心地良い夏の音楽、思わず吹き出してしまうような「ザ・80年代」という感じの画像、そしてレトロな技術をマッシュアップすると、「インターネット上で太陽の光が最もまぶしい場所」と言われる、気軽で楽しいウェブラジオサービスPoolside.fmが生まれる。昔のMacOSのような画面でビーチ音楽、リラックス音楽、ディスコ音楽などのストリーミングを楽しめるこのウェブサイトは昨年リローンチされ、インターネットにちょっとした楽しみをもたらした。そして今日、Macの美学と初期のWindowsのタッチをうまくミックスしたMacアプリがリリースされた。 このPoolside.fm iOSアプリは、昔懐かしいNokia 3310携帯端末からインスピレーションを得て開発されたという。
実は、Poolside.fmプロジェクトが始まったのは2014年のことだ。この年、創業者であり連続起業家でもあるMarty Bell(マーティー・ベル)氏はバーチャルでリラックスできる方法を探していた。ベル氏はスコットランドの高地に住んでいるが、そこはどんよりと曇る日や雨の日が多いのだという。そのせいで憂鬱な気分になることがある。そこで同氏は、気持ちを高めるハッピーな音楽をSoundCloudで聴き始めた。そして他の「幸せな場所」、つまり「VHSで見た、まるでアメリカのサマードリームのような80年代のビーチ映画」を思い出させてくれる遊び心に満ちた環境でそのような音楽を聴けたら楽しいに違いないと思った、と同氏は説明する。
そこでベル氏は、開発者のGrant MacLennan(グラント・マクレナン)氏と協力して、2014年にPoolside.fmウェブサイトの初期バージョンをリリースした。当時はPoolside Radio(プールサイドラジオ)という名称だったPoolside.fmは、一部から称賛を受けて一時的にTwitter上で拡散され、ちょっとしたカルト的な人気を得た。
このサイトは当初、シンプルなCMS(コンテンツ管理システム)上で運営されており、訪問者のためにランダムに再生されるSoundCloudのトラックやYouTubeのビデオをベル氏が投稿できる仕組みだった。
ここ数年ベル氏は他の事業に取り組んでいた。その事業は、洋服の販売を行うDJビジネスから、サングラスの会社、若者が最初の家の購入資金を貯められるようにサポートするNudeと呼ばれる金融会社まで多岐にわたる。Poolside.fmのインスタグラムの更新は続けていたが、ラジオサービスのウェブサイトは何年も更新していなかった。しかし、ベル氏があまり手をかけていなかったのにもかかわらず、毎月何千人、時には何万人もの訪問者があった。
最近になってPoolside.fmのプロジェクトに戻ったベル氏は、オペレーティングシステムのようなルック&フィールを備えたウェブサイトを新たにデザインすることを思いつき、適切なチームを探す間に、自腹で人を雇って3つの異なるバージョンのサイトを作成した。信じられないことだが、Poolside.fmのチームは空き時間にボランティアでプロジェクトに参加している。プロジェクトへの参加が有意義な体験であるとメンバー自身が考えているからだろう(そしておそらく、Poolside.fmブランドに長期的な可能性を見いだしているからだろう)。
Poolside.fmにアクセスする訪問者は、それぞれ独自の特徴を持つさまざまな「ステーション」を自由に楽しむことができる。デフォルトのPoolsdie.fmはプロジェクトが始動するきっかけとなった陽気な音楽を流しているが、他にも、インディーチャンネル「Indie Summer」、リラックス音楽チャンネル「Hangover Club」、そしてテンポの速いディスコチャンネル「Tokyo Disco」などのステーションがある。
昨年夏にリローンチされて以来、このウェブサイトは90万人以上の訪問者によって150万回視聴され、その多くは米国(32%)、日本(15%)、イギリス(8%)、ドイツ(4%)、カナダ(4%)からのものだった。一方、最近リリースされたMacアプリは過去3週間ですでに3万回インストールされ、Mac App Storeの「Apps We Love」セクションで取り上げられた。
そして今、Poolside.fmのクールなレトロ感とどこかあか抜けない80年代/90年代の美学がiPhoneでも楽しめるようになった。
しかしPoolside.fmチームは、ウェブからユーザーインターフェイスをコピーするのではなく、新しいものを作り出した。
