先日メタップスが43億円という大型の資金調達を実施したのに驚いたが、またもや大型の資金調達があった。日本経済新聞でも報じているとおり、オンライン印刷サービス「ラクスル」を手がけるラクスルは2月17日、第三者割当増資により総額40億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
引き受け先は既存株主であるオプト、グローバル・ブレイン、WiL、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRI、電通デジタル・ホールディングス、GMO Venture Partnersのほか、新たにリンクアンドモチベーション、グリーベンチャーズ、Global Catalyst Partnersが加わった。
業績は2013年12月から1年で10倍に
ラクスルは2009年9月の創業。当初はオンライン印刷の価格比較サービスからスタートし、その後オンライン印刷の一括見積もり事業を開始。現在では印刷会社をネットワーク化し、その非稼働時間を活用して安価な印刷を展開するオンライン印刷事業を展開している。
2014年2月には約14億5000万円の資金調達を実施し、テレビCMも放映したラクスル。会員数は現在約10万人、売上高は非公開ながら、「会員数とともに1年で5倍に成長している。2013年12月からの1年間で見れば約10倍に上る」(ラクスル代表取締役の松本恭攝氏)とのこと。
また今回の資金調達で印刷会社の買収でもするのかとも思ったがそういう訳ではないようだ。松本氏は「事業が立ち上がり、『投資をすれば拡大する』ということが見えてきた。ならば小さく上場するのではなく、もっと赤字を掘ってでもより大きく成長しようと考えた」と語る。
事業と組織の両輪で成長、マネジメントの目線を上げる
今回、リンクアンドモチベーションとグリーベンチャーズ、Global Catalyst Partnersが新たに株主となっている。松本氏は組織作りや海外進出といった面でのシナジーを求めたいと語る。
「事業と組織は両輪。両方が回って初めて会社がうまく回る。例えば(一度エグジットして)2社目の勝負をしている起業家は、組織がどんなことで転ぶか分かっている。だが私は転ぶようなことをことごとくやってきている。だからこそ今のうちに組織をしっかりと作りたい。またグリーは青柳さん(グリー取締役執行役員常務の青柳直樹氏)と話したことがきっかけだが、海外でのチャレンジ経験が豊富」(松本氏)。さらに米国のベンチャーキャピタルであるGlobal Catalyst Partnersについては、「日本のスタートアップとは違うマネジメント、非連続な成長を作るために目線を上げてくれる存在だ」(松本氏)と語った。
「チラシ印刷」にとどまらない中小企業の集客支援
同社のテレビCMを見たことがある読者の中には、大企業向けのチラシ・名刺印刷というイメージを持った人もいるかも知れないが、中心になっているのは、塾やフィットネスクラブ、接骨院に美容室など、商圏の限られている中小企業のチラシ印刷なのだそう(なお、名刺の取り扱いは全体の2割程度)。ちなみにサイトへの集客は「テレビCMは期待した効果が出ている」(松本氏)ということだが、何よりも口コミの効果が大きいのだそうだ。
今回の調達では、そんな中小企業向けのオフラインでの集客支援を実現するプラットフォームを構築していくのだという。「チラシを刷るというのは、つまりは集客の予算を預かっているということ。ネットでの集客、マーケティングは効率化が進んで新しいイノベーションが起きる一方、紙の市場ではほぼイノベーションが見られず、予算をかけられない中小企業がほとんど。そこにイノベーションを起こしたい」(松本氏)
すでにラクスルでは、チラシの印刷だけでなく、チラシのデザインや印刷したチラシのポスティングといった印刷の“前後”のニーズをカバーしつつあるのだが、こういった取り組みをより強化していく。最近ではウェブサイト上で簡単にチラシのデザインができるエディタも実装したし、今後はチラシのライティング講習なども試験的に手がけるという。
これまでは印刷会社の非稼働時間を使うことで「安価な印刷」をうたってきたラクスルが、どうして中小企業のオフラインでの集客支援というキーワードを掲げるのか? 松本氏はユーザーのニーズ、そして単なる価格競争からの脱却について語る。「ユーザーのニーズはほとんどがチラシの印刷であり、それはつまり集客に困っているということ。そして集客予算を預かっているのであれば、印刷は安い方がいい。だがそれだけ考えると、価値は結局値段に収束してしまう。安さを徹底的に追求して価値を作るということもあるが、安くても効果が出なければ意味がない。チラシという紙のメディアの価値を上げることを考えたとき、ほかにプレーヤーはいないと考えた」(松本氏)
印刷会社のサポートや海外展開も視野に
このほか、調達した資金をもとに、印刷会社のサポートを強化するという。例えば小さい印刷会社では、紙の仕入れなども(ボリュームディスカウントできずに)高価な場合がある。こういった材料の仕入れや機材のレンタルなども取り組む予定。すでに印刷機器メーカーのリョービMHI元代表取締役社長の堂本秀樹氏の参画も決まっている。
ラクスルではさらに、海外展開も視野に入れる。「海外は日本ほど価格競争が厳しくないし、『ネットの会社』として(印刷事業に)取り組んでいるところが少ない。APIの公開こそしていても、どっぷり印刷業につかっていて、それでいてネットの開発もできる、というところは少ない。そのあたりはラクスルが独自の価値を作れる」(松本氏)
同社では現在フルタイムの社員約30人(パートタイムのカスタマーサポートなどを含めると、日本とベトナムで合計約100人)を年内に2倍まで拡大する見込み。さらに、早期の会員数100万人を目指すとしている。