ビルなどの建物を完全に3Dプリントだけで作る、という話がにぎわっているが、その種の野望はいつまでも地上だけにとどまってはいない。Phys.orgの記事によると、欧州宇宙機関(European Space Agency, ESA)とそのパートナーであるロンドンの設計事務所 Foster + Partnersが、生命維持能力のある月面基地を3Dプリントで作れないか、という研究に着手した。
もちろん、月塵だけでは建築素材にならないだろうから、研究者たちはその月面基地の耐久性を高める方法を模索している。月塵の代わりに実験では、酸化マグネシウムとその結合安定剤として塩を用いる。また月面上へ直接、押し出し成型を行う実験は、真空の中で行っている。
F+Pによる初期の概念設計では、荷重耐性の高い大きなドームを作り、その中をセル状(細胞状)の構造にすることによって、住民を環境中の放射能と流星塵から保護する。探究すべき実用上の問題が、まだすべて分かっているわけではないが、プリント工程そのものは、少なくとも地球上ではうまくいくようだ。
イギリスで3DプリンタのメーカーMonoliteを創業したEnrico Diniは、“弊社の現在のプリンタは押出能力が毎時2メートル、次世代機は毎時3.5メートルになる”、と言っている。彼によると、建物全体が完成するまでに要する時間は約1週間だ。月面上ではどうなるか、それはまだ未知数だが。
とはいえ、月そのものを使って月面基地を作るという考えは、一見途方もないようだが、同様のアイデアは実は前からある。たとえば80〜90年代に構想されたMars Direct計画は、同様の考え方に基づいて長期的な火星探検のための燃料を管理しようとする。そのやり方は、まず無人宇宙船を火星へ送り、船内の原子炉を使って火星の大気中の水素を‘加工’し、メタンと酸素を作る。のちに打ち上げる有人宇宙船が、帰還用の燃料としてそれを使う。宇宙旅行にとっては重量が最大の制約要因だから、居住環境を着地点にある素材だけで作れるなら、かなり楽に、ハワイ諸島やアラスカなみの永続的な飛び地を、はるか遠くの宇宙空間に作れるだろう。