petko Plachkov氏、Playable(Stripeに買収された)創業者Tad Milbourn氏、そしてSynapse創業者Bruno Faviero氏が名を連ねている。そしてまた、さまざまなベンチャーファンドも組み入れた。そこには、Urban Innovation Fund、Kleiner Perkins、Y Combinator、Tempo Ventures、Prehype, Loup Ventures、Indicator Ventures、Ground Up Ventures、そしてGraduate Fundが含まれる。

3つの主な出資団体がいて、そのほかにも多くの出資者がラウンドに参加したという事実により、どの出資者もCatchを監督する責任はないと考えていないことを願う。米国民の8000万人が雇用主がスポンサーとなった社会保障給付がなく、2700万人が健康保険に加入していない。そして25〜34才の平均在職期間が2.8年であることは仕事の格差につながっていて、我々の労働力は強固なものではない。Catchは、ドジをする人にも救いの手を差し伸べる従来型のソフトウェアスタートアップのような運営はできない。注意深く動き、諸事を確固たるものにすれば、労働者の信頼を得て、福祉全体において重要な存在になるだろう。

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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