Bolt(ボルト)は、Uber(ウーバー)などのライバルで、オンデマンドのライドシェアリングやスクーターといった交通サービスを欧州とアフリカの150都市で提供している。同社は5月26日、困難な市場環境に直面する中、新たな資金調達について発表した。新型コロナウイルス(COVID-19)により、人々はその場にとどまり、他人と接触するような交通手段を避けている。
エストニアを本拠とする同社は、コンバーチブルノート(先に資金を受け取り、後ほど算出した時価総額に見合った株を投資元に渡す資金調達方法 、会計上では借金・負債となる)で1億ユーロ(約120億円)を調達したことを発表した。現在17億ユーロ(約2000億円)のバリュエーションで評価されたことも認めた。
投資家はNaya Capital Management(ナヤキャピタルマネジメント)の1社だ。同社は、Boltが2019年7月に6700万ドル(約72億円)を調達したシリーズCでも主要な出資者だった。
新型コロナウイルスのパンデミックの中で投資会社のポートフォリオ企業は事業上の大損害に直面している。その中でも、将来が約束されていたり、すでに多額の資金を投入していたりする会社を支援する1つの方法が資金注入だ。特に、非常に資本集約的なビジネスモデルのスタートアップはかなり難しい状況に追い込まれている。
この調達の前の4月にBoltのランウェイ(継続可能が業務遂行期間)は尽きた。同社の債務引き受け先として、テック産業を強く支援しているエストニア政府とも協議中であるとの声も聞こえてくる。
Boltは今回の資金調達がすべてコンバーチブルノート、つまり負債のかたちで進められ、現時点で追加のエクイティ(株式)の発行はないと認めた。「現時点で語るべきプランはない」と広報担当は説明した。クロージングまでに時間がかかることを考えると、さらなるエクイティラウンドについては今回の調達に関係なく取り組んでいるようだ。
Boltによると、世界35カ国以上で3000万人のユーザーを抱えているという。事業の最悪期は2カ月前であり、その後徐々に回復している。広報担当によると、同社は昨年末に損益分岐点に近づき、「主にフードデリバリーとマイクロモビリティ」のためのエクイティラウンドを準備しているとのことだ。
現在は状況が多少異なり、ライドシェアと業績回復の施策により、財務的ニーズが増えている
ただ全体として、同社のオンデマンド交通サービスモデルの資金調達はまだ比較的小規模だ。Boltはこれまで負債と株式の両方で3億ユーロ(約350億円)以上を調達している。投資家には、多くの日本のリミテッドパートナーが拠出するヘルシンキの新しいファンドで、Boltの本拠地であるエストニア・タリンなど、北欧のスタートアップに投資するNordic Ninjaや、Creandum、G Squared、Invenfin(投資持株会社Remgroが支援する南アフリカのファンド)、Superangel(創設当初からBoltに投資してきたエストニアのファンド)、滴滴(および関連がある先としてソフトバンクとUber)、Daimler、Korelya Capital、Spring Capitalが名を連ねる。
以前はTaxify(タクシファイ)として知られていたBoltは、個人の乗り物を超えて電動スクーターやフードデリバリーなどの他の分野にも拡大したため、昨年ブランドを変更した。今後数カ月以内に、今回の資金を使用して3つの事業分野すべてを新しい製品とともに拡大する予定だ。その中には、ビジネス向け市内同日配送サービス「Business Delivery」や、運転席と乗客席の間にプラスチックシートを設けた車によるライドシェア「Bolt Protect」が含まれる。
Boltの上場企業ライバルのUber(ウーバー)は、パンデミックがビジネスにとってどれほど痛みを伴うか明らかにした。かつて未公開のスタートアップとして数十億ドル(数千億円)を調達した同社は、ここ数週間で約7000人の従業員を解雇した。Uberのために人や食品などの輸送を請け負っている人々への影響については現状ほとんどわからないが、次の四半期決算(期間中パンデミックの影響を全て受けている)には、ビジネス全体の低調がはっきりと表れるはずだ。
Boltによると、これまでUberや他社のように人員を削減する必要はなかったという。従業員1500人を全く解雇していない。ただ、役員会メンバーの給料を20〜30%カットした。広報担当は、いま徐々に給料を新型コロナ前の水準に戻しつつある、と話した。財務の詳細には触れなかったが、ビジネスは普通とは言えないと認めた。
「新型コロナ危機が一時的に我々の移動の仕方を変えたが、車の所有が減少したりより環境に優しい交通手段シフトしたりといった長期的な傾向は今後も続く」とCEOで共同創業者のMarkus Villig(マークス・ビリグ)氏は声明で述べた。
「典型的なシリコンバレー崇拝を過去のものとし、我々の長期的視点を支持する投資家に支えらることをありがたく感じている。当社の効率性や局在化がオンデマンド業界において根本的なアドバンテージであることをこれまで以上に確信している。こうしたアドバンテージにより、新型コロナ後も引き続き安価な移動手段を多くの顧客に提供し、パートナーに良い内容の決算を示すことができる」。
現在のような状況では資金調達がはるかに複雑になった、と多くの人が口にする。創業者や投資家が直接顔を合わせたり、投資・調達機会を評価したりすることができなくなっただけでなく、マーケット需要や経済全体が今後どうなるか見通せなくなり、これまでになく投資がリスクを伴うものになっている。
目下、スタートアップはそれぞれだ。新型コロナの影響で事業を棚上げしているスタートアップもあれば、新型コロナにもかかわらずこれまで通り活発に事業を展開しているスタートアップもある。また、不調に陥らないよう投資家がさらに資金を注ぎたいと思うような、十分な体力を持つ(あるいはすでにかなりの資金を調達している)スタートアップもある。この3つのカテゴリーに収まらない、より一般的なのがBoltのように資金を確保するスタートアップだ。
「成長中のBoltにこのステージで投資できる機会を持つことができるのは喜ばしい」とNaya Capital ManagementのマネジングパートナーでCIO、創業者であるMasroor Siddiqui(マスルール・シッディーキー)氏は声明で述べた。「マークスのリーダーシップのもと、Boltは世界のモビリティ分野で最も競争力があり、かつイノベーティブなプレイヤーの1つとしての地位を確立した。消費者の地元交通インフラの活用方法の変化にBoltが貢献していると確信している。そして、同社が引き続き戦略的ビジョンを実行することを期待している」
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(翻訳:Mizoguchi)