全米ロボット週間 シリコンバレーのロボットパーティでみる アメリカン・ロボットフィーバー

第6回のロボティックス・ウィークが4月4日から12日、アメリカで開催された。全米各地でロボット会議やパーティなど、 250もの様々なイベントがあり、そのうちカリフォルニア州単独でも19はあった。飛行機やロボットなど数々の模型を子供の頃に 作った大人たちと、更に進化したチップなどを簡単に得られる 世代が、共にロボットを讃える週らしい。シリコンバレーでは、全米ロボット週間の一環として、1000人以上の弁護士を世界に抱えるウィルマーヘール法律事務所で8日、ロボット・ブロック・パーティが開催された。ロボット・ブロック・パーティを訳すと、ブロック一画のご近所さんロボット・パーティといったところか。法律事務所のあるパロアルトのページミル通りには訪れる人々の車が溢れ、フードトラック数台までが出るほどの盛況ぶり。アメリカのテレビ局を含むメディアも取材していた。
会場では生産系のロボットアームや極小の電子部品組立てロボット。人間の足を強化する身体補強装着型ロボット、宇宙開発で使われるロボティクス、材料がダンボール紙とプラスチックと安価ながら、迅速な動きをみせるミニ・ロボット、脳波を集めると飛び始め、集中力を鍛えるのが目的のペリコプター・ロボット、話題のドローン、教育型ロボット、 動く会議用ロボット、昆虫型ロボット、果てはカラスや骸骨、 スターウォーズのR2-D2まで出ており、事務所の中庭や通路を闊歩していた。土地柄、グーグルやスタンフォード関係の投資を受けている、あるいは狙っているロボットのスタートアップ企業も少なくなかった。いろいろなロボットがあったが、とくにシリコンバレーの人々を魅了していた生産系ロボット、身体補強ロボット、教育型ロボットに関し、詳細にみてみよう。

軽さと価格が10分の1の柔らか空気ロボットが生産シーンを変える?

アーム1現在、工業用ロボットの多くが金属のアーム型で、自動車部品を組み立てたり、ペンキ塗装などをする。大型アームロボットは高価で、設置に時間がかかり、人が近づくと危険、などと、リスクが大きい。こうした重装備な金属製のアームから、 約10分の1の軽さと経費のロボットアームで工場をフル装備したらどうなるだろう。
頑丈なプラスチックのようなスキンから出来たロボットアーム、ニューボティクス。会場では 黒のラインと赤色の大きな人口の腕をレバーで動かそうと、会場内の子供たちが躍起になっていた。サンフランシスコの私的研究機関アザーラブ(Otherlab)の展示だ。金属でロボットを作る場合は、人体や環境に有害な鉛やカドミウムなどを使うこともある。だが、自由自在に時には風船のように動くニューボティクスは、柔軟で軽いだけでなく、丈夫で安全な素材が外側を覆う。モーター、シャフツ、ドライブ・トレインなどが省かれたシンプルな設計で、アームの手先で物を掴むロボットだ。「内部は分割した小さな部屋のようになっており、そこに空気を吹き込んで、エアーの圧力で関節を曲げたり伸ばしたりする。」MITを卒業した同社エンジニアのマリア・テレリアさんが、アームで子供の帽子を掴んで見せてくれた。この柔軟なアームロボットは軽いので設置が簡単。更に進歩して自由自在に何でも掴めるようになれば、組み立て工場が安価に設置も可能。世界の工場生産のコンセプトを変えることだってあり得そうだ。
一方、手術用ロボット等で知られるSRI(スタンフォード・リサーチ)インターナショナルは、蟻のように小さなマイクロ・ロボットを展示。ケース内で動いているマイクロ・ロボットはあまりに小さく、なかなか識別できない 。同社はこのロボットの基礎となる技術反磁性マイクロ・マニュッピュレーションと呼ばれるDM3の特許を取得している。電子部品を固定するためのプリント基板や磁石を使って、大量のマイクロ・ロボットを動かす。こちらも価格競争力のある製品で、エレクトロニクス回路、シリコンベースの電子機器製造、診断、検査装置などのアプリケーションの自動生産ができるということだった。

事故や病で失った機能をサポートするロボットたち
盲導犬
自分のスタジオを25年間持って活動した写真家だったブライアン・ヒギンズ氏。彼は網膜色素変性症で視力を失った。カーネギー・メロン大学で91年、コンピュータを満載した大型バンの自動運転走行に刺激され、約10年前シリコンバレーに移住して研究機関インテリサイト(Intellisight)を始めた。視力を補う製品を開発するためだ。現在は2つのウルトラソニック・センサーと開発に携わったGPSを自転車に搭載し、その自転車でNASAのアームズリサーチセンターにあるカーネギー・メロン大学ウエスト支部内の研究所に毎日通勤している。ヒギンズ氏はロボット・ブロック・パーティ会場では 徒歩の際に使う、盲犬ロボットのような走行機をデモしていた。走行機のローラーにレーダーが装着してあり、目の見えない人をナビゲートしてくれるロボットだ。ウェアラブル
また、オートバイ事故で体が麻痺したジェイソン・ギザー氏は、外骨格機能を高めて歩くため、SRIのスーパーフレックス・エクソスーツを装着。医師のマイケル・グローバーと一緒に会場内を早歩きして見せた。SRIは元々このスーツを戦地で兵士が重い荷物を簡単に運べたり、早く歩けるなど機能性を高めるべく軍用目的で開発したが、民間用にも使えるスーツだ。

