360度VRコンテンツの制作編集サービス「スペースリー」を運営するスペースリーは4月9日、Draper Nexus 、Archetype Ventures、DBJキャピタル、事業会社を引受先とする第三者割当増資により、総額約1億円を調達したことを明らかにした。
スペースリーが手がけているのは、VRコンテンツの制作編集をシンプルにするクラウドサービスだ。ユーザーは市販の360°カメラで撮影した画像をクラウド上にアップロード。キャプションの追加などちょっとした編集を加えるだけで、気軽にVRコンテンツを制作できる。
特徴はブラウザベースに特化していて、作るのも見るのもデバイスを問わないこと。PCやタブレット、スマホから同じように制作・閲覧することができ、サイトに埋め込んだりURLを共有したりと使い勝手がいいのがウリだ。
ビジネスモデルは月額課金制のいわゆるSaaS型。保存できる画像の上限数や機能などに応じて3つのプラン(無料、3980円のBASICプラン、12980円のPROプラン)がある。スペースリー代表取締役社長の森田博和氏によるとPROプランの利用者が多いそうだ。
2016年11月のリリース以降、不動産業界を中心に650以上の事業者が活用。ユーザーの多くは「問い合わ数や成約率の向上」や「業務効率化」の目的でスペースリーを導入している。
「不動産賃貸の場合では(サイト上にコンテンツを埋め込んでおくことで)オンラインからの問い合わせ率が2倍になったという事例や、成約率が4割から6割に上がった事例もでてきている。また内見が減ることで業務効率化に繋がるため、それを見込んで導入に至るケースも多い」(森田氏)
主な利用シーンはWebサイトに埋め込むほか、オフラインでの接客時など。スペースリーでは不動産内見などの営業や、イベントでのプロモーション時に使える小型のVRグラス「カセット」も提供している。
蓄積した空間データを解析して、デジタルアセットに
これまでスペースリーでは不動産物件管理の基幹システムや、ハウスメーカーなどに利用されている3D CADシステムとの連携を推進。合わせて東京都防災事業への採択、旅行業界への導入など、不動産以外への展開も進めてきた。
森田氏によると、この「他システムとの連携」がユーザーの使い勝手にも大きく影響するらしく、今後の強化ポイントのひとつだという。
「ユーザーの反応も含めて実感したのが『業務上でVRが独立して使われるケースは少ない』ということ。あくまで既存の業務の一部分や、成約にいたるまでのひとつの導線として使われていることがほとんどだ。それを踏まえると、普段使っているシステムと連携していた方が使い勝手がいい。ここをどれだけ進められるかが事業上のポイントになる」(森田氏)
不動産の場合であれば、上述した物件管理の基幹システムや3D CADシステムとの連携がまさにその一例だ。API連携の形で、すでに顧客が使っているサービスとシームレスに繋がる世界観を目指していくという。
合わせてスペースリーでは蓄積されてきた「データの活用」にも取り組む。資金調達を機にデータ分析や画像解析など、VR分野におけるAIの実用化を推進する施設としてSpacely Lab(スペースリーラボ)を設立した。
「約1年半ほどサービスを提供してきた中で、かなりのデータが貯まってきた。特に重要なのがコンテンツを閲覧しているユーザーの行動データだ。これを解析することで『よく見られているコンテンツの改善案を提示』したり、『適切なタイミングでメッセージをレコメンド』したりといった、効果的なアクションを提案できるようになる」(森田氏)
もともと森田氏は航空宇宙工学を学んだ後、経済産業省に入省。アメリカでMBAを取得して起業したというユニークな経歴の持ち主。現代アートのオンラインレンタルサービス「clubFm」に次いで立ち上げたのが、現在の主力サービスであるスペースリーだ(旧 3D Stylee)。
発想の原点にあるのは「空間をアーカイブすることで、それ自体がデジタルアセットになりえる」ということ。今後は蓄積された空間データを活かしながら「より多くの利用事業者が効果を実感できる360度VRのサービス」を目指していく。