気候テクノロジーへのVC投資はVC全体の5倍の速さで成長、PwC最新レポート

気候テクノロジーへのVCおよび企業の投資は、2013年から2019年にかけてVC全体を上回るペースで成長しており、アーリーステージの資本は600億ドル(約6兆2700億円)に上ることが主要な最新レポートで明らかになった。

PwCによる最新の調査「The State of Climate Tech 2020」では、VC市場全体から見ると気候テクノロジー分野へのVC投資はまだ黎明期であるが(2019年の総投資額の約6%)、急速に成長しており、2013年の年間4億1800万ドル(約440億円)から2019年には163億ドル(約1兆7200億円)に増加したことが示されている。同レポートによると、これは同時期のAIへのVC投資の成長率の約3倍で、VCの平均成長率の5倍になるという。

その理由に市場の経済性が関係していることは想像に難くない。関連する技術の証明とその規模の拡大において資本効率が急速に向上しており、カーボンニュートラル、さらにはカーボンネガティブのソリューションでさえ、炭素を排出するソリューションより低コストになっている。

このベンチャー資金600億ドルの半分近くを占める290億ドル(約3兆円)がアメリカとカナダの気候テクノロジー系スタートアップに流れており、中国は200億ドル(約2兆1100億円)で2位となっている。欧州市場は70億ドル(約7400億円)を集めた。米国と中国向けの投資の大半は、モビリティと輸送ソリューションに向けられている。

サンフランシスコベイエリアの気候テクノロジー系スタートアップへの投資額は117億ドル(約1兆2300億円)で、直近のライバルである上海の75億ドル(約7900億円)より56%多い。欧州は再生可能エネルギー発電(主に太陽電池)と蓄電池により多くの投資が行われている。

PwC UKでイノベーション&サステナビリティのグローバルリーダーを務めるCeline Herweijer(セリーヌ・ヘルヴェイェール)氏は声明で、「この分析により、気候危機に対処する革新的な技術やビジネスモデルを支援し拡大させる事業機会と、そこに存在する埋めるべきギャップについて、緊迫感が示されました。気候テクノロジーは2020年代のベンチャー投資における新たなフロンティアです」と述べた。

「この変革を導くのに欠かせない技術やソリューションのいくつかは実証済みで、迅速な商業化が求められています。そこでベンチャーキャピタルが鍵となります。効果を上げる目的でスタートアップに何兆もの投資をする必要はないでしょう。しかし、より複雑な技術や市場においては、研究開発を推進するターゲットを絞った支援が政府からも含めて必要であり、アーリーステージを超えてから資本がますます集まります」と同氏は続ける。

同報告書によると、気候テクノロジーの成長を促す最大の要因は、モビリティと輸送、重工業、温室効果ガス(GHG)の回収と貯留に関係しているという。次いで、食料、農業、土地利用、建築環境、エネルギーと気候、地球上で生成されるデータなどが挙げられている。

TechCrunchの読者であれば、ここ数年起きている電動スクーターと電動自転車の戦いを知っているだろう。実際、このレポートでも、マイクロモビリティスタートアップへの投資は劇的に成長し、過去7年間でCAGR151%、気候テクノロジーへの全投資額の63%に相当する374億ドル(約4兆3950億円)に達していることが報告されている。

Exponential Viewの創設者であり、レポートの共同執筆者でもあるPwC UKのシニアアドバイザーAzeem Azhar(アジーム・アジャール)氏は次のように述べている。「気候テクノロジー市場は成熟しつつあります。より多くの起業家がスタートアップを立ち上げ、より多くの投資家がそれを支援し、高い拡大可能性を有するレイターステージの事業に向けた大型の資金調達ラウンドの数が増加していることが、社会的な動きとして顕著になっています。しかし、PwCの分析で、同市場のエコシステムに関してはまだ萌芽期にあり、創業者が利用できる資金の深さとその性質に重要なギャップが存在し、事業を拡大していく上で慎重に対処すべき構造的障害を抱えていることが認められました」

投資はどこから来ているだろうか。幅広い資金源から集まっている。伝統的なベンチャーキャピタルや持続可能性に特化したベンチャーファンド、エネルギー大手を含む企業投資家、世界的な消費財企業や大手テクノロジー企業、政府が支援する投資会社、プライベートエクイティプレーヤーなど多岐にわたる。

同報告書によると、このセクターではコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が増大しており、特にエネルギー、重工業、運輸などの参入障壁が高い既成産業への進出を目的とした高資本コストのスタートアップが目立っている。モビリティと輸送に関しては、気候テクノロジー事業の30%にCVCファームが含まれ、エネルギーに関しては、導入資金の32%がCVCからとなっている。全体では、気候テクノロジー事業のほぼ4分の1(24%)に企業投資家が含まれている。

「企業の関与は気候テクノロジーの継続的な成功の鍵となるでしょう。新ソリューションへの需要を駆り立てるネットゼロのコミットメントと、イノベーションの商業化への投資の両方の観点からそのことが言えます。スタートアップが新たなイノベーションを迅速に展開し、市場拡大を図るには、単に資金面の手段だけでなく、商業的なノウハウや業界の知識も必要です」とヘルヴェイェール氏は説明する。

気候テクノロジーへの新規投資において、アメリカと中国以外で上位10都市に入っているのは、ベルリン、ロンドン、ラベージュ(フランス)、インドのバンガロールで、主にエネルギー、農業、食料、土地利用分野で13億ドル(約1370億円)の資金を集めている。

おそらくTechCrunch読者に最も関係の深いセクションは44ページ以降だろう。そこでは、気候テクノロジー市場が、急成長を続けるテクノロジー系スタートアップの軌跡と似た様相を呈し始めていることが記されている。技術的リスク、製品リスク、市場リスクといった既存の障壁に対処しており、Sequoia、GV、Kosler、Horizons、YC、USVなどの有名なVCが揃って関与しているという。

また、300社ものグローバル企業が、2050年までにネットゼロエミッションを達成することをコミットしている。「気候テクノロジーは、地球の温室効果ガス排出量の半減を10年ほどで実現し、地球温暖化を1.5°Cに抑えることを見据えています。その可能性を確実なものとし、より迅速かつ大胆なイノベーションを構築し加速するために、資本、人材、官民の支援を速やかに投入する必要があります」とヘルヴェイェール氏は付け加えた。

関連記事:Googleは新たに18の再生可能エネルギー関連の契約を発表

カテゴリー:VC / エンジェル

タグ:環境問題 再生可能エネルギー

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。