クラウド型施工管理アプリ「&ANDPAD(アンドパッド、以下ANDPAD)」を提供するオクトは3月26日、グロービス・キャピタル・パートナーズをリード投資家として、DNX Ventures(旧Draper Nexus Ventures)をはじめとする既存株主の追加投資も合わせて、総額約14億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
この調達ラウンドではさらに追加の投資も予定されており、クローズ時点での予定調達金額は全体で約20億円になる見込み。今回の調達は2018年3月に実施された第三者割当増資に続くもので、これまでの累計調達総額は約24億円になる予定だ。なお、資金調達に伴い、グロービス・キャピタル・パートナーズ ジェネラルパートナーおよび最高執行責任者の今野穣氏が社外取締役に就任する。
建設現場をアプリで効率化するANDPAD
ANDPADは、建築施工管理が現場から社内業務まで一元で行える、クラウド型の建設プロジェクト管理サービスだ。その強みはスマートフォンアプリで、現場で利用できること。現場写真や図面資料を集約して一覧でき、工程表も共有できる。職人と監督とのやり取りはチャットで行え、作業日報もその場でアプリから作成できる。
また営業管理、顧客管理のための機能も追加され、見積もり作成や定期点検管理、受発注機能などもオプションで提供されるようになった。
利用企業からは、リアルタイムに近いスピードで現場の疑問を確認・解消できる、チャット機能が重宝されているようだ。工事が大規模になればなるほど、現場で発生する問題や施主への対応の遅れは、積み重なることで大幅な工期遅れにつながる。対応レベルが担当の経験値によりマチマチにならないようにするためにも、リアルタイムな情報共有ができる点は重視されているという。
また職人からはGoogle マップと現場情報が連携している点が喜ばれているとのこと。現場への道順はもちろん、現場近くのコンビニ、ホームセンターや駐車場など、必要な場所をすぐ自分で調べられることが評価されているそうだ。
利用は新築からリフォーム、商業建築など、さまざまな種類・規模の施工現場にわたっており、2019年3月の時点で1600社を超える企業に導入されているという。ちょうど1年前、2018年3月の取材時には導入社数800社と聞いていたので、倍ぐらい伸びたことになる。
オクト代表取締役社長の稲田武夫氏は、導入社数の増加に合わせた同社組織の強化を行い、顧客体験の向上を図りたい、と資金調達の目的について述べている。そのための施策のひとつが、プロダクト向上のための開発だ。
「利用企業は、一口に建設会社といってもいろいろな業務の集合になっている。それぞれの業務に合った、セグメントされたオプションを提供していきたい」(稲田氏)
例えば、トイレや足場組みなど、1日で終わる短工事を担当する業者では、「ANDPADで1件ごとに毎回案件を作成するのが大変」といった声も出ているということで、短工事に特化したツールを準備しているという。ほかにも分譲住宅の建設会社のための機能や、建材流通会社が施工を行うケースへの対応、商業施工への対応など、「業界をメッシュで理解して、プロダクトに反映していきたい」と稲田氏は話す。
調達資金の使途として稲田氏がもうひとつ挙げたのは、カスタマーサクセスの強化だ。現在、月に50〜70回のペースで説明会を開催し、オンボーディングでリアルに使い方を伝えているというが、稲田氏は「使う人のリテラシーにもばらつきがある建設業界で、ITを取り込もうというなら、オンボーディングでの説明は不可欠。愚直にやっていく」と語る。
こうした施策のかいもあって、顧客の多くが、ほかのユーザー企業などからの紹介でANDPADの利用を始めるようになってきたそうだ。よい顧客体験が反響にも重要な影響を与えるとして、さらにカスタマーサクセスを強化していくという。
オープンな取り組みでANDPADを建設IT化の入口へ
ユーザーから「工期遅れがなくなり、予定通りに完工するようになった」と効率化に対する評価を得ているというANDPAD。建築業界でのプロジェクト管理ツールとして、ITにおけるGitHubやBacklogと同様、工程の効率向上に寄与してきている。だが一方で、ANDPADを「施工品質の向上に寄与するプロダクトにしていきたい」という稲田氏は「効率化の先で施工品質は上がっているか」と自問しているという。
しばしば社会問題ともなるずさんな施工について、稲田氏は「企業規模にかかわらず、大規模な現場では管理もしっかりしているが、中小規模の現場ではリソースが行き届かないことも多い。効率化と品質向上とはトレードオフになる部分もあるが、そこをテクノロジーの力で何かできないだろうかと考えている」と話している。そこで、施工検査を行うプレイヤーと組んで、サービスをリリースすることなどを検討しているそうだ。
またこれまでに蓄積したデータの利活用による、建設業界全体への貢献も考えていると稲田氏はいう。現在、130万件の施工案件が入力され、4万人の職人が登録、1日当たり6万件の施工写真がアップロードされるというANDPAD。さらに受発注情報で会計データも蓄積するようになっており、「建設現場のデータとしてこれだけの蓄積がある例はほかにはない」と稲田氏は自負する。
他業界でも同じ傾向にあると思うが、特に建設業界では人材不足が大きな課題となっている。稲田氏は「データの活用で人材の流動性を高めるなど、貢献できないか。特に災害などで需要が集中した場合に、マッチングができるような仕組みを考えている」と述べている。
ほかに建築資材の流通の仕組みも、まだまだアナログだとのこと。「データは取れていくので、こうした建材流通の面でも流れを良くしたい」と稲田氏はいう。
総額20億円の調達について、稲田氏は「建設業界は大きな産業。現場の『はたらく』を幸せにしたい、というのが我々のミッションだが、それを実現しようと考えて逆算すると、この金額が必要だった」と話す。
今後、建設現場のテクノロジー導入に積極的な建設会社をパートナーとして、中長期的なR&Dも図っていくというオプト。これは「顧客の建設会社からの要望があってのこと」と稲田氏は説明する。例えば「通信環境が良くない現場など、スマホが開けないところでもANDPADを使いたい」といったニーズにウェアラブルデバイスなどのハードウェアを取り入れるようなことも、建設会社と提携して取り組んでいきたいという。
また、基幹業務のクラウドサービスを提供するシステム会社などとも連携したいと稲田氏。「ANDPADが、建設産業IT化への入口となればいい。API連携などオープンに取り組むことで、現場の幸せと施工の品質向上につながれば」と話している。