新たな音楽配信サービスElectric Jukeboxがデビュー、年間169ポンドで聞き放題

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定額制の音楽配信サービスは、まだかつての物理的な記憶媒体(CDやレコードなど)ほど一般には普及していない。しかしその主な原因はプロダクトマーケットフィットで、音楽配信サービスの多くが、気軽に音楽を聞くような一般層ではなく、少数のコアな音楽ファンを想定していると主張する人もいる。

そんな音楽配信の分野に、Electric Jukeboxと呼ばれる新製品が登場し、このギャップを埋めようとしている。まずイギリスで販売開始予定のElectric Jukeboxは、デバイスと音楽サービスが一体になった製品で、価格は初年度が169ポンド、そして2年目以降は52ポンド(週1ポンド)に設定されている。

SelfridgesやArgos、Amazonといった小売企業とのパートナーシップを通じて販売を行うほか、Electric Jukeboxは「大手テレビ局」とも販売提携している。さらには、Cheryl Crow(冒頭の写真)やRobbie Williams、Alesha Dixon、Stephen Fryといったセレブとタイアップし、彼らは製品の宣伝以外にも、プラットフォーム上で自分たちの”ミックステープ”を公開している。

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地元のバーやレストランに置いてあるバカでかいジュークボックスのように、ユーザーはElectric Jukebox上で自分の好きな曲を再生することができ、選べる曲はローンチ時点で既に2900万(アルバム200万枚以上に相当)種類も準備されていると製造元のMegic Mediaは話す。さらに同社によれば、楽曲はUniversal Music Group、Sony Music Entertainment、Warner Music Group、Merlin、PIAS、Believe Digital、InGroovesなどから提供される。

場所をとる昔のジュークボックスとは違い、Electric Jukeboxは手におさまるくらいの大きさに作られている。

販売が開始された初代バージョンは、ふたつのパーツで構成されている。ひとつはテレビの背面に接続するドングルで、もうひとつがボタンと音声インターフェースが搭載された、Wiiリモコンにちょっと似たコントローラーだ。

HDMI端子があるテレビ(=ほぼ全ての薄型テレビ)とそこに接続されているスピーカー、WiFiがあれば、それぞれがElectric Jukeboxの”スクリーン”、オーディオアウトプット、ネットワークになり、これだけで音楽を楽しめるようになっている。

Electric Jukeboxは、どこでも音楽が聞けるサービスではなく、家の中心となるようなテレビの置いてある部屋で音楽が楽しめる環境を提供しようとしているのだ。

ファウンダーのRob Lewisは「私たちはSpotifyのユーザーを奪うつもりはありません」とインタビュー中に話していた。さらに彼は、楽曲のライセンス契約も、他のサービスと競合するのではなく、利用者層を拡大することを前提としていると語った。

「現在定額制の音楽配信サービスを利用していない、消費者の90%にあたる層を私はターゲットにしています。彼らは高齢かもしれないし、たくさんデバイスを持っていないかもしれない上、テクノロジーにも詳しくないかもしれません。多くの一般消費者にとって、リビングや寝室においてある大きいテレビが、彼らの家にある唯一の家電製品です。私たちはそんな消費者のために、テレビに接続できる製品を販売しています」とLewisは話す。

確かにYouGovの最近の調査によれば、ストリーミングサービスが比較的普及しているイギリスでさえ、人口の約8%しかデジタル音楽サービスに加入していない。

そういう意味では、1番大きな課題は依然として、レイトアダプターにあたる一般消費者にとにかくどの企業のものであれ、音楽サービス自体の利用を促すことのようだ。

このようなマクロなトレンドが存在する一方で、競合企業や彼らの製品・サービスが全て左を向く中、Electric Jukeboxだけが右を向いているようなサービス内容には疑問が残る。広い世界の中で、利用できる場所を一か所に限定し、初めからモバイル要素のないサービスを提供するというのは、デジタルメディア界の大きなトレンドに逆行している。

しかし同時にLewisの洞察力は無視できない。連続起業家である彼は、過去にテックブログSilicon.com(後にCBS Interactiveが買収)を開設し、その後には音楽配信サービスの草分け的存在であるOmnifoneを設立した。Omnifoneは、自社のサービスを広めたいと考えていた携帯電話メーカーやキャリア、音楽レーベルと次々に契約を結んでいったが、最終的には類似企業がサービスを停止するのと時期を同じくして倒産し、SpotifyやPandora、Appleがその後勢力を伸ばしていった。

なお、TechCrunchでは、昨夜そのOmnifoneの資産の一部(従業員含む)を、Appleが吸収していたことを突き止めた。

その一方で、Electric Jukeboxを運営する、設立間もないスタートアップのMagic Worksは、これまでに既に何度か苦難を経験してきた。同社は2度(2015年のクリスマスと2016年のイースター)もローンチ日を逃してきたのだ。

ついに市場へ製品を出せることになった同社は、これまでに投資会社のYolo Leisureや、実業家兼スポーツチームオーナーのNigel Wrayを含む投資家から700万ポンドを調達している。

さらにElectric Jukeboxの価格面での競争力は高い。他のサービスを使って同じようなことをしようとすると、以下のようになるとMagic Worksは話す。

Apple Music:637.88ポンド
(内訳)
Apple Music利用料: 119.88ポンド
Apple TV: 139ポンド
iPad Air 2: 379ポンド
合計 637.88ポンド

Google:468.88ポンド
(内訳)
Google Play Music利用料: 119.88ポンド
Chromecast: 30ポンド
Nexus 9: 319ポンド
合計 468.88ポンド

Spotify:269.87ポンド
(内訳)
Spotify利用料: 119.88ポンド
Amazon Echo: 149.99ポンド
合計 269.87ポンド

まずはイギリスでサービスが開始されるが、Eletric Jukeboxのライセンスは全世界で有効なため、今後数ヶ月のうちに他のヨーロッパ各国、そして世界中へとサービスを展開していく予定だとLewisは話す。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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