フリマアプリを日本とアメリカで提供するスタートアップ企業の「メルカリ」について、本誌TechCrunch Japanでは創業時から何度もお伝えしてきている。メルカリ創業者の山田進太郎CEOは、日本のテック業界ではまだ数少ないシリアルアントレプレナーとして色んな意味で注目だ。山田氏は2001年に創業したウノウを2010年にZyngaへ数十億円規模で売却して、しばらくZynga Japanでジェネラル・マネージャーをと務めた後、世界一周旅行の充電期間を経て2013年にメルカリを創業(創業時の社名はコウゾウ)している。
メルカリは山田氏にとって「2周目」だ。
2年間の事業の推移やプロダクトの育て方、ユーザーやマーケットとの向き合い方、組織運営など、どの話を聞いていても駆け出しの起業家の「勢い」とは違った落ち着きと自信が感じられる。すでに1日に数十万品以上がやりとりされ、流通総額は月間数十億円。国内では手数料を10%取っていることからメルカリは事業として十分な収益が出ているという。2014年8月にローンチしたアメリカ市場のアプリも350万ダウンロードとなり、「もう離陸はしたなというフェーズ。今は手数料を取ってないが、やろうと思えば黒字化できるくらいには立ち上がっている」と話す。
2013年7月に日本でローンチしたメルカリは、わずか1年半で1000万ダウンロードを達成。2年が経過した現在、アメリカ市場での350万ダウンロード分も含めると、この7月頭に2000万ダウンロードを突破したという。
「野茂待望論」、注目されるメルカリの北米進出
2014年3月に14億5000万円、同10月に23億6000万円という大型の資金調達を実施したことでも注目を集めているメルカリたが、より注目すべきなのは「日本から出たスタートアップ企業が北米市場で通用するのか?」、そして「グローバルで戦っていけるのか?」という問いだ。メルカリは、この問いの答えが「イエス」だと証明する最初のスタートアップ企業となる可能性がある。
日本のテック業界では「野茂待望論」がここ数年語られている。
1995年、球団や監督との確執から日本の球界を去って渡米する野茂英雄に対して、球界はもちろんメディアも世論も冷やかだった。どうせ通用しないという見方も多かった。ところが、ひとたび野茂が大リーグで三振を奪いまくって活躍をする姿が衛星経由で日本に放映されるや、海を渡る日本人野球選手が増えることとなった。
これと同様に、日本から出たスタートアップがグローバルに成功する事例が出てくれば、後に続くスタートアップや起業家が増えるのではないか、というのが野茂待望論だ。そのポジションに最も近いのが、メルカリやスマートニュース、Kaizen Platform、ツイキャス、トランスリミットといったスタートアップ企業だというのが、ぼくの認識だ。
注目されるメルカリのアメリカ進出の現状と今後の戦略について、先日2周年を迎えたばかりのメルカリCEOの山田進太郎氏と、元mixi取締役で現メルカリ取締役の小泉文明氏に聞いた。
日本のプロダクトは足かせにならなのか?
TechCrunch Japanでは先日、グローバルで勝つためにはゼロからシリコンバレーでスタートするのがベストな戦略だという仮説のものとに、着々と歩を進めているFlyDataの藤川幸一氏に話を聞いた。この話の中で藤川氏は、日本にプロダクトやユーザーベースがあることが逆に足かせになることがあると話していた。メルカリでは、日米のバランスをどう取っているのだろうか?
山田:期が変わる6月の終わりから、今年1年は「アメリカを攻略しよう」というメッセージを社内で出しています。プロダクトも8割はアメリカ向けの改良をやっていく、と。今はもうアメリカで求められている機能を優先しています。
小泉:もともとメルカリのアプリはソースコードもデザインも日米で共通なんです。だから、アメリカを優先するといっても、それは日本側のアプリにも反映されます。優先順位を変えたということですね。
山田:これをやったら日本で何千万円か売上が伸びるかもねっていうもので、「でもアメリカだと数百ドルしか効果がないよね?」というものがあるとしますよね。こういうとき、これまでは日本側の優先順位で引きづられてしまうということがあったんです。どうしても日本のほうがユーザーが多かったですからね。それを変えて、もうアメリカの数字しか見なくていいですよという形にしました。もちろん日本のアプリが落ちまくっていいという意味ではないですし、極端に数字が悪くなるようなことは全く望んでませんけどね。
TC:開発やオペレーションの日米での分業はどうしているんですか? サンフランシスコのオフィスの状況は?
