3Dプリントが大いに注目を集めているのには理由がある。3Dプリンターは新たな形状の物体を作り出すことができ、しかも従来の製造方法に比べてはるかに軽量な素材を使用できることが多い。しかし、アディティブ・マニュファクチャリング(積層造形技術による製造方法)の訓練を受けていない企業や、従来の3Dプリントには適さない素材を使用しなければならない企業など、多くの企業にとっては依然として参入障壁が高いことも事実だ。
3Dプリントのスタートアップ企業であるAON3D(エオン3D)は、自動化を推進することと、さらにこれが重要なのだが、より多くの素材を3Dプリントできるようにすることで、これら両方の障壁を取り除きたいと考えている。そのためにのシリーズAラウンドで1150万ドル(約12億6500万円)の資金を調達した。
AON3Dは、熱可塑性樹脂のための工業用3Dプリンターを製造している。共同設立者のKevin Han(ケビン・ハン)氏は、AON3Dのプラットフォームの特徴について、材料にとらわれないことだと説明する。同氏によれば、7万種類以上の市販されている熱可塑性樹脂複合材や、カスタムブレンドの材料を使用することができるという。顧客が使用している既存の材料を3Dプリントに対応させることができる。これこそが、同社の真のブレークスルーだと創業者はいう。
「ハードウェアのコストのみならず、材料の面でも大きな革新がありました」と、共同設立者のRandeep Singh(ランディープ・シン)氏は、TechCrunchによる最近のインタビューで説明した。「私たちは、大手企業の新素材を取り入れることができます。【略】お客様が特定の理由から使用する必要があると思われる素材を取り上げて、多くのテストを行い、3Dプリント可能なプロセスに変えています」。
これによってAON3Dは、3Dプリントを採用したくても材料を根本的に変えることができない多くの企業に、積層造形製法の可能性を広げることができるという。AON3Dのプロセスなら、その材料を変える必要がありません、とハン氏は説明する。
AON3Dは、モントリオールのマギル大学で材料工学を専攻していたときに出会ったハン氏、シン氏、そしてAndrew Walker(アンドリュー・ウォーカー)氏の3人によって設立された。彼らは1台あたり数千万円もする非常に高価な3Dプリンターと、数万円で買える一般消費者向けの3Dプリンターの間にある市場のギャップに着目してこの会社を起ち上げた。
当初は3Dプリンターの操作をサービスとして事業を始めたが、2015年にKickstarter(キックスターター)キャンペーンで最終的に8万9643カナダドル(約786万円)を集め、同社のデビュー作である3Dプリンター「AON」を支援者に届けた。それから6年が経ち、彼らはこれまでに合計1420万ドル(約15億6000万円)の資金を調達してきた。
今回のラウンドはSineWave Ventures(サインウェーブ・ベンチャーズ)が主導し、AlleyCorp(アレイコープ)とY Combinator Continuity(Yコンビネーター・コンティニュイティ)が参加。また、BDC、EDC、Panache Ventures(パナシェ・ベンチャーズ)、MANA Ventures(マナ・ベンチャーズ)、Josh Richards(ジョシュ・リチャーズ)氏 & Griffin Johnson(グリフィン・ジョンソン)氏、SV angels(SVエンジェルス)も出資した。
AON3Dは、プリンターやカスタマイズされた材料を販売するだけでなく、継続的に企業と協力して、プリンターの使用範囲が企業の製造したい部品に適していることを確かめるために、積層造形のトレーニングを行っている。
AON3Dは航空宇宙業界にも多くの顧客を見つけている。その理由の1つとして挙げられるのが重量面でのメリットだ。これは主にペイロードのサイズによって経済性が左右される宇宙関連企業にとって、非常に重要なことだからだ。さらにコストや時間、そして射出成形など従来の製造プロセスでは不可能な形状を使用できるという利点もある。
顧客の中には、2022年にSpaceX(スペースX)のFalcon 9(ファルコン9)ロケットで着陸機を月に送ることを目指している月探査スタートアップのAstrobotic Technology(アストロボティック・テクノロジー)も含まれる。このミッションには、AON3Dの高温プリンター「AON M2+」で印刷された数百個の部品が使用される。これらはおそらく、初めて月面に触れることになる相加的に製造された部品となるだろう。これらには、アビオニクスボックスで重要な部品となるブラケット構成部品などが含まれる。
「このパートナーシップにより、Astroboticは使いたい素材をすぐに使うことができるようになりました」と、シン氏は語る。「それまで、同じ材料を別のプロセスで使えるようにするためには、非常に長いリードタイムが必要でした」。例えば、高機能ポリマーを使った射出成形のリードタイムは何カ月もかかるが、3Dプリントなら1日か2日で済むと、同氏は付け加えた。
将来的には、今回調達した資金をもとに本格的な専用の材料ラボを建設し、チームを拡大していくという。同社はこの材料ラボから得られるデータを利用して、3Dプリントのプロセスを完全に自動化し、あらゆる企業が自社製品に積層造形製法を利用できるようにしたいと考えている。
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画像クレジット:Aon3D
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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)