開発者のJosh McMillan(ジョシュ・マクミラン)が作成したiOSアプリは、Nokia 3310のような古い携帯端末から着想を得ている。Nokia 3310は、手と手がつながって握手をする、粒子が粗くギザギザの画像が特徴だったが、Poolside.fmアプリのスタート画面では、同じような手がマティーニのグラスにさくらんぼを落としている画像が採用されている。
同時にアプリのメインインターフェイスも、昔風のフォント、ジャギーが出ている陰影、粒子の粗い画像が使われており、古い携帯端末を思い起こさせる。低ビットの「ビデオクリップ」がバックグラウンドで再生され、レトロな雰囲気を醸し出している。このビデオクリップでは、ボリューム感のある80年代風ヘアスタイルの女性、80年代のひどいダンス、クラシックカー、ビーチパーティーなどが見られる。
しかしこのアプリは、昔の携帯電話のような古典的なグレーとグリーンの配色ではなく、明るく元気が出るようなピンク色だ。また、お好みによりテーマ設定で他のジュエル風の色合いを選ぶこともできる。
アプリでも、Poolside.fmウェブサイトで聴けるすべてのチャンネルを利用でき、サインインすれば、再生、一時停止、スキップ、戻る等の機能が使えて、お気に入り登録もできる。Poolside.fmは、古風なスタイルにもかかわらず、バックグラウンドでの再生、AirPlay、またAirPodsとの連携などがサポートされたモダンなアプリである。
チームは現在6名で構成されている。創設者のマーティー・ベル氏、デザイナーのNiek Dekker(ニーク・デッカー)氏、開発者リーダーのLewis King(ルイス・キング)氏、iOS開発者のジョシュ・マクミラン氏、Mac開発者のWill Chilcutt(ウィル・チルカット)氏、そしてバックエンド開発者のNick Haddad(ニック・ハダッド)氏だ。ベル氏によると、この6名はあちこちで副業をして稼いでいるとのことだが、Poolside.fmの運営コストは驚くほど低い。
「コストがかかるのはFirebaseとホスティングだが、全部でおそらく月に100ドル(約1万円)まではいかないと思う」とベル氏は推測している。これは帯域幅の負荷にも対応できるYouTubeとSoundCloudからビデオとオーディオを提供するためだ。実際のサービス自体の負荷は非常に軽い。
ベル氏によると、投資家たちが彼のTwitterのダイレクトメッセージになだれ込んできたそうだが、チームはプロジェクトを直ちに収益化する考えはないようだ。「数多く起業してきた中で、特に成功を目指していなかったビジネスの1つ、実際には事業計画もなかったビジネスが最も注目を集めるようになったのは興味深い」とベル氏は付け加えた。
ベル氏は次のように説明する。「それこそが違いを生み出すのだと思う。お金のためではなく、楽しいからという理由だけで、他の多くの人たちと一緒に純粋な情熱を何かに注ぎこんでいるとき、そこから生まれる製品は、KPIや投資家のための指標を目指して作られる製品とはまったく違うものになる。投資家寄りの環境では、Poolside.fmのようなものは作り出せないPoolside.fmプロジェクトには、6人が空き時間に無償で取り組んでいる。なぜならPoolside.fmが6人にとって幸せな場所であり、それが楽しいからだ。このようなエネルギーをビジネス環境で生み出すのは簡単ではない」。
とは言え、ベル氏には、このプロジェクトの今後の方向性についていくつかアイデアがあるようだ。
チームはすでに帽子やTシャツなどのちょっとした商品を販売していた(ベル氏は今でもPoolside.fmをモチーフにした、モーテルで売っているようなキーチェーンを自宅で梱包している、と言っている)。また、例えば「Poolside.fmプレゼンツX」のように、チームが別の会社からプロジェクトを運営するのも可能性の1つだ。
COVID後は体験型イベントの開催も考えられる。さらにベル氏は、ポッドキャストスタジオとフィクションのポッドキャストシリーズの制作についての話も進めている。また、チームは当然ながら、プール用のアクセサリーなど、物理的な製品の販売を増やすことも考えている。
ところでベル氏は、「プールサイド」という名前の通り、これらの年月を経てついに自分のプールを手に入れることはできたのだろうか。気になってベル氏に尋ねてみたが、その夢はまだかなっていないようだ。
「スコットランドの高地でプールを持つことはないよ。今も、羊でいっぱいの草原を眺めている」とベル氏は笑って言った。
Poolside.fmのiOS版アプリは無料でダウンロードできる。
関連記事:Spotifyがバーチャルイベント機能を開発中、コロナ禍で収入減のアーティストをサポート
カテゴリー:ネットサービス
[原文へ]
(翻訳:Dragonfly)