山田:全社員175人のうち、サンフランシスコのオフィスには30人弱のスタッフがいますが、8割ぐらいはカスタマーサポートです。基本的にアメリカにはオペレーションとかファイナンス、ビジネス開発といった「コーポレート側」の人しかいません。プロダクト開発は日本人でやっています。プロダクトを作っているエンジニアやプロデューサーの4、5人が常にアメリカにいる状態にはしていますけどね。
文化の違いでアプリやサービスの作り方は違う?
TC:日米で消費者のライフスタイルやインフラが違うことから、サービス作りも違ってくるのでは?
山田:いや、そんなに違いはないと思っています。開発メンバーを常駐させているのは、アメリカの感覚を身に付けてほしいっていうことはあるんですけどね。メルカリ上でやり取りされてるアイテムは日本とアメリカで似ていますし、ユーザーの属性みたいなものも日本と似ています。メルカリの特徴ってユーザーの多様性なんですね。日本だと都市部だけじゃなくて地方の人たちも使っている。アメリカでも、サンフランシスコとかニューヨークで流行っているっていうことじゃなくて、中西部の人たちにも普通に使っていただいています。
小泉:シリコンバレーのサービスって、アメリカの西海岸だけで使われてるサービスとかあるじゃないですか。そういうのじゃなくて、西も東も真ん中も、まんべんなく使われてるなって感じです。
山田:アーリーアダプターが使ってるっていうサービスでは全くないんです。普通の人が、「なんかこれ面白いかも」という感じで、いきなり使い始めてる。これは日本もアメリカも同じです。
小泉:出品されている商材も似通っているので、ジャンルの区切り方も日米で全く同じなんですよ。まず女性が好みそうなところがあって、男性向けジャンルもあるというところも。
山田:日本のアマゾンとアメリカのアマゾン、あるいは日本のヤフオク!とアメリカのeBayみたいなサイトで、日本とアメリカで求められるものってそんなに変わりませんよね? LinkedInがあるかないかでFacebookの使われ方に若干差があるといっても、基本的にはみんな写真やURLを共有していて、そういう使われ方は変わらない。それと同じことです。
小泉:そもそもフリーマーケット自体が難しいコンセプトじゃないですよね。世界中どこに行っても、フリーマーケットってアパレルがあって、バッグとか靴とか、あとは雑貨とかハンドメイドとかが一定の割合である。難しいコンセプトを押し付けようとしてるわけじゃないので、アメリカ人から見ても受け入れやすいんじゃないかなと思っています。
アメリカでの普及の状況は?
TC:アメリカでの現状は?
