エディンバラ大学の研究者たちは、深刻化するプラスチック汚染の問題に取り組むため、われわれ凡人には思いもよらない斬新な発想による解決策を編み出しました。それは、廃プラスチックをバクテリアによってバニラ風味の元になるバニリンと呼ばれる成分に変えてしまおうというものです。
近年の研究ではバクテリアがプラスチックの分解を手助けすることがわかってきています。たとえば日本では2016年、ゴミ集積場に存在する細菌類からペットボトルの材質(ポリエチレンテレフタレート:PET)のエステル結合を、カルボキシ基と水酸基とに加水分解する能力を持つ酵素が発見されています。また香港理工大学の研究者は、粘着性のバクテリアバイオフィルムを使用して海洋などに散らばるマイクロプラスチックを捕捉する方法を研究しています。
そして、エディンバラ大学の研究者らはやはり研究室で人工的に作り出したバクテリアを使い、ペットボトルを素早く分解するだけでなく、バニラの香りの成分であるバニリンに変換できることを実証したとのこと。この変換が大量に行えるようになれば、プラスチック廃棄物をなくし、製品や材料を使い続けることを目的とした循環型経済を促進できることも考えられます。また合成生物学の分野にもプラスの影響を与えるとレポートで述べました。
ペットボトルは毎年毎年約5000万トンが廃棄されていると言われます。研究チームは、PETを触媒で分解して回収したテレフタル酸(TA)を処理するために大腸菌を用い、反応を起こす環境を微調整することで、TAの79%をバニリンに変換することができたと報告しています。
バニリンは、バニラビーンズから抽出される主な化学成分で、食品の香り付けにとどまらず化粧品や洗浄剤、除草剤、消泡剤といった幅広い用途に使いみちがあります。バニリンは2018年には世界全体で3万7000トンが使用されました。もし、廃ペットボトルからのバニリン産生が大規模化できれば、それを用いてつくる製品群の新たな供給源になる可能性も考えられます。
エディンバラ大学はこの研究が「生物学的システムによって廃プラスチックを貴重な産業用化学物質にアップサイクルした初めての例」だと述べ、持続可能性を高め循環型経済の実現に非常に大きな意味を持つとしました。研究チームは今回の結果が、バニリンの生産量を工業的に必要なレベルにまで高めるためのさらなる研究の基礎になると述べています。
ちなみにバニリンは現在、天然のバニラビーンズから取れる量を需要が大きく上回っているため、化学的に合成されたものが多く使用されています。上にも述べましたが、今回の研究がいずれ実用化されれば廃ペットボトルの削減と循環型経済の実現に役立つかもしれません。
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