ペンタゴンは100億ドル規模のエンタープライズクラウドプロジェクトである JEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure:ジェダイ)の勝者を選ぶことで、該当クラウドベンダー1社だけを極めてハッピーにしようとしている。この契約は、Internet of Things(IoT)、人工知能およびビッグデータのような、現在の動向の利用を始めながら、今後10年の軍用クラウド技術戦略を確立するようにデザインされている。
10年以上にわたって使われる100億ドルという金額は、もうすぐ年額1000億ドルを超えることが期待されている市場を完全に変えてしまうことはないだろう。しかし、このプロジェクトはより小さなベンダーに対してもより大きなプレゼンスを与え、他の政府機関や民間部門へ深く入り込むことを可能にするだろう。クラウド企業たちはもちろんそれを認識している。
このことが、ベンダーたちが徒党を組んで、契約の流れを変えさせようとしていることを説明してくれる。おそらく正しい主張だが、彼らはマルチベンダーアプローチの方が合理的だと主張している。
提案依頼書(RFP)を眺めてみると、セキュリティからトレーニングに至るまでの様々な仕様を、勝者である1社に要求する、沢山のドキュメントがあることがわかる。このことからこの提案が如何に複雑なものであるかが理解できる。その中心は、機密扱いならびにそれ以外の、インフラストラクチャ、プラットフォームおよびサポートサービスのパッケージである。この記事で取り上げる主なクラウドベンダーはいずれも、これらのサービスを提供している。彼らはみな特異な存在ではないが、それぞれはこうしたプロジェクトに関係した、異なるスキルセットと経験を持っている。
ここでは技術的な先進性だけが問われているわけではないことに注意することが大切だ。DOD(国防総省)はまた、価格も注意深く見ており、各コンポーネントに適用可能な特定の割引を明示的に求めている。RFPの受付は10月12日に終了し、勝者は来年4月に選択される予定である。
Amazon
Amazonについて何を語れば良いだろう?彼らは、圧倒的に支配的なクラウドインフラベンダーだ。彼らは2013年にCIAのプライベートクラウドを構築していて、過去に大規模な政府契約を獲得したという意味で有利な立場である。そのときにはその労力の対価として6億ドルを受け取っている。Amazonが提供するのは、機密データをホストするために設計されたこのプロジェクトの成果から生まれたGovCloudという製品だ。
他のベンダーの多くは、このことがこの取引で、Amazonを有利にしているのではないかと心配している。5年は特に技術面では長い期間だが、それにも増して、Amazonはその間に市場の支配を強化した。 なんと言っても、他のプレイヤーのほとんどは2013年の段階ではクラウドビジネスに確立に向けて動き始めたばかりだったのだ。2006年にクラウドを開始したAmazonは、他のベンダーたちが欠いていて、いまだに開発途上である成熟度を持っている。また毎年のように沢山の機能を投入している。このことによって、Amazonはますます競争するのが難しい相手となるだけでなく、正しいゲームを行うことのできる最大のプレーヤーにもなっている。
Microsoft
も誰かがAmazonに追いつけるとすれば、それはMicrosoftである。彼らはクラウドに対して遅れをとっていたが、過去数年の間にそれを補って余りあるものを成し遂げた。彼らは急速に成長しているが、純粋な市場シェアの点という点では、まだAmazonよりも遥かに遅れている。それでも彼らはペンタゴンに対して、彼らのクラウドプラットフォームであるAzureと、Word、PowerPoint、Excel、Outlookの電子メールを含む人気のあるビジネススイートであるOffice 365の組み合わせを、多数提供している。さらにDODとの間に、Windowsおよび関連ハードウェアのために、2016年には9億ドルもの大きな契約を締結している。
Azure Stackは、軍事シナリオに特に適している。それはAzureパブリッククラウドの、ミニプライベートバージョンを提供するプライベートクラウドなのだ。これはAzureのパブリッククラウドと、APIやツールの点で完全に互換性がある。さらに同社は、DODレベル5を含み、米国政府の各部署の多くで利用が認定されているAzure Government Cloudも所有している。Microsoftは、長年に渡って大企業や政府のクライアントの中で多くの経験を積んでいるため、このような大規模な契約をどのように管理すれば良いかを知っている。
クラウドについて語る時には、私たちはビッグスリーについて考える傾向がある。グループの3番目のメンバーはGoogleである。彼らは、2015年にDiane Greeneを雇用して、クラウドユニットを組織化し企業からの信用を得ることを通して、エンタープライズクラウドビジネスを確立するために熱心に取り組んできた。市場における彼らのシェアは比較的小さいが、広げるべき市場がまだ広大に残されていることを睨みつつ、彼らは長期的な視野を語っている。
彼らは社内で使用していた多くのツールをオープンソース化するアプローチを採用し、同じサービスのクラウドバージョンを提供した上で、彼ら以上に大規模なサービス運用をうまく行う会社はいないと主張している。彼らの主張には理があり、それはこの契約に対して有利に働くかもしれないが、一方彼らは、従業員グループの反対によって、Project Mavenと呼ばれるDODとの人工知能契約から離れたという経緯もある。それがここでの入札プロセスで、彼らに不利に働くか否かは明らかではない。
IBM
IBM は2013年にSoftlayerを買収して以来、広範なクラウドサービスのプラットフォームを構築し、インフラサービスを提供してきた。一方、何年もかけてソフトウェアと開発ツールを加えている。そしてAI、ビッグデータ、セキュリティ、ブロックチェーンその他のサービスに注力してきた。その間にも、人工知能エンジンであるWatsonを最大限に活用しようとしてきた。
20世紀における主要技術ブランドの1つとして、同社はこの範囲の契約や大規模な企業の顧客や政府と協力してきた、膨大な経験を持っている。その経験が最近開発されたクラウドサービスに転換されるのか、それとも他のもの、特にMicrosoftとAmazonなどと同様の、成熟したクラウドを持っているのかは明らかではない。そのような意味でも、このような契約を獲得するために、IBMはその仕事を適宜整えてくることだろう。
Oracle
Oracleは、昨年の春以来誰彼お構いなしに不満を述べ続けている。一説では大統領に対してもそれを訴えたと言われている。すなわちJEDIのRPFはAmazonを有利にするために不公平に書かれているという不満だ。もちろんDODはそれを断固として否定している。彼らはプロセス自体に対して正式な抗議を提出したことさえある。
これは同社がクラウドに乗り遅れているための、煙幕である可能性がある。コンセプトに真剣に取り組むまでに何年もかかり、現在では市場シェアという意味では、かろうじて端っこに居るという状態なのだ。同社がテーブルに持ち出すのは、数十年以上にわたるエンタープライズにおける経験と、過去40年間最も有名なエンタープライズデータベースの1つであったという事実だ。
最近Oracleは、DODにとって魅力的であるかもしれないクライド内での自己修復データベースの提供を開始した。しかしそれ以外のものがこの契約を獲得できるほど魅力的か否かは、まだ分からない。
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(翻訳:sako)