山田:最初に日本でメルカリを出した2年前の状況に近いと思っているんですよね。2年前って、すでにヤフオクがあって、みんなそこまで満足していないという状況があって。それから後はフリルみたいなバーティカルのフリマアプリがあってという感じでした。今のアメリカも、eBayがあるけどみんな満足していないし、Craigslistも使い勝手が悪いよね、という感じです。Poshmarkというフリルみたいな特化型フリマアプリはそこそこ使われているという状況ですね。
小泉:モバイルのフリマで大きく覇権を取ってるアプリはないんですよね。
山田:そこに大きな市場があるんじゃないかと思ってやっていて、実際数字も悪くないんです。ダウンロード数は350万になって、普通に使われてるって感じですね。日本みたいに爆発的に伸びるかどうかはまだ未知数ですけどね。
TC:日本はARPUが高いとかスマホで買い物に抵抗がないとか一般ユーザーのリテラシーに差がありそうですが。
山田:確かにスマホでモノを買うっていうモバイルコマースだと日本のほうが若干進んでるのかなという感覚があります。そろそろアメリカでもモバイルでモノを買うというのが普通になってきて、そこにすぽっとハマればいいなと思っています。今すでにハマりつつあるなという感じなんですが、まだすごい勢いで伸びているぞというほどではないので、その状態に早く持って行きたいなというところですね。
小泉:アメリカでもリテンションの数字などを見てプロダクトを改善しているので、どこかのタイミングでキャンペーンとかプロモーションをやって大きくユーザーを獲得する、ということですね。日本でやってきたのと同じことをやる必要があると思っています。まだダウンロード数と流通高を積み上げている段階ですが、手応えは悪くないです。今は勝負をかける前ですね。
山田:リテンションとか1人あたりARPUみたいなものって、まだアメリカでは手数料をいただいていないので、あくまで仮説的な数値なんですけど、今年に入ってから数字は相当改善してきてるんです。これなら採算がとれるんじゃないかっていうところまで来ているので、今期もうちょっとかんばろうってことろですね。流通額は積み上がってるので、どちらかと言うとリテンションとか、アプリをダウンロードした人が、どのくらいバイヤーやセラーに転換するかという数字をぼくらは見ているんですね。7日間で何%転換するかといった、そういう数字を追っていますね。その辺の数字は劇的に改善してきているので、もうちょいですね。
TC:リテンションやコンバージョンを十分に上げた段階でマーケティング予算をドンと割いて、ユーザーを一気に獲得する?
小泉:もう一段階いけば、プロモーションのアクセルも安心して踏めるなと思います(笑)
山田:そう、安心して踏めるし、成功がほぼ見えてくるんじゃないかなと思います。
アメリカ進出は手数を増やすことが大事
TC:「ほぼ成功は見えてくる」というのは結構すごい発言だと思うんですけど、一方で日本のスタートアップに北米攻略は無理だという声も根強いですし、そもそもアプローチとして渡米して起業すべきと言って、それを実践している人も増えています。
山田:結局日本のスタートアップとか起業家とかで、誰もアメリカ進出でうまくいってる人がいないので分からないですよね。ある人は「オレはこう思う」、別の人は「いやオレはこう思う」ということで、みんな仮説を立ててやってる段階。誰かが成功したから誰かが失敗するというものでもないですし、何がうまくいくか分かりません。ぼくとしては諸条件がある中で、このやり方がいいんじゃないかと思ってやってきています。実際、日本市場で1年ぐらいかけてブラッシュアップしてきたから、アメリカでも初速が良く、うまく行き始めていますしね。
小泉:何が正解か分からないので手数(てかず)を多くやっていくしかないですよね。何がうまくいくってぜんぜん分からないですし(笑) メルカリでも色々やってみてうまくいかなかったこともたくさんありますよ。何をやってうまくいかなかったとか、そんなのいちいち覚えていられないくらいに。
山田:大きな失敗はなくても、やってみて「これは効果なかったね」というのはありますよね。
小泉:ありますね(笑) でも、そういうのって考えすぎてもあんまり意味ないですよね。
山田:あと、実装してみて後から取っちゃう機能も結構あります。アプリをゴテゴテと複雑にしたくないっていうのもあって、明らかに良くなったなという感じがない限り、消しちゃうんです。複数のチームが複数の機能に取り組んでいて、それぞれ1カ月くらいで数字もみてダメだったらダメで落とそう、という感じでやってますね。
既存市場のモバイル化というより新規市場の創出
日本ならヤフオク!や楽天オークションがあり、アメリカではeBayやCraigslistがある。モバイルへのシフトのタイミングで、こうした既存PC向けサービスからユーザーを奪っているという印象もあるメルカリだが、現実に起こっていることは、むしろ新規市場の創出だという。
山田:若い子とかだと、そもそも既存オークションサービスって選択肢に入っていないんだと思います。例えばヤフオク!は知ってはいるけど「難しそう」と見ているとか、そもそも「売る場」という意識がないと思いますね。自分が出せるという認識がないと出品しないじゃないですか? ヤフオクだと、そもそもヤフープレミアムという月額410円の有料サービスじゃないと最近まで購入すらできませんでしたし、今も出品はできません。410円で有料サービスに入らないと出品できないっていうのはハードルが高いですよね。
山田:だから、むしろメルカリのユーザーは初めてネットで買ったり売ったりするユーザーが多いんです。今まで使ってなかった若い女性とか主婦とか、そういう人たちがメルカリの手軽さに惹かれて使ってる感じですよね。ヤフオクで売りやすいものとメルカリで売れるものは違いますしね。
小泉:だからヤフオクのユーザーを食ってるという感じはなくて、新しいマーケットを作ったという自負があります。
山田:あと、既存オークションサービスだと事業者と連携して出品を増やすというところがありますよね。出品や売上を伸ばそうと思うとBに向かいがちです。CtoCよりもBtoBtoCとかBtoCというように。オークション形式だと入札者が多いので、店舗側からしたらメールアドレスの獲得手段という面もあります。
TC:メルカリはBを入れて行かないんですか?
