初のファンドマネージャーにとって新型コロナ禍は「パーフェクト・ストーム」

つい最近まで、スタートアップの世界にネットワークがあり、厚い小切手帳を持っていれば、エンジェル投資家として会社に資金を提供するだけでなく、ファンドマネージャーとしてビジネスを始めることもできた。

内部事情に関する情報が自由に手に入るようになり、ベンチャーの世界が根本から変化しオープンになったことが大きい。急成長している未公開企業の株式を探し、株主としての地位が欲しい世界中の企業や個人から何十億ドル(何千億円)もの資金がシリコンバレーに注がれたこともプラスに働いた。

もちろん、はたで見るほど簡単でも単純でもない。過去10年間で力のあるファンドマネージャーが次々に現れたが、洪水ともいえるベンチャー業界への資金流入の多くはひと握りの実績あるプレーヤーがもたらし、運用資産残高は指数関数的に伸びた。実際、最近初めて資金調達した人に聞けば誰でも、資金調達プロセスは面白くもないし儲かりもしない、電話でほんの少し話せば調達なんか可能だと言うはずだ。ブルマーケット(強気相場)だったからだ。

世界を突然席巻した最悪の経済環境でいったい何が起こるのか。何よりもまず、自分でビジネスを始めたファンドマネージャーが、どんな計画でも後回しにすると言っている。Felicis Venturesを2006年に創業したAydin Senkut(エイディン・センクット)氏は「ポジティブになりたいし、もともと楽天的だが、資金調達には今がおそらく最も厳しい時期だと言わざるを得ない」と述べる。同氏は最近7本目のファンドの資金調達を完了した。

「初めてのファンドマネージャーにとってこれはパーフェクトストームだ」と、2015年に自身のベンチャーキャピタル(VC)であるPrecursor Venturesを立ち上げたCharles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏は言う。

「休止はあきらめることを意味しない」と、ロサンゼルスを拠点とし3年目を迎えるシードステージ向けのVCであるFika Venturesの共同創業者、Eva Ho(エバ・ホー)氏は話す。同社は昨年2本目となる7600万ドル(約82億円)のファンドを立ち上げた。同氏は、困難に直面して「落胆しすぎない」ことが大事だ、と言う。

それでも、初めてのファンドマネージャーが何に立ち向かっているのか、やがて良い時期が巡ってきたらどう進めるべきかについて何を学べるのか、理解しておくのはいいことだ。

最高の時期であっても難しい

まず、初めてのファンド組成が、やったことがない人には想像もつかないほど難しいことをわかってほしい。

ハドソン氏はある時、SoftTech VC(Uncork Capitalに改称)のGP(ゼネラルパートナー)を最後の仕事としたいという自身の思いに気づいた。アーリーステージのスタートアップにごく少額の小切手を切ることが、ファンドのビジネスにとってほとんど意味をなさないほどの資金を集めた頃だ。「ファンドが大きくなりすぎたために、魅力を感じるような会社への投資ができなくなってしまったと感じたのを覚えている」。それは主にプロダクトを持つ前のスタートアップだ。

自分のアイデアを持ち込む投資家を見誤ったという。最初に抱いていた構想は、世のVCには早すぎるスタートアップを主に支援する、GPが1人のファンドを組成するというものだった。「かなり大きなLP(リミテッドパートナー)のベースがSoftTechにあった。ただ、3〜4号ファンドを率いるマネージャーを好むLPと、新しいマネージャーに任せることを好むLPは大きく違うということがわかっていなかった」

ハドソン氏はこう語る。「ファンドオブファンズや大学基金とかなりの時間を費やして話したが、誰かにある時、私にはあっていないと次のように言われて気づいた。『おまえは間違った相手と話をしている。ファミリー(同族)企業を探すべきだ。友達をあたってみろ。おまえのアイデアが良いと思っていたり、パートナーの構成に関して常識にとらわれない人を探すべきだ』」。

全部で「300から400のLPと話し」、最初のファンドを2年かけて1500万ドル(約16億円)で組成した。現在は3号目となるプレシードファンドを組成中だ。

ホー氏によると、Fikaが最初のファンドを組成するまでの時間はもっと短かかった。ただ、同氏とパートナーが4100万ドル(約44億円)でデビューする前には600人と話し、プロセスが終わる頃には「中古車セールスマン」のようだと感じたと付け加えた。

難しかったのはネットワーク作りだったと打ち明ける。「富裕層、基金、財団とはコネがなく、そうしたネットワークに初めて接した。彼らは私が一体何者なのか知らなかったから、証明すべきことが山ほどあった」。コンセプトを実証することになった同氏のファンドは投資家の一部から信頼を勝ち取った。だがHo氏は「数字をたたき出す必要があるし、悲惨な結果になることもある」と話す。

同氏は過去Googleで働き、また位置データ会社Factualの創業に関わった経験から、小さいファンドを運営する仕事を過小評価していたと語った。「私は『会社を創業したこともあるし、大きなチームも率いていた。それとどう違うのか』と思っていた」。だが「ファンドを運営し、責任や義務を管理することの実際を学んだ。そしてこう考えた。『20〜30年これをやりたいのか。もしそうなら、どんなチームでやりたいのか』」。

