小型無人飛行船でミドル・マイルの配達が抱える問題に挑むBuoyant

近年、飛行機やヘリコプターに取って代わられた技術である「飛行船」の復活を目指す企業が続々と登場している。

フランスのFlying Whales、英国のHybrid Air Vehicles、Lockheed Martin、億万長者のSergey Brin(セルゲイ・ブリン)氏などが、特に貨物輸送に重点を置いた飛行船プロジェクトを開発中だ。しかし、まだ顧客へのサービスを実際に開始したものはない。

Buoyantは、その最初の企業になりたいと考えている。

Buoyantは、ミドルマイルの貨物を運ぶ小型の無人飛行船を開発することを目的として、2021年Y Combinatorを卒業した。倉庫から家庭への配送ではなく、倉庫から倉庫への配送を考えてみて欲しい。創業者のBen Claman(ベン・クラマン)氏とJoe Figura(ジョー・フィグラ)氏は、小型飛行機やヘリコプターでの輸送に比べて、輸送コストを半分にできると述べている。また、他の企業が失敗している点については、小型であることで乗り越えられるという。Buoyantの最終的な飛行船は、建設に多額の資金と揚力に必要な大量のガスを必要とする数百フィート(数百m)の巨大な飛行船とは違い、約60フィート(約18.28m)の長さしかない。

クラマン氏とフィグラ氏は、MITのハードウェアエンジニアで、宇宙船やアンテナの製作に携わってきた。2人とも、以前の職場では、アラスカのような遠隔地(クラマン氏が育った地でもある)に低コストの通信手段を提供するプロジェクトに取り組んでいた。

Buoyantの創業者であるジョー・フィグラ氏とベン・クラマン氏(画像クレジット:Buoyant)

「ジョーと私がこれらの会社で働いていたときに話していたのは、インターネットだけでなく、実際の商品をこれらの地域に届けるのがいかに難しいかということだった」とクラマン氏はいう。「このような地域では、人々はオンラインで買い物をし、物を送ってもらっている。届くまでに何週間も何カ月も待たされることもある」。

クラマン氏は、Y Combinator参加時は、既存のプロトタイプに近い飛行船を作ることを想像していたと付け加えた。例えば、アマゾン(Amazon)のラストマイル配送ができる小型の機体だ。

「多くの企業と話をした結果、地方のラストマイルよりも地方のミドルマイルの方がはるかに大きな問題であることがわかった。例えば、ある地域に5000人の人が住んでいるとすると、その中の1人にラストワンマイルの配達を委託することができる。しかし、メインハブからその場所まで配達物を届けるのは、実際にはとても困難で、とにかくお金がかかる」。

この問題を解決するために、Buoyantは「ハイブリッド」なバッテリーを用いた電気飛行船を開発した。つまり、揚力の約70%を空気より軽いガス(この場合はヘリウム)で発生させる。残りの30%の揚力は、ティルトローター(垂直/短距離離着陸のための手法の1つ)の構造によるものだ。Buoyantによると、このハイブリッド設計により、貨物を降ろす際の困難な問題を解決することができる。ティルトローターを採用したことで、離着陸の際にヘリコプターに近い運用が可能になるからだ。

 

しかし、ヘリコプターには、カーボンファイバーやステンレススチールでできた1500~1万ポンド(約680〜4535kg)の重量を持ち上げる能力が必要だが、Buoyantの飛行船は、有効荷重自体とその機体の重量を持ち上げるだけで済む。これにより、資本コストを削減できるだけでなく、最終的には自律的に飛行することを目指して開発を進めているため、パイロットを使用する必要もない、とBuoyantは述べている。

Buoyantは、これまでに4隻の飛行船を試作し、飛行させてきた。最も最近飛行した小型スケールの船は、長さ20フィート(約6m)、最高時速35マイル(時速約56km)、積載量10ポンド(約4.5kg)だが、最終的な目標は、時速60マイル(時速約97km)前後の巡航速度で最大650ポンド(約294kg)の貨物を運搬できる飛行船を作ることだ。

この飛行船は、Part 107のライセンス(米国でドローンなど、航空機を飛行時に必要なライセンス)を取得して運航している。同社が顧客へのサービスを開始するには、飛行船の耐空性を証明する型式証明と、飛行船を操縦するグループに対する操縦証明の2つの証明を取得する必要がある。「どちらも多くの飛行時間を必要とするが、これが私たちの主な開発活動になる」とフィグラ氏はHackerNewsで述べている。

今後の予定としては、飛行制御システムの改良を続け、数カ月後には小型スケールのプロトタイプでフィールドデモを行う予定だ。Buoyantは、来年には実物大の試作機を作りたいと考えており、その際には自社で製造する可能性が高い、とクラマン氏は語っている。

Buoyantにとって、アラスカの地方航空会社を含む、複数の可能性のある顧客との間で交わした500万ドル(約5億4900万円)相当の趣意書を正式な契約に結びつけるためには、この先のいくつかのステップがとても重要になる。

また、今秋には小型スケールのプロトタイプ、1年後には実物大の機体で、いずれも物流・宅配会社を対象とした2つのパイロットプログラムを予定している。

「人間はコンピューターが登場する前から飛行船を建造していたし、空気力学を理解する前から飛行船を建造していたので、人類が飛行船を建造してきた期間の長さだけでもアドバンテージがある」とクラマン氏は付け加えた。「そこにはたくさんのデータがある。飛行船の開発が止まったわけではない。人類は基本的に、100年以上にわたって継続的に飛行船を開発してきた」。

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画像クレジット:Buoyant

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Akihito Mizukoshi)

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TechCrunch Japan

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