山田:ぼくらとしても、B向けを入れていくという誘惑がないわけじゃないです。ただ、シェアリングエコノミーという世界観の中で、CとCでできる世界観を深堀りしていきたいなと思っています。ピュアなCtoCにこだわるのはいくつか理由があります。
山田:うちって大きい会社と思われてますけど、175人いる社員の半分以上はカスタマーサポートなんですよね。いわゆるエンジニアは20数人とかしかいなくて、小さなチームなんです。だから1つのことをやり続けるのが重要かなと思っています。色々やろうとすると力が分散して中途半端になるので、やらないというのが会社の選択です。
山田:もう1つ、ピュアなCtoCコマースって宝探し的な楽しさがあるんですよね。PC向けのネットオークションでも初期にはそういうのがあったんですけど、いまはスニーカーといっても色違い、サイズ違いのものがずらっと並んだりしますよね。そういう風ににしたくないなっていうのはありますね。面白さをキープしたい。
山田:スマホは個人が常に持っている小さいコンピューターです。シェアリングエコノミーが盛んになっているのは、このスマホの普及が背景にあると思っています。これによって個人と個人が結び付き始めていて、その中で新しいモデルを作りたいんですよね。
単価を上げることよりも、取引数と満足度を上げていきたい
TC:メルカリは売買単価がとても小さいように見えますが、上げていく施策は?
山田:単価をあげようということで、高額商品を力入れようとか、決済上限を10万円から29万円に上げたとか、そういうことはしています。ただ、どっちかいうと、どれだけやり取りしてるかとか、どれだけ満足していただけてるかのほうが重要な指標と思っています。
小泉:売買を楽しんでるとか、売れることによる承認欲求とか、そこからメルカリにハマる人たちもいるので、単価を上げなきゃっていう議論は社内ではそこまで出てきませんね。
山田:満足度を上げるということだと、キャリア決済に対応したり、最近だとヤマトとの提携でQRコードを発行して伝票を書かなくていいようにしたりしています。アプリ関連だと検索時に予測変換を入れて、「ルイ」とだけ入力すると「ルイヴィトン」と候補を提示するようにもしています。こういうユーザー体験は、まだまだ改善できるので愚直にやっていこうと思っています。
小泉:物流的なところはユーザーの負担が大きいので、ヤマトと提携したんですが、今度はコンビニとも話をしています。コンビニに持って行ったら今までより簡単に配送できるように準備しています。
山田:それから大型の商品もですね。ソファとか机とか、発送するのが面倒じゃないですか? だからヤマトさんが来てくれて簡単に送れるという風にしようとしています。
小泉:らくらくメルカリ便というのをヤマトさんとやっていて、これに大型も入れていく感じですね。
山田:らくらくメルカリ便は送料が全国一律です。買う側からすると値段が分からないと買いづらい。実際に買うまで全部でいくらか分からないってネックですよね。サービスを透明にしたいんです。すべてがクリアになっていて安心なのが、出品でも購入でも重要と思うんです。
ローカルの人材が仮説を検証する体制がベスト
TC:ローンチから350万ダウンロードとなる現在までにやってきた「アメリカ市場での改善」というのは、具体的にどういうものですか?
