5月に発表されたジェイアイエヌのメガネ型のウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズミーム)」。その機能や会見の様子はすでに当日の記事で紹介した。話を聞いてから少し時間が経過してしまったが、ここでは当日の展示会場で東北大学 加齢医学研究所の川島隆太教授に聞いた話を紹介したい。川島氏はジェイアイエヌに打診されて、4年前からJINS MEMEの開発に協力してきた。
僕はGoogle GlassやOculus Riftを初めて使ったときにやっぱり感動したし(普段メガネをつけていることもあって、正直それより重いデバイスの常時利用には慣れがな、とは必要だとは思ったけど)、もちろん川島氏の考え方だけがすべてではないと思う。ただ川島氏の声は、ウェアラブルデバイスやIoTといったテーマに注目が集まっている今、本当に必要とされ、利用されるデバイスがどんなモノなのかを考える1つのヒントになるのではないだろうか。
–最大のポイントは3点の眼電位のセンサーなのでしょうか。(眼電位は、角膜と網膜の電位差のこと。眼電位を計測することで、目の動きをモニターすることができる。これまで4点の測定が必要なセンサーば一般的だったが、JINS MEMEでは3点のセンサーを開発することで、通常の「メガネ」の形状にセンサーを収めることができた。詳細は過去記事を参考にして欲しい)
今までは眼電位センサーが4点あり、電圧の変化を計測しやすかったんです。ですが、JINS MEMEではあくまで「普通のメガネ」にどうセンサーを入れ込むかという点に技術屋は燃えました。もちろん電池もトランスミッターも一次解析装置もこの(JINS MEMEの)中に入れています。
半導体はオリジナルで設計しています。当然国内のものです。一番難しかったのは電池を小さくすることでした。電池(を取り出して)の交換は考えていません。非接触で充電できるようにします。データの吸い出しはUSBで実現しています。
まだまだ日本の技術ならいろいろ入れられると思うんです。(36グラムのJINS MEMEを持って)これでもまだまだ不満です(笑)
—2015年の発売ということですが、製品としてすでに完成形していませんか。
BtoBtoCで提供するのであれば、家電と同じで「誰でも使える」というものでないといけません。BtoBであればこのままでもいいでしょう。タクシー運転手やドライバーに使ってもらう、という姿はもう想像できます。ですが、もっともっと安定性を求めないといけません。
—あえて改善する点を挙げるとすればどこでしょうか。
もっとバッテリーが入ればいいですよね。ここ(フレームの細い部分を指して)に入ればなおいい。日本の技術に期待したいですよね。
–ジェイアイエヌから川島さんにメガネの製作に関する打診があったのは4年前ということでしたが、当時から同じような姿だったのでしょうか。
僕は脳のセンシングに関する研究をずっとやっていて、ウェアラブル領域には満足していたんですよ。ですがJINSさんがどうしてもやりたいと言っていて、だったらメガネにデバイスを入れ込もうとなりました。
最初2年はメガネで何ができるかをずっと考えていました。アイデアに費やしました。最初は(ジェイアイエヌから)「頭をよくするメガネ」というテーマを言われたのですが、陳腐なアイデアしか出なかったんですよ。そこで発想転換して、「メガネじゃなきゃだめなものはなにか」と考えるようになりました。
—会見ではGoogle Glassのカメラのように、自然に身に付けるモノではなく、あえてつけるような装置は利用しないのではないか、と語っていました。
国の方針でビッグデータ解析を医療分野にも持っていくという流れがあり、国費も投入されていいます。そこで何か人に身に付けさせようと皆さん考えるんですが、うまくいかないと思います。
(川島氏を取り囲んでいた記者に向かって)皆さんGoogle Glassをかけますか? あれは本当に好きな人しか掛けないですよ。あれをみんながかける世界が来ると信じていたらあの会社(Google)は潰れる、くらい思っていいます。
だからこそ、普段必ず使う物の中にセンサーが入っていて、自然な生活の中でセンシング情報がたまっていって、その情報を健康なり何なりに使えるということが重要です。そういう物は今までありませんでした。
その点ではメガネは日本人には合っている素材です。これをBtoBtoCに展開できれば、面白い世界が待っていると思います。1年先に販売して広がると、情報科学分野の先生たちが一気に業界に入ってきていろんなこと——情報を我々の生活からキャッチアップしていくと——少し今とは違った世界になるでしょうね。
あとは、頭の加速度センサーのほうが、商売の可能性があると思っています。スポーツをやっている人って頭の動きをすごく気にするんです。一流のアスリートは頭が動かない(ブレない)んですよ。ではそれを今までどう測っていたかというと、モーションキャプチャーで数千万円かけないといけなかったんです。
JINS MEMEが出ると、数万円で自分の頭の動き、パフォーマンスなどを知ることができます。2020年のオリンピック市場も狙っていたりするんですよ。
–通信について教えて下さい。また会見では将来は老人の見守りなどに利用したいという話もありました。
今は汎用性が高いのでBluetoothを採用しています。カーナビとも直結しますし。将来的には、同意した人の情報をBluetoothでスマートフォンに飛ばして、どこかに持っていくということもできるでしょう。ただしそこはJINSでやるのではなく、公的機関や医療サービスを提供する事業者がやるのかもしれませんが。
今、本気で考えているのは認知症の対策です。認知症の方は歩行がすごくぶれるんです。では認知症のどれくらい前からそういう症状が出るのかが分かれば、その疑いが出たときにすぐに病院で見てもらって治療する、もしかしたら予防も実現するかもしれません。
—開発パートナーについて教えて下さい。
知っていますが、名前を挙げていいか分からないんでJINSさんに聞いて下さい(笑)
—例えばJINS MEMEに震える、光るといった機能を入れることは考えていますか。
フィードバックをメガネでやるのかという話です。スマートフォンでいいのではないかと考えています。重量も増やしたくありません。
Google Glassみたいにここ(目の前)にディスプレイがあるというのは、生活に支障を与えます。不自然なことはしたくない。あくまで自然の中でデータを計測して、自然に(情報や反応を)返すことが大事だと思っています。
–価格はいくらくらいでしょうか。
そんなに馬鹿高くはならない、お小遣いで買える額にできないかとは考えています。
—Googleは、コンタクトレンズにカメラを埋め込むという試みにも挑戦するようです。
それができたら面白いですね。ただコンタクトレンズ上で電子部品を走らせるのは少し怖いところがあります。角膜は再生しません。
今お話ししながら考えたのは、センシングのためのデバイスではでなくて、コンタクトレンズにコイルか何かを入れて、アンプ機能を持たせることはありえるかもしれません。ですが、それは「あえてつける」になってしまいますよね。そうなるとつけませんよ。Google Glassだって、買ったって本当に好きな人以外は3日で飽きちゃいますよ。