再教育こそが新しい人材獲得戦略――テック企業に学ぶ社内教育のメリット

【編集部注】執筆者のPercia SafarはWorkRampのファウンダー。

アメリカ中の企業が、新たなデジタルディスラプションの波に身構えている。昨年だけでも、Amazonは販売スタッフのいないスーパーを立ち上げ、マクドナルドは全てのレジをセルフサービス式のキオスクに置き換えることを決め、さらにCaterpillerは自動運転トラクターの開発に向けて投資を始めた。

AIや機械学習、自動化技術といった新時代を担うテクノロジーを活用して、テック企業が上記のような変化を推し進めるかたわら、これらの先進的なテクノロジーの登場によってこれまでにないほどの数の仕事が失われようとしている。

世界経済会議は、2020年までに製造業やカスタマーサービス関連の業務を中心に500万件もの仕事がなくなると予測している。その一方で、技術的なスキルを持つ人材の需要は満たされることなく増え続けている。特にコーディングのスキルを要する仕事の数は、市場全体と比較しても1.5倍の速さで増加中だ。

より多くの業界で電子化が進み、テクニカルな人材に対する需要が膨れ上がる中、その状況は悪化の一途を辿っている。例えばAT&Tは、28万人もの社員のクラウドコンピューティングやモバイルに関連したスキルを向上させようとしている。もはや彼らはSprintやVerizonだけでなく、GoogleやAmazonとも競合関係にあるのだ。

この状況を受けて、テック業界では既存社員の再教育という新たな施策を打ち出す企業が出始めた。もちろん、コンピューターサイエンスの授業や職業訓練校への投資も長期的にはとても価値があることだが、直近の問題を解決する上で再教育には一定の効果がある。イノベーションの最前線に立つためには、技術だけでなく人材に関してもシリコンバレーのやり方を採用するのが得策と言えそうだ。

求人票を再教育で代替する

これまで企業は、給与や福利厚生を充実させることでテクノロジー人材をひきつけようとしてきた。彼らがテクニカルな職種の給与を吊り上げるあまり、今では給与水準が上位25%の求人の約半数でコーディングスキルが求められているほどだ。そのため、待遇を良くすることでテクノロジー人材を獲得しようとしている企業も、なかなか空いたポジションを埋められないでいる。技術的なスキルを持つ管理職にいたっては、誰かを雇用するまでに平均で100日以上もかかると言われている。

そこで、人材獲得にさらに大金をつぎ込む代わりに、求める人材を自分たちで生み出すための新たな施策を打ち出す企業が誕生し始めた。Boxでセールスエンジニアリング担当VPを務めるMatt Nortonは、ソリューションエンジニアを探す上で1番良い場所は、一般的な人材市場ではなくBoxのカスタマーサポート部門だということに気づいた。

「カスタマーサポートのスタッフをエンジニアとして再教育したことで、空いたポジションをより速く埋められただけでなく、カスタマーサービス部門ですばらしい仕事をしてくれていた社員が持つ、組織やプロダクトに関する知識の流出を防ぐことができました」とNortonは説明する。社内のスタッフが空いたポジションを埋められるようになったことで、他のチームも採用上の問題を軽減でき、これまでよりもスピーディーに人員の増強ができるようになったとNortonは考えている。

他にも、これまで存在しなかったスキルを育むために、新しい教育プログラムを開発した企業が存在する。例えば、Flexportは先進的なソフトウェアで物流業界を変えようと決めたとき、同社の複雑なテクノロジーと何十億ドルという市場規模を誇る物流業の両方をよく知る人材を見つけなければいけなかった。

Flexportの共同ファウンダーでCEOを務めるRyan Petersonは「単に人材市場で条件に合う人を見つけようというわけにはいきませんでした。両方の知識を持ちあわせた人など当時いませんでしたからね」と説明する。

彼らは古風な考えの残る業界を変えようとしただけでなく、従来の社員教育の在り方まで変えようとしたのだ。そのため、Flexportの設立から間もない頃のPetersonは、社員が技術的なスキルを学びつつ運輸業のプロにもなれるような教育方法の開発に多くの時間を費やしていた。

「このハイブリッドなスキルを社員が身に付けてくれたからこそ、私たちは10〜15倍も成長することができたのです」と彼は話す。各業界のトップ企業も技術的な変化の波を乗り越えるために、Flexportのように機知に富んだトレーニング方法を開発すべきだ。

さらに社員の教育やスキルアップに力を入れることで、企業は採用活動時に他社と差別化を図ることができる。エドテックスタートアップのGuild Educationは、Chipotleのような企業をターゲットに社員向けの教育プログラムを統合し、福利厚生の一環としてトレーニングを提供するための手助けを行っている。

「企業が人材の獲得・引き留めに注力する今、新しいスキルを学んだり、キャリアを前進させたりできるような場を社員に与えるのが、何よりも競争力のある福利厚生なのです」とGuild Education共同ファウンダーのBrittany Stichは説明する。彼女は今後教育プログラムが福利厚生の一部として、健康保険や確定拠出年金(401k)と同じくらい一般的になると考えている。というのも、30歳未満のアメリカ人の61%が、キャリアのある地点で新しいスキルを身につけなくてなくてはいけなくなると考えているのだ。

人材市場にいないような人をゼロから育てるにしろ、既存の社員に新たなキャリア上のチャンスを与えるにしろ、さまざまな種類の企業が社員の再教育を人員増強のためのツールとして利用し始めている。

21世紀の新しい労働力

医療業界で言えば患者が病院を訪れる必要がなくなり、小売業界で言えば実店舗の存在意義が薄れるなど、シリコンバレーの企業が仕事の消失の一端を担っているのは間違いないが、同時に彼らはデジタル経済で求められる人材を育てるための新しい教育方法をつくりだそうとしている。他の業界の人たちもすぐに気付くことになるだろうが、新しい時代を生き抜くためには最先端のテクノロジーを開発して、ディスラプティブなビジネスモデルを考案するだけではなく、社員教育や人事制度にも力を入れていかなければならないのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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