山田:それはアメリカ人から見て使いづらいところを変えるとかですね。例えば、住所を入れているときに気が変わって購入をやめることってありますよね? この時、また後から同じ画面に来たときに住所が消えちゃってたんですね。書きかけの住所を残すようにしてあげたら、購入画面からのコンバージョンが上がったとか、そういう地道なところですね。
山田:たぶんアメリカ人って日本人よりも買うボタンを気軽に押すんですよね、なぜか(笑)。メルカリって商品画面があって、購入画面があって、それで完了ってなるわけですけど、アメリカの場合は購入画面まで行く率が高くて途中まで住所入れたりとかするんですけど、やっぱりやめて戻ってほかの商品みたりする人が多い。一方、日本だと買うボタンを押すとスルッと最後まで行くんです。だから日本だと問題にならなかったことなんです。アメリカでどうやったらこの数字が上がるんだろうねって考えて、「もしかしてこれが原因なんじゃない?」って仮説を立てて、実行して数字をトラックしてっていうそういう改善をしています。この辺は、日本でアプリやるのと同じですよね。
TC:でも仮説って数字に先行する直感がないと立てられなくないですか?そういう直感は文化的理解に基づくものでは?
山田:ええ、データで改善できるところはやれてると思っていますが、文化的、フィーリング的なところができてるかっていうと、ちょっと疑問がありますね。データを見て改善していくにしても、仮説を立てる部分は文化的な理解が必要です。だから、ちゃんとアメリカでプロダクトマネージャーを採用して、アメリカ人がアメリカのプロダクトを改善していく体制を作ろうとしています。
山田:やっぱり国ごとに違う感覚的なものって分からないなと思っています。例えば、日本だと配送って問題にならないじゃないですか。郵便局もコンビニもいたるところにありますし。でもアメリカだと、そもそも郵便局に相当するUSPSの信頼度が低いとかありますからね(笑) 郵便局も、すごく並んだりしますしね。どこの事業者と組むのか、クレジットカードがちゃんと使えるか、モノがちゃんと届くかとか、そういうのも含めてのUXなので、そこまで含めて改善していかないといけないと思っています。
山田:だからカスタマーサポートのツールも日米で変えたりしています。アメリカはチャットで問い合わせができるようにしています。これはアメリカのカスタマーサポートチームから出てきた声を聞いた結果です。これで問い合わせの応答時間が早まったり、一部フィリピンへも外注してるんですが、そこもスムーズにできるようになったりして、やっぱり日本人だけでやってると限界があるんだろうなと思っています。アメリカはアメリカ人が運営していくべきだと思っていて、いま根気強くそういう人材を探しているところです。
アメリカでも0から1の段階は終わり、1を10にする段階
TC:アメリカでの350万ダウンロードという数字をどう見られていますか?
小泉:アメリカ市場でも離陸はしたなって感じてます。0を1にするところは終わって、いまは1から10に持っていくことをやっていかないとな、というフェーズですね。1にならなくて苦しんでるフェーズとかではないですね。
山田:まだ手数料は頂いてないんですけど、やろうと思えば黒字化できるくらいには立ち上がっています。
小泉:350万ダウンロードって、それなりにすごい数字だと思っています。「アメリカで出しました!」、「でも使われませんでした……」っていうのではなくて、ちゃんと使われているということですよね。使われている中で、これからどうやって伸ばすかという段階になったなと。
山田:最初にアプリを出した2年前からやってきたのは、普通の人に使ってもらうためにひたすら改善するということです。それで日本で普及したので、いまアメリカでも同じことができるんじゃないかなと思ってやっています。現状では実際そうなりつつあるという感じですね。
山田:ネット系に詳しいユーザーに聞いてもメルカリのことを知ってる人っていなんですけど、それでいいかなって思っています。普通の人に使ってもらって、いかにコンバージョンしていくかっていうことですよね。それをアメリカでも突き詰めていけば、普通の人が普通に使ってくれるサービスになるんじゃないかなって。
山田:実はこれってすごく新しいことだと思いますね。アメリカのサービスとかアプリって、アーリーアダプターが使って、そこから広がるということが多かったですよね。FacebookもGoogleも。まあ実際にはSnapchatのようにアーリーアダプターの人たちが気づかない間に普通の人に使われてるみたいなのが出てきてる気はしていますけどね。
小泉:スマホが出てきて、インターネットに接続している人が大衆化しているですよね。やっぱりラップトップとかPCを使ってた人って少数派だったんだなって思いますよね。日本ではPCサービスだとMAU2000万人限界説ってあるじゃないですか。でもLINEが一気に突き抜けて4500万です、となった。そこには大きな違いがありますよね。
山田:そういう意味では、まだまだ日本でもいけるんじゃないかと思います。今のところ、アメリカがイケそうなので、勝負のかけどきかなと思っていますが。
もしアメリカ市場で成功できたら?