投資家は変わった取引を提案してくるが、できれば避けてほしい

初めてのマネージャーは多くの場合、大規模なアンカーインベスター(大口で引き受ける機関投資家)に近寄り、他の投資家を引きつける材料にしようとする。一方LPには、ファンドマネージャーの絶望感につけこんで利益を確定しようとする者がいる。場合によるが、ファンドマネージャーがチャンスをつかんだと思っても、実際には間違ったシグナルを発信してしまう可能性がある。

ハドソン氏の場合、LPが同氏に2つのオプションを提示してきた。少額の小切手を伴う典型的なLP契約と、1号ファンドの40%に相当する巨額の投資だ。

当然、後者のオファーには多くの付帯条件がついていた。そのLPはハドソン氏と「より深い関係」を築きたいと考えていた。典型的な投資家としてファンドから受け取る以上の利益分配を望んでいるとハドソン氏は解釈した。

「その取引にノーと言うのは極めて難しかった。翌年にイエスと答えたとしても、それほどの金額は調達できない可能性があったからだ」と同氏は語る。だが、断ったのは正しい判断だったと考えているという。「その条件をのんでしまったら、他のLPと今後どう話せばいいのかわからない、と思ったからだ」。

Fikaも同様に、1号ファンドの25%を投資するオファーを提示されたが、その投資家は管理会社(VC)の持ち分取得も望んでいた。「他に何もあてがなかったので断るのは本当に勇気のいることだった」とホー氏は振り返る。だが同氏はFikaが話していた他のファンドが意思決定を簡単にしてくれたと言う。「そのファンドは『あなたがその条件を飲むなら我々は出ていく』という態度だった」。同氏のチームは、たとえ近道を選んでも、長期的にもう1つのファンドに損害を与えるならそれだけの価値はないと判断した。

LPの質問に答えるだけでなく、こちらからもLPに対して質問すべきだ

世間一般の初めてのファンドマネージャーに比べ、センクット氏は金銭的に余裕のある状況でスタートした。Google(グーグル)の最初のプロダクトマネージャーとしてIPOの成果を享受した後に、他の多くのGoogleaire(グーグレアー、Googleの株でひと山当てた人達は当時そう呼ばれた)と同じように会社を辞めた。

同氏は仕事を始めるにあたりすぐにお金をつぎ込むことができた。それでも同氏が言うように、外部の資金を調達するファンドに対し「10年前は友好的ではなかった」。GP1人の場合、通常は既存のベンチャーキャピタルからの独立組で、検索エンジン会社出身ではなかった。部外者としてベンチャー業界に割って入るために、同氏はエンジェル投資家のRon Conway(ロン・コンウェイ)氏の動きを観察し、彼の取引をチェックした。

「映画業界に参入するには、ヒット作に出演する必要がある」とSenkut氏は言う。「投資業界に参入するなら、ヒット案件に参加する必要がある。ヒット案件に入り込む最良の方法は『ヒット案件に並外れて多く参加しているのは誰で、最良のディールフローを獲得する可能性が高いのは誰か』を理解することだ。成功すればするほど、良い会社に会うことができ、会社の方からファンドを見つけてくれるからだ」

センクット氏は人がうらやむ実績を積み重ねた。Intuitが先日食いついたCredit Karmaの株や、1月にVisaに売却されたPlaidの案件もそうだ。こうしたイグジットは同氏の自信にはなるが、世の中のキャリアを始めたばかりのファンドマネージャーにはあまり参考にならないかもしれない。それでもセンクット氏は「LPの質問に答えるだけでなく、LPに適切な質問をすることが資金調達では非常に重要だ」と述べた。

たとえば、同氏が創業したVCであるFelicisの最新ファンドでは、ファンドマネージャーに対し、資産管理残高、ベンチャー企業や未公開企業への資金割当、そのうちどの程度が実際に実行されたのかを率直に尋ねると言う。

これは、投資家が応じられないキャピタルコールを避けるためだ。特に近年、多くの機関投資家がこれまで以上に速いペースでVCに小切手を渡しており、本来意図したより多額の資金がベンチャー業界に滞留しているケースも多い。

実際Felicisは、「余裕があった」新しいマネージャーを追加する一方で、「Fecilisが尊敬する」既存のLPを何社か減らした。「正しい質問をすると、例えばLPがすでにVCのアセットクラスに20%過剰に資金を振り向けているかがわかる。その状態では、いざというとき彼らは投資できない」

この問題はここ数週間で深刻になった。多くの機関投資家が他のアセットクラスの縮小に直面しており、VCのアセットクラスへの割り当てがさらに過剰になっている。スタートアップ投資の流動性の低さも考えると、ファンドにとってむしろ負債(返済義務)が発生しているケースもあることに疑いの余地はない。

この状況では長期的にみたセンクット氏の主張の有効性には議論の余地がある。だがさらにもっと長い目でみれば、つまり市場が最終的に緩和し、新しいファンドが再び投資家の注意を引くような状況になれば、それらは確かに覚えておくべき、そして尋ねるべき質問だ。

画像クレジット:john finney photography / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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