化学コーティングではなくレーザーで表面を氷や錆から保護する技術の商用化を目指すFlite Material Sciences

Dan Cohen(ダン・コーエン)氏は、ソーラーパネルの氷、雪、霜を防ぐコーティングを探していた。その時に同氏はある技術に出会った。その技術は、航空機、ドローンから、医療機器、パイプライン、さらにはヨットに至るまで、広範囲のプロダクトにおいてコストを削減し、環境フットプリントを低減できる可能性を秘めていた。

それをきっかけにコーエン氏は、自身のスタートアップ企業Flite Material Sciencesを設立し、TechCrunchのStartup Battlefieldでデビューした。

ソーラーカンパニーのCTOとして取り組んでいたプロジェクトで、コーエン氏はそれらのソーラーパネルに最適なコーティングを模索していたが、見つけるには至っていなかった。コーティングは、パネルの色の変化、毎年塗布する必要性、有害物質の含有などの課題要素を有していた。その打開案となるものが、ロチェスター大学光学研究所の教授からもたらされた。同教授は、一切コーティングすることなく、氷、雨、雪、霜からパネルや構造物を保護することができると主張していた。

「少し直感と相いれないような気もしましたが、どのようなものか確認してみようと思いました」とコーエン氏。教授はコーエン氏をレーザーによる表面機能化のフィールドに導いた。ガラスやプラスチック、金属に撥水機能をもたせるコーティングの代わりに、レーザーを使って素材をリテクスチャすることで、それ自体が水分をはじくようになるというものだ。この処理はまた、半導体、さらには人間の骨や歯などの多様な表面において、錆や氷を防ぎ、油をはじくことにも効果を発揮する。

コーエン氏は感銘を受け、この技術をすでにライセンスしているソーラーパネルメーカーがあるかどうかを尋ねた。結果、どの企業にも、そしていずれの産業においても、この技術はライセンスされていないことが判明した。

ロチェスター大学はこの技術のライセンス供与に同意し、Flite Materials Scienceは2018年に同技術を商用化すべく誕生した。同スタートアップは最初の1年を、この技術について学び、IPを調査し、プロダクトと市場の適合性を理解することに費やした。また、モントリオールで開催されたTechStarsやCentechなどのアクセラレータープログラムもいくつか経験した。

コーエン氏は現在、この技術を商業規模に拡大し、航空宇宙、生命科学、その他の産業へ適用していくことを目指している。

仕組み

テクスチャ処理は、自然界に存在するものを模倣している。例えば、蓮の葉を見てみよう。その葉は一日中水に浸かっていても完全に乾いているように見える、とコーエン氏は説明する。

「十分な性能を備えた顕微鏡の下で見ると、実際にはその表面はとてもざらざらしていて、非常に微細な突起があることがわかります」と同氏は続けた。「そして、なぜ水がこうした微細な突起構造の表面に留まらないかについての理論が浮上したのです」。

このようなテクスチャを作成しようとした初期の研究では、ガスと化学物質の組み合わせに焦点が当てられていた。ロチェスター大学のChunlei Guo(チャンレイ・グオ)教授が考案したのは、毎秒1000兆パルスにも及ぶ高パルスレートのレーザーを使用して、大量の熱を発生させることなく素材を変換するという斬新な方法だった。

「これは多くのエネルギーを注入しますが、パルスの効果で、彫刻家のような緻密な作用が生み出されます」とコーエン氏は語る。「素材を燃やしてしまうことなく、移動させたり再堆積させたりするのです」。

この最後の点が重要である。Fliteがライセンスし、商用化を計画している技術は、表面を取り去ったり弱めたりするものではない。単にテクスチャを再形成するだけで、金属やプラスチックに水、油、氷をはじく能力が備わるというものだ。

今後の展開

同社は現在、可能な限り多くの顧客検証プロジェクトを実施するために「奔走している」とコーエン氏は語り、これらのプロジェクトは、この技術が特定のプロダクトや産業でどのように機能するかを証明するものだと付け加えた。Flite Material Scienceは数件のプロジェクトを完了しており、さらに多くのプロジェクトが準備されている。

コーエン氏によると、16社ほどの企業が来年中のテスト実施に強い関心を示しており、参加の機会が得られるのを待っている企業は150社あまりに上るという。

Flite Material Sciencesの従業員数は10人に満たないが、コーエン氏は、2021年の第3四半期または第4四半期に資金調達ラウンドが完了した時点で、さらに雇用を増やしたいと考えている。

同社は探究の結果、航空宇宙と防衛分野への進出の足がかりを得た。さらに石油やガス、半導体の分野でも同社は「かなりの仕事をしている」とコーエン氏は語っている。また、自動車やパッケージングでの需要も見込めるとしたうえで、これら2つの産業はユニットエコノミクスが機能するまで待つ必要があるだろう、と言い添えた。

画像クレジット:J. Adam Fenster / University of Rochester

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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