28歳と若手のベンチャーキャピタリストが、また1人誕生した。
スタータアップのイベントなどに顔を出す人であれば、サムライインキュベートの両角将太(もろずみしょうた)氏をご存じかもしれない。サムライ創業者の榊原健太郎氏とともに天王洲アイルでSamurai Startup Island(SSI)の管理人としてイベント運営や広報責任者として携わってきた人物だ。
両角氏がサムライにジョインしたのは、SSI設立間もない2011年11月のこと。まだ早稲田大学の政治経済学部に籍を置く学生時代にインターンを始めて、そのまま就活はせずに卒業と同時にサムライに正式に参画。もともと会計士の勉強をしていたものの、起業家をインタビューするサイトを運営しているうちにスタートアップへとどっぷり足を踏み入れることになる。
サムライでの4年半の経験を経て両角氏がチャレンジするのは、自身の出身地である福岡を拠点に、サムライが東京で果たした役割を、九州で果たすこと。「起業家同士の横の繋がりを作って、サムライ軍団のようなものを福岡に作りたい」として、新たにシード期のスタートアップへ投資するVC「F Ventures」を設立する。F Venturesでは福岡出身の起業家や福岡を拠点とするアジアや東京のスタートアップを対象に1社当たり500〜1500万円程度の投資を行っていく。組成するファンドは5億円規模を目指していて、出資するLPとしては個人のエンジェル投資家3人と事業会社2、3社になりそうという。
順調に5億円のファンドが組成できたとしても、管理報酬を相場の2%とすると年間1000万円。ファンド運営の経費や人件費などを差し引くと、かなり厳しそう。両角氏にそう聞くと、管理報酬に頼らないモデルを目指しているという。サムライがそうであるように、F Venturesでも大手企業からイベントやハッカソンを請け負う。これは収益確保と同時に大企業とスタートアップを結ぶという意味もあるそうだ。
「先日もIBMや読売ジャイアンツと一緒にハッカソンを企画しましたし、今もすでに5件ぐらい案件を取っています。若いVCが管理報酬でやっていこうとすると資源が乏しくなります。アライアンスが得意なので、これまでやってきたように大企業から回る仕組みを作っていこうと考えています。そうすればエグジットや、次の調達ラウンドにも繋げやすいはずです」
これまで両角氏は、村田製作所やソニー、トヨタ、IBM、ゼンリン、大和証券、さくらインターネット、PLUS、PR TIMES、ソフトバンク、デジハリといった企業と協業してきた実績がある。面白いのは、そうした大手とともにイベントをやったりすると、「大企業の中の人でも感化されて起業する人が増えている」という話だ。
福岡といえば、スタートアップの投資ファンドをもつDOGANがあったり、最近だと福岡銀行が10億円規模の「ふくおかテクノロジーパートナー」を設立するなど、ほかにもファンドはある。ただ、シード期のVCがゼロに等しかった、というのが両角氏の見立てだ。
TechCrunch Japanでもお伝えしてきたように、IoTのSkydiscが1億円を調達したり、ウミーベやクラウドプラットフォームの「Milkcocoa」など、名前の知られたスタートアップが福岡から出てきているが、まだまだ東京の仕事を請け負う受託中心の会社が多いのだそう。コラボツール「Backlog」で知られるヌーラボのように「受託から自社プロダクトへ」という流れを加速して、テック系の人々を「起業に向かせたい」(両角氏)という。LINEの福岡拠点や妖怪ウォッチで知られるレベルファイブなどに優秀なエンジニアが集まるものの、起業しようという雰囲気があまりなく、それはシード資金が乏しく、成功事例が身近に少ないからではないかという。
F Venturesはサムライ同様に3、4人で体制で回す予定で、当初こそ福岡市内のコワーキングスペースや友人のスタートアップのオフィスを間借りするものの、「いずれはコワーキングスペースを作りたい」という。両角氏自身は博多と東京を半々くらいで活動していくそうだ。
福岡といえば、孫正義氏、堀江貴文氏、家入一真氏などIT系でも優れた起業家が出てきているし、福岡出身のタレントや歌手も多いのは皆さんご存じの通り。それは「九州じゅうから福岡に人材が集まるという流れがある」(両角氏)からだ。台湾や韓国とも近く、スタートアップビザ、スタートアップ法人減税など優遇措置もあることから、スタートアップの人材集積地として期待が集まる福岡市。TechCrunch Japanとしては両角氏のような若手が起業家や投資家のハブとなり、良いスタートアップ企業がたくさん生まれてくることを期待したい。