Webサイトやアプリの世界では自社のページに訪れた人数を数え、属性や行動を分析し、より高い成果を獲得するために最適化するという一連のプロセスは当たり前のように行われてきた。
ここ数年、センサーが取得できるデータの精度が向上しディープラーニングに代表される画像認識技術が進歩したことで、道路や広場、施設内など「実世界」での出来事を定量化するプレイヤーが世に出始めている。
店内に設置された監視カメラのデータを元に店舗オペレーションを分析、最適化できるスタートアップとして日本ではAbejaが有名だが、11月17〜18日に東京・渋谷で開催された「TechCrunch Tokyo 2016」ではリアルタイムの映像解析技術を持つNY拠点のスタートアップ、PlacemeterのCEO Alexandre Winter氏が登壇し現状を語った。
きっかけはうんざりするハンバーガー屋の待ち行列
「世界で1番美味しいと評判のNYのハンバーガー屋に初めて行ったとき、1時間以上行列で待たされてヘトヘトになりました。ようやく入れた店内でWebカメラを見つけたとき、コンピュータビジョンの技術で待ち時間を予想できるのではないかと思ったのです」とAlex氏はPlacemeterの原型となったアイディアを語る。
創業したスタートアップのイグジット経験を持つAlex氏だが、その後シードアクセラレータであるTechstarsに参加し急速に事業を伸ばす。「軽い気持ちで応募したら受かってしまいました。アクセラレーターに参加する必要はないと思っていたのですが、初日に言われた『ここで過ごす3ヶ月間は2年分の仕事に相当する』という言葉が実際にその通りで、劇的に会社を変えることができました」。
アジャイルな都市開発計画
今では街中の監視カメラや自前のセンサーデバイスが取得したデータで屋内外の人数をカウントし性別を特定したり、人間だけでなく車両やバイクの動線を分析することで、企業向けのビジネスに留まらず都市計画にもサービスが活用されているという。パリで行われている都市計画プロジェクト「The Paris Smart City 2020」では広場の再開発を行うためPlacemeterで人々の動線データ取得・分析を行っている。
「都市計画では一回建てると長い期間変えることはできません。パリでは有名な7つの広場の再開発を行っています。1つの広場では従来の方法で施策を立てて実行しましたが、結果的に利便性が向上せず市民からのクレームが多かったと聞いています。そのためナシオン広場はアジャイル型の全く新しい開発プロセスを導入したのです」。19台のカメラを広場に設置し、どの程度人の行き来がある場所なのかを測定。実験的にフェンスを立てて人や車の流れを変えるパターンを複数試し、最適な動線になるよう広場の設計を行っているという。
国外で成功する事業開発の勘所と日本市場の魅力
日本で法人向けのビジネスを行う場合、導入実績をセールストークに次の案件を獲得していくケースが一般的な手法だが、それは海外でも変わらないようだ。「新しい市場では最初の案件をまず勝ち取る。そしてそれをレファレンスとしてさらに拡大することが重要です」。Alex氏によると、特にアメリカで事業を行う場合はとりわけ人からの紹介が重要だという。
Placemeterは新しい国に参入する場合、技術的なチューニングはもちろん、システムのインテグレーションを行う現地のパートナーと共同で事業を行う場合が多い。日本市場は過小評価されることが多いが、日本を入り口にすることでアジアに展開できることを考えると魅力的な市場であるという。日本は2020年に向けたオリンピックに向けた観光含めた多額の投資を行っており、施策を効果測定する手段としてぜひ自社の技術を活用して欲しいと語った。