暇つぶしプロジェクトがスター・ウォーズになるまで:littleBits成長の歴史

多くの魅力的なスタートアップたちと同様に、littleBitsもその歩みはサイドプロジェクトとして始められた――何の期待もなく、ベンチャーキャピタルへ早々と駆け込むということもなかった。暇つぶしのためのちょっとした試行錯誤のようなものだったのだ。MITを卒業したばかりのAyah Bdeirは、会社の萌芽が見え始めた当時は、ニューヨーク市の建築デザイン会社I-Beamのフェローだった。

 Bdeirはマンハッタンの広々とした貸オフィスの一角に腰をおろしながら「それは決して製品化や会社化を狙ったものではありませんでした。私がやっていたちょっとしたプロジェクトに過ぎなかったのです。私はそれを、2009年のMaker Fairに持ち込みました」と説明した。「小さなプースで私1人だけで、やって来た友人たちに見せていたのです。そうしたらあっというまに人だかりができて、子供たちが遊ぼうと行列を作り始めたんですよ。私は、子供たちに刺激を与え、学ぶことに興奮する力を与えることのできる本当のチャンスに気が付いたのです」。

ニューヨークのチェルシー地区にあるLittleBitsのオフィスには活気が溢れている。同社はその急速に成長するビジネスに対処するために2014年にこの場所に移動してきた。しかしそれからおよそ3年を経て、既にオフィスのキャパシティは限界に達しつつある。ある意味、良い時期に良い場所で始めることができたのだ、なにしろlittleBitsは、KickstarterとIndiegogoがSTEM玩具で溢れ、主要な玩具メーカーたちがことごとく子供たちにプログラムを教えようとし始める数年前に、ドアに足を滑り込ませることができていたのだから。

初めは大人向け

しかしスタートアップの成功は良いタイミングだけで決められるわけではない。Bdeirは、同社を設立する丸3年前の2011年には、同社のモジュラービルディングブロックをあれこれと工夫し始めた。最も初期の段階では、同社の製品の中核をなす部品である「bits」たちは、プロトタイプ用途に向けてデザインされていた。ハードウェアスタートアップをゼロから立ち上げることが、徐々に容易になりつつあるこの時代の中で、Bdeir自身は、発明家たちのビジョンを実現することを助ける、強力なツールを手がけているのだと考えていた。

「デザイナーたちはこれまでテーブルと椅子を作ってきましたが、それがDVDプレイヤーのデザインとなり、そしてコーヒーメーカーやスマート家電をデザインするようになっているのです」とCEOは説明する。「そうした人たちは電子回路のプロトタイピングを行なう必要があります。元々はlittleBitsはプロトタイピングのためのツールだったのです。子供たちのためのものではありませんでした」。

おそらくそれは市場への回り道だが――しかし重要な違いなのだ。こうしてlittleBitsは大人のデザイナーのためのツールとして始まった。それが意味することは、この製品は子供向けに企画を練り上げる委員会方式によってデザインされたわけではないということだ。Bdeirがもともと想定していた顧客を構成するデザイナーたちは、電気技術者やプロのプログラマーではなかったことは事実だが、生み出されたコア製品は、多くの子供用の製品に見られるような、簡略化されたものではなかったのである。

すべての年齢へ

しかし予想していなかった対象層の変化にも関わらず、littleBitsのコア製品はその最初のコンセプトからほとんど変化していない。過去6年の間に、スタートアップは提供する部品を拡大し、コンテンツ会社や教育プログラムとの多くのパートナーシップを行って来た。しかしBdeirがその卒業後の多忙でなかった期間に生み出した部品群は、今でもlittleBitsの中核をなしている。

「これはEasy-Bake Oven(子供用のクッキーオーブン)ではありません」と、彼女は微笑みながら説明した。「それは子供だましのものではありませんし、過度に単純化されてもいないのです。使いやすくされた実際のエンジニアリングそのものなのです。8歳の子供でも、あるいは実際のエンジニアでも、bitsとのやり取りは同じです。変えたのはマーケティングでした。変えたのは私たちがそれについて話す方法でした。つまり、これを使って次の発明をプロトタイプできますと言う代わりに、格好いいものや、ロボットを作れるよと言うことにしたのです」。

同社の成功を支えたのが、オープン性の取り込みだ。製品そのもののオープン性はもちろん、それが対象としている顧客に対してもオープン性を担保している。前者について言えば、同社は可能な場所では互換性を提供している。これが意味するのは、LEGOのような一般的なビルディングブロック向けのアダプターを販売したり、Minecraftプレーヤーを対象とした拡張キットを作成したり、そのキットをIFFFTやScratchのようなプロトコルで制御できるようにすることが可能だ、ということだ。

希望のレイ

参加者の巻き込みに関しては、Bdeirは彼女が会社の「隠れたミッション」と呼ぶものを引用した。それはlittleBitsを通して、女の子たちをエンジニアリングとプログラミングの世界へと連れ出すというものだ。もちろん、同社はこれまでにそのミッションを否定したことはないが、旧来は若い男の子たちに向けられていたそのカテゴリーに対して、特別に女の子たちを対象にしたキットを作り出したこともない。その代わりに、その製品は特にジェンダー中立となるようにデザインされている。明るい色や手書きの文字は、STEM教育への足がかりに興味のある誰にでも、アピールするようにデザインされているのだ。

そのミッションは、littleBitsの最新の製品――小さな会社にとって変革の可能性を秘めたあるパートナーシップにまで及んでいる。2016年に、同社はディズニーのアクセラレータープログラムに参加するチャンスを与えられた。例えばこれまでこのプログラムは、子供に焦点を当てたスタートアップのSpheroを、電子玩具カテゴリーのフォースとして確立する役を果たしたりしている。2015年には、スマートフォンで制御される単なる目新しい製品を、BB-8のリリースによって、映画と提携した最高にホットな商品へと変身させたのだ。

「私は3人の同僚を連れて、この夏ロスアンジェルスで過ごしました」とBdeirは言う。「ディズニーとのミーティングを通して、さまざまな部門、クリエイター、キャラクターアーティストたちと一緒に、私たちが一緒にできることを見つけようと、多くの時間を費やしました。私たちが最高の組み合わせだと思ったのが、スター・ウォーズでした」。

LittleBits自身もロボットを所有していたが、結局このニューヨークの会社は、世間が親しみを感じている方を選んだのだ。littleBits Droid Inventor Kitは、12月公開の「スター・ウォーズ最後のジェダイ」に先行して、フォースフライデー(9月1日金曜日)に各社から一斉にリリースされた様々なグッズの中の1つである。その中核にある同社のお馴染みのシステム(30個の部品から構成される)を使って、若いクリエイターたちは、不変の人気を誇る歩行ドロイドのR2-D2を、自分で組み立てることができる(「ドロイド」はスター・ウォーズの中でロボットの代わりに用いられる呼称)。

「スター・ウォーズ製品に着手したとき、私たちは単なるロボットではなく、ドロイドといういうアイデアの扉を本当に開いたのです」とBdeirは言う。「外装シェルは透明ですから、内部を見ることができます。そして、それをカスタマイズして、靴下を並べ替えるドロイドや、兄弟を守るドロイドや、食事を運ぶドロイドといった異なる機能を与えることが可能なのです」。

Bdeirによれば、新しいスター・ウォーズは、littleBitsに「隠されたミッション」を現実にする力を与えたということだ。「私たちは(女主人公の)レイをメンターとして使います。彼女は不要なものを取り除き、問題を解決し、様々な工夫を重ねる人(ティンカラー)です。彼女があなたの旅のメンターなのです」。

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(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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