5歳児からプログラムを学べるロボット

5歳児会場で子供達に一番人気だったのが、ワンダー・ワークショップのダッシュ&ドットロボット。5歳からプログラミングを学べる教育玩具ロボットだ。 グーグルでコンシューマー・ペイメントを担当していたビカス・グプタ氏が2012年に設立。最初の資金をクラウドファンディングで集め、その後グーグル・ベンチャーズ、マドローナ・ベンチャー・グループなどから100万ドルの資金調達を受けた。2年後にダッシュ&ドットを開発。 オレンジで縁取られた愛嬌のある片目が頭で、3つの青い球体をボディとする。その姿は アニメのゲゲゲの鬼太郎の目玉の親父が身体を持ったかのようだ。オバマ大統領も昨年末、このプログラムできるダッシュ&ドットロボットの目前で、子供たちに助けられながら、最初のコンピュータのコードを書いていた。 (https://www.youtube.com/watch?v=jOu2tmgpvZA)
以上のほか 、センサー技術で約70年の実績を誇るドイツのSICK AGは、グーグルがマップ作成で使うセンサーなどを展示 。教育機関では カリフォルニア大学バークレー校がNASA(アメリカ航空宇宙局)と共同で宇宙向けのロボットを研究開発しており、スタンフォード・ロボティックス・クラブ、各高校のロボットクラブ、カリフォルニア・アカデミー・オブ・サイエンスなど多彩だった。

幼児から高校生まで層の厚いアメリカのロボット競争

アメリカの公立小学校ではロボット・クラブに入らない生徒でも、サイエンス・キャンプで子供達がロボット作りを学ぶことが多い。幼い頃からロボット作りに夢中になる子も多く、熱心だ。会場には大人や大学生に混じって、高校生の姿も目立った。全米で毎年開催の高校生ロボット・コンペのFRCことファースト・ロボティクス・コンペティションに所縁のあるロボット・クラブのメンバーたちも参加していたからだ。

unnamed90年代から始まったFRCロボット競技は今年、約7万3千人の高校生たちが参加。参加費用だけで5000ドルもかかるが、学校が資金援助するのではない。だから生徒たちは、資金調達に奔走しなければならない。「クラブのメンバー皆で、土日に車を磨いた。それでも足らなくて、親に泣きついた」という高校生もいた。ロボット・クラブのメンバーが100人以上いるリッチなサンマテオの高校にはオラクル、グーグル、BAEシステムズ、SRI、シルバー・スプリング・ネットワークなどがスポンサーになっており、カラー刷りのパンフレットやカタログを備えている高校もある。「ロボットを作るにはエンジニアリングやプログラミングを知っているだけではだめで、交付金の申請書を書き込んだり、人脈も必要」と、ロボットチームのアドバイザーは語る。高校生はロボットクラブで技術だけでなく、起業も学べそうな雰囲気だ。ロボットの製作期間はわずか6週間だ。
優勝は4月21日から25日にメキシコ、カナダ、ブラジル、イスラエルからの参加チームも交え、ミズーリ州セントルイスで競われる。

全米ロボット週間でアメリカはロボット開発のリーダーを目指す

シリコンバレー・ロボティックスのマネージング・ディレクター、アンドラ・キー氏によれば、今年は2500人以上が出席の意思を表し、約40の企業や機関が展示と、例年に比べ関心が高かったという。来訪者の年齢は児童から老人と幅広く、性別、人種も多様だった。東京から出席していた匿名希望の投資関係者は 「アメリカではロボット開発が草の根レベルで一般に普及しているから、ロボット開発の進み具合が早い」と語っていた。
ロボティックス・ウィークは2009年、米大学や企業等がロボット技術の国家的なロードマップをと議会に訴え、翌年3月9日米下院で4月の第2週をロボットウィークに指定することに決定した。同ウィークの狙いは、アメリカがロボット技術の開発でリーダーとなること。公でロボットの社会的な影響を考えたり、ロボット研究の資金増を目指し、幅広い年齢の学生たちがロボット工学、エンジニアリング、科学に興味を持つようになること。シリコンバレーのロボット・ブロック・パーティに展示された、空気で満たしたロボットアームを創り出すアメリカのクリエィティビティはその一例に過ぎない。

 

 

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。