“Google And The World Brain”[仮訳:Googleと世界の頭脳]は、Googleが世界中の本をスキャンするという、現在進行中の訴訟を引き起こした計画に関する最新ドキュメンタリーだ。この身震いするような映画は、無数の著作権作品を取り込み、訴訟され、敗訴し、しかしその過程で書籍に関する独占的地位を得ようとしている会社としてGoogleを描いている。これは恐怖かつ有益であり、Googleを邪悪とする偏った描写を認識できる人にとっては一見の価値がある作品だ。
同映画は、Googleが今日もAuthor’s Guild(作家組合)と法廷闘争を続ける中、広く公開され始めている。同組合はGoogleによる著作権書籍のスキャンと複製がもたらした損害として30億ドルを要求している。Googleは法廷に対して集団訴訟の棄却を求めている。
“Google And The World Brain” は今年のサンダンス映画祭で先行上映され、私もそこで見たが、さらに多くの人々が昨日バンクーバーのDOXA映画祭でこのドキュメンタリーを目にした。開始直後からBen Lewis監督の意見は明快だ。Google Booksはデータ支配に向けた隠湿な策略である。Googleは、誰もが利用できる図書館を作りたかっただけではない。あらゆる知識を使ってその検索と人工知能プロジェクトを改善したかったのだ。
映画は不吉な低音とハイピッチのドローンに始まり、未来学者でSF作家のH.G.ウェルズが『世界の頭脳』を「全人類のための完全な地球規模の記憶」と説明する歴史的な一幕へと導かれる。しかしウェルズは、様々な利点はあるもののの、世界の頭脳が政府に取って代り全員を監視するほど強力になることへの警告も発している。
Googleがハーバードを始めとする各大学図書館に接触し、その蔵書を無料でデジタル化させてくれるよう依頼することは一見無害に思える。彼らはこれを、アレキサンドリア図書館の焼失やハリケーン・カタリナで洪水にあったテュレーン大学図書館のような惨事を避ける手段として売り込む。世界有数の図書館の面々が彼らを無限大の価値と位置づける。図書館長らはインタビューに登場し知的興奮に目がくらんでGoogleの提案を慌てて受け入れてる。たちまち1000万冊の蔵書がGoogleの秘密のスキャニングマシンに吸い込まれていく。
Googleがこれらのスキャン結果の一部をネットで公開し始めるた時、反発が始まった。600万冊の書籍には著作権があり、Googleはスキャンや複製の許諾を得ていなかった。2005年、作家組合と米国出版協会は、Googleが事実上本を盗んでいると主張して訴訟した。図書館も検索巨人に反抗し始めた。
インターネット研究者のJaron Lanierは、「本は単なる特別長いツイートではない」と説明し、他の人々もGoogleは情報の民主化のためではなく、自身の利益のために本を貯め込んでいるのではという疑問を示し始めた。これほど伏線が露骨でない方が、主題の暴露はもっとショッキングになり、おそらく評価も高くなっていただろう。
3年後、原告団は1.25億ドルでGoogleと和解したが、350ページにわたる裁判所文書には、Googleは同社がデジタル化した絶版書籍の独占販売権を持つ ― たとえ著作権のある物であっても ― といういかがわしい条項が含まれていた。映画はこれに「知識利用の独占」というレッテルを貼った。そしてこう問いかける「万人のための図書館を自由に課金できる一企業の手に渡したいと思いますか?」
ドキュメンタリーのクライマックスでは、ニューヨーク州判事、Denny Chinによる和解を承認するか否かの決定に焦点が当てられる。あらゆる知識の運命に関する一人の人間の決断として位置づけることによって、この結果をエキサイティングに見せている監督の手法は見事だ。
[ネタバレ注意。2011年の新聞を読まなかった人へ]:勝利のマーチが鳴り響く中、Chin判事は和解案を却下する決定を下し、Googleの目録む「独占」は阻止され、インタビューに答えた評論家全員が歓喜した。
しかし、Google And The World Brainは悲惨な注記と共に幕を閉じる。Googleはスキャンした著作権物を複製あるいは販売できなくても、Google検索と同社の人工知能プロジェクトはすでに全知識を吸い込んでいる。Googleのある技術者が、著作家のNicholas Carrにこう言った。「われわれがあの厖大な本をスキャンしているのは人間が読むためではない。われわれのAIが読むためだ」。
映画は少々扇情的で、英語の本をスキャンすることは、古典が本来書かれていた古典的ヨーロッパ言語に対する冒涜ではないかを探るなど、いくつか寄り道している。しかし、情報を所有するのは誰か、という興味深い疑問とその答を巡る長い戦いを、極めて刺激的な作品の中に凝縮している。これを見た後は、Googleに対する恐怖が増しているかもしれない。中でも高圧的で恐怖を煽る話を眉につばをつけて聞かない人は特に。しかし少なくとも、Googleは将来今以上に大きく人類を変える運命にある、ということを再確認してあなたは席を立つだろう。
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(翻訳:Nob Takahashi)