九州大学と土木研究所、1960年代から現在まで約60年間にわたる海洋プラスチックごみの行方を重量ベースで解明

九州大学と土木研究所、1960年代から現在まで約60年間にわたる海洋プラスチックごみの行方を重量ベースで解明

九州大学土木研究所 寒地土木研究所は3月2日、1960年代から現在までに海に流出したプラスチックごみ「海洋プラスチック」の行方を、コンピューター・シミュレーションによって重量ベースで解析したと発表した。その結果、海に流れ出たプラスチックは2500万トンほどであり、この60年間に陸上で環境に漏れ出たとされるプラスチックごみの総量の約5%に過ぎないことがわかった。残りの95%は陸上(5億トン程度)で行方不明になっている。

世界中で陸から海に流れ出るプラスチックごみは、年間で115万〜241万トン(Lebreton et al., 2017)と推計されている。しかし、実際に観測される浮遊プラスチックごみの現存量は25万トン程度(Eriksen et al. 2014)しかない。この推計流出量と観測された現存量とがかけ離れている状態は、「ミッシング・プラスチックの謎」といわれている。海に流れ出たプラスチックは、浮遊するものばかりでなく、海中に沈んでしまっているものもある。それらの総量を把握しミッシング・プラスチックの謎を解明しなければ、海洋汚染を回避するためにどれだけプラスチックを削減すればよいかがわからない。

そこで、九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授と土木研究所寒地土木研究所の岩﨑慎介研究員による研究グループは、全世界の海を対象にプラスチックごみの移動を追跡するコンピューター・シミュレーションを行った。海流や波で運ばれるものや、風で吹き寄せられるものに見立てた仮想粒子を追跡するというものだ。これには、陸から海に流れ出たプラスチック量の他に、漁業にともなう投棄量も含まれる。

このシミュレーションには、大きなプラスチックごみがマイクロプラスチックに粉砕される過程や、破砕の後に生物が付着して沈んだもの、海岸の砂に吸収されたもの、破砕が進んで現状では採取できない微細なマイクロプラスチックになったものも、海底に沈んだものなど、海表面や海岸からマイクロプラスチックが消失する過程も組み込まれている。

そしてこのシミュレーションの結果を解析し、全世界でのプラスチック重量の収支を計算した。すると、世界で海に流出したプラスチックごみのうち、約26%(660万トン)は目視できるサイズのごみであり、約7%(180万トン)はマイクロプラスチックとして漂流や漂着を繰り返していることがわかった。世界の海岸に漂着したプラスチックごみの重量は約590万トン。そして、60年代から海に流出したプラスチックごみの総量約2500万トンのうち約67%(1680万トン)はマイクロプラスチックとなり海岸や海面近くから消失している。しかし、これらを合計しても2500万トンほどにしかならず、陸上で環境中に漏れ出たと推定されるプラスチックごみの総量の約5%に留まる。残りの95%(5億トン)は、陸上で行方不明となっている。

今後はこの5億トンのプラスチックごみの行方の追究が、「広範な環境科学の研究者が関わるべきテーマ」だと研究グループは言う。さらに、数百μm(マイクロメートル)以下の「微細プラスチック」の行方も問題となる。九州大学では、ごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」(Android版iOS版)を使った、市民によるプラスチックごみの追跡プロジェクトを実施しており、これと並行して微細プラスチックの分布量把握、将来予測、影響評価を行う研究に取り組むとしている。

海洋研究開発機構と鹿児島大、デジカメ撮影による海岸の写真からAIで漂着ごみの被覆面積を高精度に推定する新手法を開発

セマンティック・セグメンテーションを用いた、海岸の写真からの海ごみ検出のイメージ図。写真に対して、ピクセル単位でのクラス分類が行われる。訓練用に2800枚、評価用に700枚の画像データを用いた(写真は山形県提供)

セマンティック・セグメンテーションを用いた、海岸の写真からの海ごみ検出のイメージ図。写真に対して、ピクセル単位でのクラス分類が行われる。訓練用に2800枚、評価用に700枚の画像データを用いた(写真は山形県提供)

海洋研究開発機構鹿児島大学は2月4日、ディープラーニングを用いた画像解析で、デジカメなどで普通に撮影された海岸の写真から、海岸の漂着ゴミを検出する手法を開発したと発表した。

海岸漂着ゴミの実態調査は世界中で行われているが、ゴミの現存量の定量化が行える、汎用性と実用性の面で優れた技術がなかった。人による調査では、経済的負担、時間的制約、さらに範囲も限定されてしまい、精度にも課題があった。ドローンや人工衛星を使う技術も開発されているが、それではコストがかかりすぎる。そこで、海洋研究開発機構の日高弥子臨時研究補助員、松岡大祐副主任研究員と、鹿児島大学の加古真一郎准教授からなる研究グループは、地上においてデジカメなどで簡易的に撮影された画像から、高精度で海洋漂着ゴミの定量化ができる技術の研究に着手した。