TC:ちょっとお聞きするのが早すぎるのかもしれませんけど、アメリカ市場で立ち上がったら、次はアジアですか?
山田:アメリカが上手く行ったら、次はEUですね。もともとヨーロッパって、ユーズドみたいな世界観がありますよね。建物を再利用するとかもね。eBayなんかの数字を見ていても、ヨーロッパってすごくデカいんですよね。
小泉:フリーマーケットって先進国に合ってますよね。
山田:そう、だからまず先進国をやって、それからアジアとかインドとか中東とかに行き、最終的にはアフリカをやりたいなと思っています。
小泉:アメリカ市場で成功したら、イギリスとかヨーロッパには持って行きやすいと思っています。日本は日本で体力があればアジアのほうも見ていけると思っていて、グローバルな運営体制に持って行こうと思っています。
メルカリでモノ以外のCtoCに取り組む可能性は?
TC:CtoCを深堀りしていくということだと、モノの売買やリユースといったこと以外にもあり得ると思いますが、何かアイデアはありますか?
山田:まだ机上の空論なんですけど、ベビーシッターなんかは可能性があるかなと思っています。女性の社会進出という背景を考えると求められていくサービスかなと思いますしね。以前ベビーシッター仲介サービスで事件が起こったりしましたよね、だから、このままじゃいけないっていう感覚も強くあります。いいサービスが作れたらブレークするんじゃないかなという思いはありますね。すでにいくつかベビーシッターサービスとかアプリもありますが、間にBが入ってるモデルだったり、急に預けたいニーズに応えるモデルだったりするので、もうちょっとCtoCで定期的な依頼に使えるものがいいのかなと思っています。
小泉:CtoCって、モノとかヒトとかスキルとか、いろんな切り口があると思います。ヒトが持ってるアセットって、物理的なものだけじゃありませんよね。
山田:英語を教えるとかね。
小泉:時間があるとかヒマがあるっていうのもアセットですよね。そういうものが流通するのってインターネットぽいですよね。スマホにも合ってるなと思います。
TC:既存ビジネスのネットでの置き換えじゃなくて、ネットで初めて可能になるというものは?
山田:ぼく自身は革新性を求めてるわけでもないんですよね。メルカリも、ある意味では今のネットオークションって使いづらいよねっていうところから出てきてるので。どっちか言うと、ちゃんとみんなが使って根付いてくれることが大事かなと思っています。だからトリッキーなことをやろうというのは思わないですね。
山田:ただ、Uberもタクシーの置き換えだし、Airbnbもホテルの置き換えみたいな話ではあるんですけど、実際には違う面もある。Uberってサンフランシスコのタクシー全体の3倍ぐらいの売上があるらしいんですよね。それって完全に新しい需要を作ってますよね。航空業界へのLCCの参入によって、5000円とか6000円で飛行機に乗れるようになりましたよね。それによって、これまで飛行機に乗らなかったヒトたちが移動するようになって周辺に色んなビジネスが生まれた、というような例もあります。
山田:タクシーも5ドルで行けるなら乗るということがあると思うんです。それで需要を生んでるのかなって。CとCでマッチングの精度を上げて効率を上げていくことで新しい需要を生み出すってことが、シェアリングエコノミーの本質的なところかなと思っています。
山田:UberもAirbnbも危険じゃないのかとマイナス面が指摘されることもありますけど、その一方で、これまでなかった需要を生み出してるっていう側面を見逃してるんじゃないかなって思うんですね。よくある議論として「日本ってタクシーがあるんだからUber要らないよね」というのがあります。けど、Uberがタクシーの3倍使われてるっていうことを良く考えてみるべきだと思うんですよ。
小泉:値段が理由で、乗りたくても乗れてない人も多いですからね。
