動画コンテンツを「読み取る」ことで、より効率的な検索を可能にするAnyClip

動画は昨今、世界をオンラインへ移行させている原動力といって差し支えなく、実際に2021年のIPトラフィックの82%を占めると予想されている。2021年5月下旬、その大量の動画コンテンツをより適切に解析し、インデックスを作成し、検索するための一連のツールを開発してきたスタートアップが、大規模な資金調達ラウンドについて発表した。2020年600%の成長率を見せたこのスタートアップは、さらなる事業拡大を目指している。

AnyClipは、コンテンツプロバイダーが動画の使用方法や視聴方法を改善できるよう、人工知能と標準的な検索ツールとを組み合わせたより優秀な動画検索ツールを彼らに提供している。このAnyClipが、自社プラットフォームを構築するための資金として、4700万ドル(約51億3000万円)を調達した。

この資金調達はJVP、Maison、Bank Mizrahiが主導し、内部投資家も参加して行われた。同社は評価額を公表していないが、現在までに7000万ドル(約76億4000万円)を調達しており、信用できる筋からの情報によると、評価額は約3億ドル(約327億5000万円)相当と考えられる。

テルアビブで創設され、ニューヨークにも拠点を置いているAnyClip。同社が現在取り組んでいるのは、社会に大量に出回っている動画への対処である。一般消費者がNetflixシリーズを観たり、YouTubeにあるクラッシック音楽を探そうとしたり、ビジネスユーザーがZoomで会議をしたり、といったように動画は最も多く利用されているコンテンツメディアの1つである。問題は、ほとんどの場合、人々が検索する際に表面的な検索しかしていない点である。

これは、ホストがアルゴリズムを微調整し、視聴者が他の動画よりもある動画を観るように仕向けている、といったことだけが原因ではない。ほとんどの場合、すべてを効率的な方法で検索するのは非常に困難だからであり、それは不可能だ、という人もいるほどである

AnyClipは、これを不可能ではないと考えているテック企業の1つである。コンピュータービジョン、NLP、音声からテキストへの変換、OCR、特許取得済みのキーフレーム検出、クローズドキャプションに基づくディープラーニングモデルなどのテクノロジーを活用し、動画のコンテンツを「読み取る」ことで、人、ブランド、製品、行動、何百万というキーワードを認識し、動画の内容に基づいて分類法を構築可能だ。これらは、コンテンツカテゴリ、ブランドセーフティー、あるいはユーザーの要求に基づいて行うことができる。

AnyClipは現在、AWSでAnyClip自身がホストしている動画を対象に作業を進めており、社長兼CEOのGil Becker(ジル・ベッカー)氏によると読み取りとインデックス化のプロセスは「リアルタイムの10倍」という驚異的な速さである。

この結果得られるデータおよびそれがどのように使用されるかについては、ご想像の通り、さまざまな潜在的用途がある。現在、ベッカー氏は、AnyClipは、さまざまなユースケース(社内用、B2B用、または一般消費者が動画を発見しやすくするためなど)で動画を効率よく整理する方法を探している顧客から強い支持を得ていると述べた。

上記の説明が示すように、このテクノロジーは当然、効果的に動画から収益を得るためにも使用できる。AnyClipは動画の中のオブジェクト、テーマ、ムード、言語をより多くより効果的に特定することで、人々が効果的に動画を発見できるようにするだけではなく、広告主が望むところに広告を配置することが可能なフレームワークを構築することができる(あるいは反対に、関係づけられたくないコンテンツを避けることもできる)。

AnyClipが連携している企業は、Samsung、Microsoft、AT&T、Amazon(Prime Video)、Heineken、Discovery、Warner Media(the latter two soon to be one)、Tencent、Internet Brands、Googleなど、錚々たる顔ぶれだ(ただし、ベッカー氏はこれらの顧客に対しどのようなサービスを提供しているかは明かさなかった)。

AnyClipはGoogleを自社への投資家とは考えていないが、Google News Initiativeのイノベーションの一環として 資金提供を受けてはいる。これは、AnyClipのAIに支えられた高度な動画管理ツールを用いながら、今日最も人気のあるビデオオンデマンドサービスの機能とデザインを模倣する、メディア企業向けのストリーミングビデオページエクスペリエンスの構築を目指すものだ。AnyClipは、企業がチャネルやサブチャネルを作成し30秒未満でライブラリを「NetflixやYouTubeのような」ライブラリに変換できるソリューションとして、数多くの企業の中から選ばれた。

AnyClipが、どのように現在取り扱っている検索および発見ツールの開発に至ったのかについては、興味深い経緯がある。AnyClipは2009年に同社の社名の由来にもなっているコンセプトで創設された。これはメディア企業が映画クリップを作成し、AnyClip自身のサイトでホストするインターネット上でシェアできるサービスで、これらのクリップはAnyClipのアルゴリズム、社員、および寄稿者によって構築された数多くの分類法を使用して検索することができた。これは、いうなればGiphyが登場する前の、類似のサービスであった。

しかし、そのサービスの登場はあまりに早すぎた。当時は著作権侵害が依然として大きな問題であり、Netflixesなど効率のよい合法なストリーミングサービスは存在せず、そのアイディアは複雑過ぎて、権利保持者に購入してもらうのは難しいことがわかった。そこでAnyClipは動画ベースの広告ネットワークの構築に軸足を移したのだが、これまた時期尚早であることがわかったのだ。

しかし、場所や時代が適切であれば、そのテクノロジーには見るべきものがあり、それでこそ、今日AnyClipは現在の立ち位置にあるといえる。同社は特許を保持しており、開発チームはそのテクノロジーを引き続き拡充している。これによりAnyClipは、Kaltura、Brightcoveなどの競合他社を引き離していると考えている。しかし当然のことながら、同市場におけるビジネスチャンスは非常に大きいため、競争がすぐになくなることはないだろう。

しかしAnyClipがこれまでの12年間で得てきた資金が3000万ドル(約32億円)という控えめなものだったことを考えると、現在のAnyClipの急成長は、同社が競合他社に打ち勝つ能力だけでなく、帯域幅とリソースを大量に消費する媒体と見なされている領域において資本効率を高める能力をも備えていることを物語っている。

「企業は動画を使ってメッセージやアイデンティティを伝えますが、その方法に革命が起ころうとしています」とJVPの創設者件会長でAnyClipの取締役会長であるErel Margalit(エレル・マーガリット)氏はいう。「動画に初めてAIが利用されます。企業や組織は、社内外を問わず、動画が文字よりも優勢なあらゆる領域で、これを利用し新しい形のコミュニケーション方法を確立しようとしています。彼らは一般消費者向けの動画や組織向けのトレーニング動画をどのように作成するか、あるいはコンテンツの取得にインテリジェントな管理が必要となるZoomでの会議の管理などに取り組もうとしています。新しい時代がやってきました。AnyClipはそういった取り組みに着手する人々にとって必須のツールなのです」。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:AnyClip資金調達動画コンピュータービジョンディープラーニング

画像クレジット:AnyClip

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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