ここで採用されたAI技術は、セマンティック・セグメンテーションと呼ばれるもの。ディープラーニングを用いた画像解析技術で、画像内のすべてのピクセルにラベル付けを行い、ピクセルごとに、人工ゴミ、自然ゴミ、砂浜、海、空といったクラスを出力する。そのクラス特有のパターンの学習には、山形県庄内総合支庁から提供された海岸清潔度モニタリング写真3500枚が利用された。そこから正解となるラベルを作成し、AIの訓練や判断の評価を行った。

入力画像、正解ラベルおよびAIによる推定画像の例

入力画像、正解ラベルおよびAIによる推定画像の例

今回の研究では、海岸漂着ゴミを検出した後の画像を、真上から見た構図に変換(射影変換)して、ゴミの被覆面積を推定することも可能であることがわかった。ドローンによる空撮画像から推定した被覆面積と比較したところ、誤差は10%程度だった。

セマンティック・セグメンテーションと射影変換による人工ごみの被覆面積推定結果。海岸漂着ごみ検出後の画像を真上から撮影した構図に射影変換することにより、海岸全体のごみの被覆面積が推定可能であることを示したもの。同手法の精度は、ドローンによる空撮から得られた正解値との比較により検証している

セマンティック・セグメンテーションと射影変換による人工ごみの被覆面積推定結果。海岸漂着ごみ検出後の画像を真上から撮影した構図に射影変換することにより、海岸全体のごみの被覆面積が推定可能であることを示したもの。同手法の精度は、ドローンによる空撮から得られた正解値との比較により検証している

今後は、海岸漂着ゴミの堆積の推定や、プラスチックゴミの個数のカウントもできるように発展させるという。今回の研究から生まれた学習用データセット(The BeachLitter Dataset v2022)は、非商用の研究目的に限って公開される。汎用性の高いシステムなので、多くの人がデータを集め学習させることで、それぞれの地域特有の、目的に合ったAIの開発が可能になり、全世界で活用できるようになるとのことだ。そこで、研究グループは、アマチュア科学者をはじめ多くの人々が参加する市民科学に期待を寄せている。

廃ペットボトルをバクテリアでバニラ香料「バニリン」に変換、英エディンバラ大学が実証実験に成功

廃ペットボトルをバクテリアでバニラ香料「バニリン」に変換、英エディンバラ大学が実証実験に成功

Sami Sert via Getty Images

エディンバラ大学の研究者たちは、深刻化するプラスチック汚染の問題に取り組むため、われわれ凡人には思いもよらない斬新な発想による解決策を編み出しました。それは、廃プラスチックをバクテリアによってバニラ風味の元になるバニリンと呼ばれる成分に変えてしまおうというものです。

近年の研究ではバクテリアがプラスチックの分解を手助けすることがわかってきています。たとえば日本では2016年、ゴミ集積場に存在する細菌類からペットボトルの材質(ポリエチレンテレフタレート:PET)のエステル結合を、カルボキシ基と水酸基とに加水分解する能力を持つ酵素が発見されています。また香港理工大学の研究者は、粘着性のバクテリアバイオフィルムを使用して海洋などに散らばるマイクロプラスチックを捕捉する方法を研究しています。

そして、エディンバラ大学の研究者らはやはり研究室で人工的に作り出したバクテリアを使い、ペットボトルを素早く分解するだけでなく、バニラの香りの成分であるバニリンに変換できることを実証したとのこと。この変換が大量に行えるようになれば、プラスチック廃棄物をなくし、製品や材料を使い続けることを目的とした循環型経済を促進できることも考えられます。また合成生物学の分野にもプラスの影響を与えるとレポートで述べました。

ペットボトルは毎年毎年約5000万トンが廃棄されていると言われます。研究チームは、PETを触媒で分解して回収したテレフタル酸(TA)を処理するために大腸菌を用い、反応を起こす環境を微調整することで、TAの79%をバニリンに変換することができたと報告しています。

バニリンは、バニラビーンズから抽出される主な化学成分で、食品の香り付けにとどまらず化粧品や洗浄剤、除草剤、消泡剤といった幅広い用途に使いみちがあります。バニリンは2018年には世界全体で3万7000トンが使用されました。もし、廃ペットボトルからのバニリン産生が大規模化できれば、それを用いてつくる製品群の新たな供給源になる可能性も考えられます。

エディンバラ大学はこの研究が「生物学的システムによって廃プラスチックを貴重な産業用化学物質にアップサイクルした初めての例」だと述べ、持続可能性を高め循環型経済の実現に非常に大きな意味を持つとしました。研究チームは今回の結果が、バニリンの生産量を工業的に必要なレベルにまで高めるためのさらなる研究の基礎になると述べています。

ちなみにバニリンは現在、天然のバニラビーンズから取れる量を需要が大きく上回っているため、化学的に合成されたものが多く使用されています。上にも述べましたが、今回の研究がいずれ実用化されれば廃ペットボトルの削減と循環型経済の実現に役立つかもしれません。

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ピリカは、2011年の創業以来ごみの自然界流出問題をはじめ環境問題の解決に取り組み、ごみ拾い活動を共有・促進するSNS「ピリカ」(Android版iOS版)、画像解析技術で広範囲のポイ捨て状況を調査できる「タカノメ」、マイクロプラスチックの流出量調査や製品特定などを行う「アルバトロス」といった独自のサービスやソリューションを開発・提供している。

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