山田:音楽なんかがそうですけど、価格を含めたビジネスモデルが変わることによって、消費のされ方が変わる、ライフスタイルが変わるというのがありますよね。音楽だとライブ市場が盛り上がったり、定額制サービスがでてきたりしています。
山田:ベビーシッターも、今までもあったじゃんって話かもしれませんけど、でも、すごく格安で簡単に使えるようになれば違いますよね。ちょっとしたことなんだけど、それによって今までより女性が働きに出やすくなるかもしれないとかね。そういうことで社会がちょっとずつ変わって行くってことかなって思います。
山田:ぼくたちのような起業家やスタートアップ企業ができることって、結局サービスをひたすら作って、それをどうですかって世の中に出し、使ってもらって、これいいよねって広まっていくことです。それしかないと思っているんです。「こんな社会を作りたいです」っていうのが、そこまであるわけじゃないんですけど、社会を少しずつでも良く変えていくような、そういう提案してきたいなって思っています。
山田:そういう意味ではエンジニアはまだ全然足りていなくて、もっとほしいですね。すでに今の事業だけでも、サービスの成長スピードに会社全体の規模感が追いついてないんです。
小泉:そうですね、かなり絞って採用しているので、ボリュームとして全然足りない感じです。もっとたくさんグローバルに挑戦する人に応募してきてほしいですね。
TC:IPOについてはどう考えていますか?
山田:CtoCを異なる地域へ広げていくということと、モノ以外のジャンルで広げていくということをやっていきます。世界の津々浦々に普及させて行くことになれば、そのくらい大きくなったときには会社はパブリックになっているべきだとは思います。IPOは準備はしてますけど急いでるわけではないです。
日本から世界的メガベンチャーが出てくる条件
TC:「来てほしい」とおっしゃるのでズバリ聞きますが、例えばいま入社するエンジニアにストック・オプションは出してるのですか? いまジョインするエンジニアでも、もしIPOとなったときに数億円くらいのキャピタルゲインになったりするんですか?
山田:ストック・オプションは出していますよ。もちろん、そうじゃなくて年収ベースが高いほうが良いという人にはそうしていますし、そこにこだわりがあるわけじゃないんですけどね。メルカリはシリコンバレー的な会社で、ストックオプションは社員に幅広く付与しているほうだと思いますね。
山田:GoogleとかFacebookだと1000人とか1万人という単位で億万長者が出てくるわけですよね。Facebook長者とかTwitter長者とかによって不動産物件の値段が上がるみたいな話がありますよね。そういう人がまた個人で起業したり投資したりしてスタートアップエコシステムのサイクルが回っているっていうのがシリコンバレーですよね。まあ何千人というレベルで億万長者が生まれるためには、数十兆円の時価総額を作ることが必要なので、メルカリはそこまでは長い道のりかもしれませんが、それでも今メルカリにいるエンジニアとかでもミリオネアは何人も出ると思います。
山田:結局、なぜ今まで日本でそういう人たちが生まれてきていないのかという話ですよね。もちろん楽天とかヤフーのときには生まれているんですけど。ぼくが思うのは、それだけの企業価値を生み出せてないことの帰結だということです。2000年以降の創業で1000億円を超えるインターネット企業ってゲーム会社くらいしか出てきていませんよね。ぼくらみたいな起業家がもっと頑張らないといけない。数千億円とか兆を超える企業が作れたら、ミリオネアがたくさん生まれてきます。その人たちが会社を作ったり、エンジェル投資をしたりというサイクルが東京にも生まれてくるのかなって思います。
小泉:そうは言っても、ぼくらまだ2周目ですからね。シリコンバレーだと3周目、4周目やってる人たちがいますからね。産業としてはまだまだ浅い部分はあると思います。だけど、どんどん回っていくと思います。
TC:メガベンチャーは出てくると思いますか? なぜ出てこないのでしょう?
