元GCHQのデータ科学者が設立したRipjarが金融犯罪を検知するAIに約39億円を調達

幅広い意味でサイバー犯罪に区分される金融犯罪には、詐欺、マネーロンダリング、テロへの資金供与といったさまざまな不正行為が含まれ、オンライン上の脅威の中で今なお最も影響力が大きい犯罪であり続けている。そのような犯罪に対抗すべくデータインテリジェンスのソリューションを構築してきたスタートアップの1つが本日、さらなる成長を遂げるための資金を調達したことを発表した。

英国の政府通信本部(GCHQ、米国のNSAに相当)で諜報業務に従事していた5人のデータ科学者によって設立された英国企業Ripjar(リップジャー)は、シリーズBで3680万ドル(約38億8000万円)を調達した。この資金は、AIプラットフォーム(Labyrinthと呼ばれる)のスコープと事業規模を拡大するのに充てられる予定だ。

リップジャーによると、Labyrinthは自然言語処理とAPIベースのプラットフォームを使用して構造化データと非構造化データの両方を処理するため、組織は分析したいデータソースをプラットフォームに組み込んでアクティビティを監視できる。Labyrinthは、制裁対象リスト、重要な公的地位にある者(PEP)、取引のアラートなどのデータソースを使用して、アクティビティをリアルタイムに自動でチェックする。

リップジャーに近い情報筋によると、今回の資金調達で、同社は1億2700万ドル(約134億円)の価値があると評価されているという。同社も、現在のところ利益を上げていることを認めている。

資金調達は、フィンテック専門の投資会社であるLong Ridge Equity Partners(ロング・リッジ・エクイティ・パートナーズ)が主導しており、以前の投資会社であるWinton Capital Ltd.(ウィントン・キャピタル株式会社)とAccenture plc(アクセンチュア)も参加している。リップジャーの戦略的パートナーであり、コンサルタント/システムインテグレーターであるアクセンチュアは、リップジャーのテクノロジーを使用して、金融サービス部門の多くの顧客と連携している。リップジャーは政府機関の顧客も抱えており、同社のプラットフォームはテロ対策にも使用されている。具体的な名前の公表は拒否されたが、数多いパートナーの中には、 PWC、BAE Systems(BAEシステムズ)、Dow Jones(ダウ・ジョーンズ)のような企業が含まれていることを同社も認めている。

リップジャーのCEO兼CTOであり、Tom Griffin(トム・グリフィン)氏、Leigh Jones(リー・ジョーンズ)氏、Robert Biggs(ロバート・ビッグス)氏、Jeremy Laycock(ジェレミー・レイコック)氏と同社を共同設立したJeremy Annis(ジェレミー・アニス)氏は次のように語る。「急成長中のソフトウェア企業が規模を拡大する際に専門知識とリソースを提供してくれるロング・リッジと提携できることを大変うれしく思っている。この投資は、世界をリードする当社のデータインテリジェンステクノロジーに対する大きな自信と、資産と繁栄を脅かす犯罪行為から企業と政府を守る当社の能力を示すものだ。今回の資金調達により、当社は世界展開を加速させ、顧客に最先端の金融犯罪ソリューションを提供するとともに、Labyrinthプラットフォームを新たなレベルに押し上げることができる」。

同社は、今年は今までで一番変化の大きい年だと言っている。状況から考えれば当然のことである。2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的流行にともないオンライン取引への移行が大きく進んだだけでなく、世界経済の引き締めにより金融の混乱や新たな不正行為が増加したほか、この不安定な状況から利益を得ようとする犯罪行為も発生している。

これをうけてリップジャーは、6社の新規企業顧客と契約を締結し、4社の主要な既存顧客との取引を拡大した。現在では世界中に約2万の顧客を抱えているという。

筆者と同じように、読者の皆さんも「Ripjar(リップジャー)」という社名が気になっているかもしれない。この社名に意味があるとすれば、それは、同社の取り組みを暗に示唆するものに違いない。

しかし、広報担当者の説明によると「名前には何の意味もありません。これまでに使われたことのない名前を確実に選択するテクノロジーを使用して名前を付けたのです」とのことだった。

世界有数の金融センターの1つであるロンドンは、興味深いフィンテックスタートアップが生まれ育つ場所として高い評価を得ている。人工知能の分野でも有能な人材を輩出している英国は、フィンテックの保護に役立つサービスを構築するスタートアップにとって非常に豊かな土壌になっているということだ。

リップジャーが資金調達して規模を拡大したのは、詐欺や金融犯罪に対抗するためにAIを構築している他の2社が同じく資金調達し成長を遂げてから数か月以内のことだった。7月には、金融犯罪を食い止めることを目指してデータベースとプラットフォームを構築してきたComplyAdvantage(コンプライアドバンテージ)が5000万ドル(約52億8000万円)の資金調達を発表した。その1週間前には、金融犯罪やその他のサイバー犯罪を検知するためのAIを構築している別の英企業Quantexa(クアンテクサ)が6470万ドル(約68億3000万円)を調達している。

リップジャーは、Palantir(パランティア)のような業界大手だけでなく、この2社のことも競合相手だと考えている。ほとんどの場合、金融犯罪に取り組んでいる大企業は、複数の企業のテクノロジーを同時に使用している。

リップジャーは、より高度なアプローチを取っていると主張している。同社のインテリジェンス部門のディレクターであるDavid Balson(デビッド・バルソン)氏は、競合他社に関する筆者の質問に答えて次のように述べた。「Labyrinthは市場で最も先進的なソリューションであると確信しています。何十年にもわたり国家安全保障局内で犯罪やテロと戦ってきた経験を経て、Labyrinthを開発したからです。犯罪との闘いに特効薬はありません。そのため金融部門や法執行機関で行われている重要な仕事の効率性と有効性を強化するために、何百もの新しい技術を考え出さなければなりませんでした。このような新しい技術には、世界をリードする自然言語処理(NLP)や身元分析機能が含まれています。これらの機能はグローバルな言語とスクリプト上で機能し、構造化データと非構造化テキスト(ドキュメント、ニュースレポート、Webページ、インテリジェンスレポートなど)の間の点を自動的に結びます。これは、この分野でよく見られる情報過多の問題をアナリストが克服するのに不可欠な手段です」。

確かに、単体で特効薬になれないのはリップジャーのテクノロジーだけではない。マネーロンダリングの問題だけでも2兆ドル(約211兆円)の規模があるため(そのうち犯人を特定して、損失を取り戻したものは1~2%のみ)、少なくとも現時点では、銀行や政府などがこの問題に取り組むために複数のリソースを投入するのをいとわないのも当然だ。

ロング・リッジのマネージングパートナーKevin Bhatt(ケビン・バット)氏はある声明の中で次のように述べている。「金融機関、企業、政府機関は、金融犯罪やサイバー脅威にかかわるリスクの増大に直面している。我々は、リップジャーが、自動化によって新たな脅威を発見しつつコンプライアンスにかかるコストを削減できるような人工知能ソリューションを提供できる有利な立場にあると確信している。また、継続的な成長をサポートするために同社とパートナーを組むことができて非常にうれしく思っており、同社のチームと密接に連携し、新しい地域、顧客、垂直市場への拡大を支援することを楽しみにしている」。

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カテゴリー:人工知能・AI

タグ:データサイエンス 資金調達 イギリス

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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