小泉:うーん、試行回数もまだ少ないから、確率論的にメガベンチャーが生まれてないというところもあるでしょうし、大企業が優秀な人材を抱えていて出てこないとかもあるでしょうね。
山田:でもそういうのも変わってきてますけどね。East Venturesのアソシエイトなんかの若者をみてると超エリートで優秀な人材が集まってきてるし、そういう人がベンチャーに目を向け始めてる。
TC:確かに大手商社とか大手メーカー、外資金融みたいな「きれいな会社」の人が辞めて起業したと聞くこととか、ハイパーな学歴や職歴の人が会社を辞めて1人でアプリを作ってますといってTechCrunchに持ってきていただく、みたいなのは増えてる感じはあります。
山田:だから結局それもこれも歴史の短さが影響してるのかなと思いますね。シリコンバレーって、ヒューレット・パッカードとかフェアチャイルドみたいな半導体メガベンチャーとかから始まって、何十年という歴史があるのに対して、東京は2000年にようやくナスダックジャパンやマザーズが出来て、ようやく15年ですからね。そう考えると全然悪くないキャッチアップじゃないかなと思います。これからもっとメガベンチャーが価値を生み出して、そこでミリオネアが生まれて、それを見たエンジニアやビジネスパーソンが、自分もやりたいみたいな感じでベンチャー界に入ってきてって、そういうサイクルが大きくなっていくっていう風になるのかなと思います。
山田:スタートアップ業界への人材の入って来かたも変わってきてます。ウノウを創業して経営していたときには日立とかIBMという大企業から人が来ていましたが、今は楽天とかグリー、DeNAの前線でやっていた人が来て即戦力になるというケースが多い。
山田:今のメルカリだと売上もありますしね。何か足りないってものはなくて、時間がほしいという感じです。ぼく自身もグローバル企業を作っていくという面で成長していけるのかというのがあります。試行錯誤しながら、ああかな、こうかなってやってるところです。
小泉:アメリカ進出の野茂の例えでいえば、ぼくらは大リーグで投げ始めているというところですからね。先駆者として切り開いていければ、その後にアメリカに行く起業家やスタートアップが出てくるんでしょうね。
山田:感覚としては、本当にもうちょっとでイケそうという感じ。少なくともアメリカで門前払いではなかったと(笑)
もしこの先に転ぶとしたら、どういう理由?
TC:もしこの先にメルカリが失敗するとしたら、どういう理由になると思いますか?
山田:うーん、アメリカで良いサービスを作れないとか、組織がグローバルになっていく中で、経営者も含めてぼくらが対応できなくて内部崩壊するとかでしょうか。
小泉:競合とか外部要因でやられるってことはないでしょうね。内部ですよね。ぼくら自身も成長していかないといけないと思ってますし。
山田:みんな必死で英語とかやってますしね(笑)
小泉:カスタマーサポートとかも、しっかりやってユーザーに応えていくっていうのも大事ですよね。トラブルが増えてユーザーの信頼を失うことがあるとしたら、そういうのはどっちかって言うと内部の問題ですしね。他社にやれるというより、自爆するみたいな?
小泉:ミクシィを経営していた頃もFacebookにやられたっていうよりも自爆したみたいな感覚もあるんですよね。過度に競合を意識しすぎて精神的に引っ張られちゃうってことは、やっぱりあるんですよね。本当はユーザーは競合サービスを気にしていないことも多いので、何が大事かっていうのを見ていないといけません。冷静に考えれば、Facebookに求められるものとmixiに求められるものって違ったわけですし、やれることはあったなと思います。
小泉:ぼくたち、あんまり競合サービスって見てないんです。他社がどうだからこうするみたいなのことはなくて、もっとシンプルに「ユーザーにとって使いやすいものって何でしたっけ?」というアプローチでやっていて、そういう風にやっている限りは大きくは外さないかなと考えています。
【追記】メルカリの山田進太郎氏は、11月のTechCrunch Tokyo 2015に登壇して頂く予定だ。北米進出の進捗を含めた話をざっくばらんに語って頂こうと思っている。超早割チケットは7月末まで販売中だ。
【追記2】以下の動画は2015年3月に移転したばかりの六本木ヒルズのメルカリオフィスの内部を案内してもらったもの。雑居ビルの一室だった移転前のオフィスに比べてモダンであること、人員増を見越して床が余っていたのが印象的だ。